有希の冒険 模造品(1)
文字数 1,864文字
貴賓席(最前数列分のエリア)の正面中央には、政木の大刀自とその配下の狐侍たち。
宇宙人方貴賓席の最後列に座るのは、黒いコートのフードを目深に被った3人の宇宙人の戦士。そして、貴賓席の後方にある一般市民席のエリアには、応援に回った狐を始めとする妖怪の一団が陣取っている。
一方、反対サイドには、風花、
この応援団であるが、宇宙人サイドには人間界侵攻を推進する妖怪が座り、有希のサイドには、人間界侵攻に反対する妖怪が陣取っている。
まぁ基本的には、こう云う図式であるが、単純にそれだけと云う訳でもない。
政木家の美しき闘うプリンセス
そう……。
この闘いは、妖怪層の未来を決める決闘であると同時に、妖怪たちにとって、ある種エンターテイメント的な催し物にもなっていたのである。
午の刻の鐘。双方の戦士がアレーナと呼ばれる闘技の場へと現れて来る時が来た。
先ず有希の側の先鋒、風狸の風花が観客席からアレーナを囲む3メートルもの高さのフェンスを跳び越え、一気にアレーナの中央に登場する。
宇宙人の側は、フードを目深にかぶった3人のうちの1人で、肩にぐったりした女性の体を担いでいる奴らしい。
その宇宙人は立ち上がり、ゆっくりと円形闘技場の観客席の階段を降りて行く。だが、宇宙人自身はアレーナに入らない。宇宙人は観客席の最下段まで来ると、その肩に担いだ人間をアレーナに投げ入れた。
その投げられた人間は、風花の近くまで飛び、そこの地面で弾んだ後、転がり止まった。風花はその身体が当たって怪我しない様に数メートル後ろに跳び退く。
「何の心算?」
風花の質問に、宇宙人は無言のまま、そのフードを取り去り、髪を直した。その中の顔、それは紛れもない風花の姉、
その
多くの観客たちが、その
「あなた誰? それに……、闘わない気? 逃げるの?」
宇宙人側の
「私は
風花は呆然とその宇宙人を見送った。そして、宇宙人が席に着くのと同時に遺体が動き出すのを見て、風花はその大きな目を一層大きく見開く。
宇宙人はゆっくりと立ち上がると、体に着いた砂ぼこりを軽く
有希はその顔を凝視し、風花以上に大きく目を見開いた。そして悪魔の能力を駆使して敵の正体を確認する。もし、万が一それが事実であれば、大変なことになる。
そして、それは間違いではなかった……。
有希は風花に向かって大声で叫ぶ。
「風花、ギブアップして! あなたじゃ、この人には敵わないわ!!」
「あら? 有希ちゃんは、ああ言っているわよ。どうする?」
動き出した宇宙人は、笑みを浮かべながら風花に問う。だが、風花は、降伏を勧める有希に向かって大声で拒否の返事を返した。
「何言ってるのよ、有希! 宇宙人って言っても、相手は人間よ。私が負ける訳ないじゃん。それに、これは戦争よ、戦士3人ずつしかいないけど……。
だから、この闘いは、どちらかが相手を殺すまで終わらないわ。ギブアップなんてない! 負ける時は、私が死ぬ時よ!!」
「風花、駄目よ!!」
もう、有希の目には涙がいっぱい溜まっている……。
有希の言葉を、風花はもう完全に無視している。仕方ない……。有希は相手の女性への説得を試みることにした。
「耀子叔母さん、どうしてこんなことしているの? なんで、あなたが宇宙人なの? それは後でいいわ、風花を助けて、お願い!」
そう、その姿は父純一の妹……、
大悪魔、藤沢耀子その人であった……。