ミメの伝説 現在(いま)を超える者(9)
文字数 1,894文字
この方法では、魔法波動は距離の2乗に反比例し低下してしまう。外殻が厚いとは云え、この核の内側だけでも未だ相当の広さがあるのだ。だが、残りは数えるばかり。後は虱潰しに蹴散らそう……」
盈はこの結果に充分満足をしていたが、有希はそうでもなかった。
「いいえ。時間を掛けると、スペースレビアタンは『超無窮動』で再生できなくなっている傷口を、自分で削り取って再生を始めるわ。私たちが敵の側まで移動している間にも、奴らはどんどん再生していく……」
「だが、他に方法が無いではないか……」
「そんなことないよ。今のはテストだもん。今度こそ、一気に蹴散らすよ!
盈さん、耀子さん……。もう一度、私に力を貸して!」
「しかし、エスナウ……。
これをもう1回しても、敵との距離が変わることはないのだぞ……。全てを凍結させるのは、もう不可能なのではないか?」
「盈さん、私を信じて……」
「分かった……」
盈の一言で、三悪魔は再び同じ体勢となり『極光乱舞』の呪文を唱え始める。
「呪文の開始は少し待って! 見て、あそこが見える? いいえ、感じられるかしら?」
有希の言葉に、三悪魔はそれに注意を向けた。勿論、ブースターの体勢にある今の有希に、それを指し示すことは出来ない。しかし、有希が何を言っているかは明白だった。
とは言っても、実は3人は、それぞれ別の方向を見ていたのではあるが……。
「かなり遠いけど、あれが何か分かる?」
「あれは……、私たちだわ。私たちがあそこにもいる」と耀子が呟く。
「そう、私たち。あっちの私たちになれば、こっちの私たちを感じることが出来る……。
私がミラーリングの呪文『鏡像分離』を掛けたの。これで、私たちの上下前後左右50キロ先に、壁の内側で、かつ私たちが存在しないと云う条件で、そこに私たちが複写されるわ。
その複写された私は、『鏡像分離』をそこで唱える。そうやって、この核の中では私たちが、次々とミラーリングされて行く。
これで一斉に『極光乱舞』を撃てば、全てのスペースレビアタンを、一気に凍結させることが出来る!」
だが、耀子はこの作戦への疑念を覚えた。そして、それは、盈も同様に感じた不安でもあった……。
それを盈は、有希に問う。
「確かに、この状態で『極光乱舞』を撃てれば、全ての遺伝子を凍らすことが出来るかも知れない。だが、これだけの数の『極光乱舞』の魔力は何処から供給されるのだ?
私たちに、これだけの数の『極光乱舞』を撃つ魔力など何処にも無いぞ……」
「それなら心配要らないわ……。
悪魔能力と違って、魔法は魔法使いが直接エネルギーを供給している訳ではないの。魔法はあくまで、異界からのエネルギー回路のチャネルを開いているだけなのよ。そして、呪文とは、チャネルを開く脳波の電子パタン……精神状態を造り出す為の自己暗示手段に過ぎず、覚えられる呪文の数が個々の持つ魔法力として認識されているの……。
本体が単純にコピーされる『鏡像分離』では、本体と同じ動きしか出来ない代わりに、精神状態も本体と同一になる。だから、今回の場合、本体分の呪文数しか消費しないわ。
現に『阿修羅』状態での『
「成程……。そう云うものなのか……」
正直、もう、ついて行けそうにない。盈は取り敢えず、納得だけして置くことにした。
さて……、
三悪魔にも、自分たちがどんどん複写されているのが分かる。中には複写して直ぐ、スペースレビアタンに光線砲を撃たれて消失している者たちもいた。だが、それより早く、コピー達は次々とこの閉ざされたファージの空間をドミノ倒しの様に埋め尽くしていく。
空間は広い。それでも、複写は次々と瞬時の内に行われ、あと10分もしないうちに、彼らのコピーで満たされるだろう。
三悪魔は『極光乱舞』の呪文を唱え始め、有希は『阿修羅』を唱えた上で、必要な補助呪文を唱えて最終攻撃の準備を開始する。
ふと、純一少年が何かに気付き、耀子に疑問を投げ掛けた。
「しかし、これじゃ僕たちも、向こう連中の『極光乱舞』を受けて『超無窮動』で消滅しちゃうんじゃないのか?」
だが、彼の疑問に、耀子は何事でもない云った表情で全く取り合おうとはしなかった。
「テツ、それでは何か不満か……?」
「いや、別に……」
そして『
「名付けて『極光乱舞 全球凍結』!
さぁ撃って!」
有希の合図で、三悪魔は何も躊躇わず『極光乱舞』を放った。