ミメの伝説 アルウェン(4)

文字数 2,052文字

 鵜の木隊員は、アルウェンに向かって抜き撃ちに数発発砲した。それと間髪入れず、純一少年が一気に間合いを詰めて右の正拳で攻撃を加える。
 しかし、鵜の木隊員の銃撃は、少女に命中したもののダメージを与えることが出来ず、純一少年の突きは軽く横にすかされる。
 そのまま純一少年は、後ろ廻し蹴りで相手の顔面を狙ったが、これも少女に両手を交差されて防がれ、ダメージを与えられない。
 純一少年の体が、そのガードの反動を受けて吹き飛んだ時、その出来た隙間から、月宮盈が溜めていたエネルギーで光線弾を少女に撃ち込む。しかし、これも命中している筈なのだが、少女は全く何事も無かったかの様に平然としている。

 蒲田隊長はどれも攻撃は無駄と判断し、前に出て両手を広げて皆の攻撃を静止した。
「君は何者なのだ! 何の為にここに居る? いや、それより先ず、何の目的で地球に来たのだ?!」
「それをお話しすると言ってますのよ……」

 少女は軽やかに笑うと、彼女の目的を説明し始めた。
「私は1つの敵を滅ぼす為に、この星にやってきました……」
「敵?」
「ええ、ファージと云う敵です。今は太陽系の遥か彼方にありますが、数日もすれば、海王星の軌道付近にまで接近するのではないかと思っています」
 少女は、ホワイトボードに歩み寄り、マーカーを使って、月着陸船を上下に引き伸ばした様な不思議な物体の絵を描いた。
 頭は3角形の平面を組み合わせた正多面体の形をしていて、首の下には工具の柄のような円柱形の手の無い胴体があり、底部にはスパイクを持った円盤状の蓋がそれを支え、昆虫の足か、針金細工のような細い足がそこから6本、等間隔に生えている。

 月宮盈が少女に尋ねた。
「お前ほどの化け物なら、どんな奴でも直ぐ倒せるのではないか?」
「相手は恐ろしい怪物です。全長は地球の直径と同じくらいあります」
 それを聞いて、ここにいる全メンバーは頭を抱えた。最近の怪物は、どうして、こうもサイズが馬鹿デカ過ぎるのだと……。

「奴は太陽に憑りつきます。そして、そこに遺伝子を注入し、太陽のエネルギーを全て奪い、自らと同じ形態の子孫を何十体も転生させるのです」
「何よそれ?」と、美菜隊員が声を上げる。
「そんなこと可能なのか? 表面温度だけでも6000℃はあるぜ……」
 鵜の木隊員も驚きを隠せない。
「大悪魔も、同じ様に熱エネルギーによって転生できるのでしょう? ファージも恒星の熱エネルギーに焼かれることに由って、新たな生命として復活できるのです。この転生する能力があると云う点で言えば、ファージも大悪魔の一種なのかも知れません……」

「僕たちは、太陽エネルギーを奪ったりはしない!」
 純一少年はそう反論する。しかし、これは仲間の大悪魔から反対意見が出た。
「いや、我々の転生も太陽エネルギーを利用することがあるし、その際、エネルギーを消費している。唯、太陽が燃え尽きる程の量ではないと云うだけに過ぎん……。
 そんなことより、いくつか疑問がある。それを説明して貰わなくては、お前の言うことなど信用することは出来ない!」

「何でしょう?」
「そのファージとやらの質量は、どれくらいなのだ? それだけ巨体で硬質の物体だとしたら、相当の質量だろう?
 それが、他の天体の引力に捉えられず、太陽に向かうなどと云う話……。到底、納得することは出来んな……」
「質量は略ありません。ですが、重力は自由に操れます。これにより、進行方向にある天体が転生可能な熱源であれば、重力を正にして近づきますし、熱量が不足していると判断すれば、奴は重力を負にして遠ざかります」
「はぁ? 理解出来ない……。
 だ、だが、仮に質量が零とした場合、今度は慣性も零と云うことになるな。だとしたら、太陽風に因る影響で、太陽に近づくことなど不可能なのではないか?」
「ファージに太陽風のプラズマ粒子が当たると、反対方向に押し出されるのではなく、核力の様に近づく方向にエネルギーが与えられます。ですから、太陽風があると奴は自然とそちらに方向を変えていくのです」
「何を言っておるのだ? 私には、お前の言うことが全く理解できない……」
「理解などして頂かなくても結構ですよ」
 次の瞬間、少女は瞬間移動の様に高速で移動し、頭を抱えて首を振っている月宮盈の額に、右手の人差し指をあて「パレイドリア」と唱えていた。
 すると、盈の動きが止まり、彼女は目を見開き脂汗を流し出した。少女はそれを見ながら少し意地悪そうに微笑んでいる。

 そして、1分もしないうち……、
「わ、分かった……。降参だ……。お前の言うことは、何でも聞く……」
 月宮盈は簡単に白旗を揚げた。
 少女はもう一度盈の額に人差し指を当て、盈に施した術を解いた。すると、盈はマラソンでも走り終えたかの様に、前屈みになって、不足した酸素を取り戻すべく深呼吸を繰り返し続ける。

「では、服従の証として、私の指示に従って貰います……。
 月宮盈。ここにいる全員を殺しなさい。あなたなら出来る筈です。鉄男君も含めて」
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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