ミメの伝説 アルウェン(1)
文字数 1,989文字
人々が気付くと、突然、そこに1人の少女が立っていたのである。ただ、その少女は間違いなく人間ではない。そして、それは誰の目にも明らかだった……。
彼女の北欧系の顔立ちは、薄い緑の目を大きく輝かせ、大空の1点を鋭く見つめている。そして、きっと結んだ口元が、何か、固く強い意志を顕わしていた。彼女の持つ直毛の亜麻色の髪は、毛先に近くまで来ると緩いウェーブとなって胸元まで伸びており、その髪の毛の間からは、人間にしては少し長く尖りぎみの耳が角の様にはみ出している。身に纏ったドレスは白く、薄手の生地で出来たものの様で、少しの風に軽やかに靡いていた。そして、その生地の背中の部分にはスリットが入って、そこから白い鳥の様な翼が飛び出している。それは……、頭上に光の環こそないが、人々に天使の姿を思い起こさせるものであった。
確かに、人間とは少し異なった容姿ではある。しかし、人々が彼女を人間でないと判断した理由はそこではない。
彼女は異常に大きかったのだ。恐らく身長は50メートルは優に越えていただろう。巨人と云うレベルを既に超越している。
不思議な出来事はそれだけではなかった。
直接であれ、画像を通してであれ、彼女の姿を見た人間には、彼女のメッセージが、直接、受け手の言葉として、心の中に伝えられたのである。
「この星は、今から私が支配します。全ての生物、無生物、思想などの無形物、それと、その他一切を含め、全ては私の支配下に置かれ、今後皆様には、逆らうことなく私の意志に従って頂きます。私は、アルウェン・フィ・ミメ。善為す
勿論、受け手の殆どは、それを認める心算などはなかった。その様な受け手には、続けて次のメッセージが送られてくるのである。
「不満がお在りでしたら、どなたのお相手でも致します。どの様な兵器でも、核兵器でも構いません。核汚染が不安だと云うことでしたら、月でお待ちしましょう。私は、そこで、お相手致します」
彼女の姿を見た各国の首脳は、それを単なる冗談だとは判断しなかった。某国が実際に核ミサイル攻撃を仕掛けたのである……。
某国首脳が、彼女と心の連絡を取り、月面に移動した彼女に、先ず1発のミサイルを発射した。しかし、その爆発は彼女の服を焦がすことすら出来なかった。続けて、某国は何十発もの核ミサイルを発射した。しかし結果は何も変わらなかった。
某国は保有するミサイルの全ては撃ちはしなかった。ここで全てを撃ち尽くしてしまうと、他国との武力比で大きく劣ってしまうことになるからである……。
「どうしたのです? これで終わりでは無いでしょう? もっともっと、幾らでも撃って来てください」
彼女は月に残って挑発を続けたのだが、その後は某国だけでなく、どの国からも攻撃が行われることはなかった。
暫くすると、彼女は再びアリゾナに姿を戻した……。
AIDS原当麻基地、航空迎撃部隊の面々にとっても、この事件は対岸の火事と云う訳ではなかった。だがしかし、彼らに出来ることは今の所、何も無い……。無いと思われた。それでも、時間があると、どうしても、その話題へと話が移ってしまう。
作戦室でも、彼女が単なる地球支配を目論む宇宙人との考えは少数派だった。
「だからさ、巨大だろうと何だろうと、美人は正しいの! 本人も言ってるじゃないか、善為す
「鵜の木隊員、それって、単なるルッキズム……、女性への差別だよ~。本人が支配するって言ってんだから、あの女は絶対侵略者に決まってるじゃん!」
鵜の木隊員と矢口隊員の意見は、多くの地球人の意見でもある。
「確かに、彼女は地上の兵器を消費させようとしているだけにも見える……。どう思うね、純一君は?」
沼部隊員が、純一少年に意見を求めた。大悪魔である純一少年であれば、また違った見方も出来ると思ったのだ。
「良く分かりませんね。侵略にしては実際の行動が何もないし、兵器を消費させているのだとしても、それが彼女に、どういうメリットを与えるのか……」
「彼女は、本当に平和の使者かも知れないな……。兵器を無くし、真に平和な世界を築こうとしているのかも知れない。言うなれば、現代の刀狩りだな」
蒲田隊長の意見も、一部地球人の中に多くみられた。それに対し、下丸子隊員が懐疑的な意見を出す。
「確かに兵器のある世の中は、平和な世の中であるとは言えないでしょう。でも、兵器を無くすだけで平和が来るか、保証の限りではないと僕は思いますね。
宇宙人は、我々が丸腰であっても、恐らく侵略を仕掛けて来るでしょうし、この間のベヘモットの様に、地球自身による侵略以外の問題が発生することだってありますからね。
武器の放棄は、自己防衛の放棄であると僕は思っています」
これも多くの人が考えていることだった。