有希の冒険 最後の切り札(1)
文字数 1,501文字
係の狐侍が耀子の遺体を片付け、闘技場を整備し直しても、有希は全く闘いを始めようとはしなかった……。
「どうした? お前が闘わないなら、こっちから行くぞ!」
耀公主は、有希の頬に右のパンチを食らわせる。有希はその1発で吹き飛ばされ、ダウンを奪われた。
「有希。何故、態と『皮膚硬化』をしない。今のが質量を増加したパンチだったら、お前は即死だったぞ」
有希は無表情に起き、ふらつきながらも立ち上がった。そして、母の姿をした耀公主に不満の言葉をぶちまける。
「殺せばいいじゃない! 盈さんが殺したいのなら、私を殺せばいいじゃない!!」
「有希!」
「私が死ねば終わるんでしょう? それでいいわよ。もう沢山だわ!!」
「有希、お前……」
「もう、どうでもいいわ。ここで勝っても、パパもママも誰もいない。耀子叔母さんもいない。盈さんだって、昔の盈さんじゃない。おかしいよ、
「闘え! 有希、私と闘え! お前は父と母の仇も討たずに死ぬ心算なのか?」
「闘うのなんて、嫌だよ。もういいよ……」
その時、有希の心に、父である純一の気配が感じられた。
「闘え、有希……」
有希が驚いて心を澄ますと、今度は叔母の声が聞こえて来る。
「闘いなさい、有希ちゃん……」
「でも……」
「別に、盈さんを憎む必要などないわ。でも、あなたが闘うのは義務なのよ。大悪魔としての……」
「そんなのどうでもいい。私、やっぱり人間の方がいい……」
「有希、お前が闘わないと、全てが失われてしまうんだ。それが終わったら、人間として生きれば良い。でも今回だけは、パパと一緒に、悪魔として命を賭けてくれないか? この世界の全て生き物たちの為に……」
「パパ?」
美菜の姿の耀公主が、両拳の指の骨を鳴らしながら、徐に有希に近づいて来る。
「何を話しているんだ? こんな時に……」
「盈さん、本当のことを言って。この闘いって、一体、何の意味があるの?」
「ん……。ま、仕方ないか。あいつ等、私以上に演技が下手だし、有希は勘がいいからな。もう隠す必要もあるまい……」
彼女は諦めた様にそう言ってから、有希にこの一連の出来事の説明を始める。
「そうだ、お前の思っている通り、侵略なんてのは全て嘘っぱちだ。第一、この時空に人間を連れて来るなんて、どうやってやるんだ? 1人1人憑依して運ぶのか?
馬鹿馬鹿しい……。
この小芝居はな、お前が私たち3人と本気で闘える様に拵えた単なる設定……、創作に過ぎない……」
「私と盈さんたちが、本気で闘う為?」
「ああ、少し長い話になるが、我慢して聴いてくれ……」
盈は闘いの理由を有希に語りだした。
「今から20年ほど前、地球、いや太陽系に未曽有の大危機が訪れたのだ。その危機を救ったのが、私の魔法の師匠アルウェンだ。
アルウェンは私、お前の父、耀子の3人を連れ、その敵と戦った……」
「パパたち3人に、魔法の師匠を加えて? 楽勝じゃないの?」
「有希、口出しを我慢しろと言ったろう?
まぁ良い。この戦いは決して楽勝ではなかった。何しろ、相手は惑星の様な奴だったからな……。私たち4人だけでは、残念ながら力不足だったのだ。
それで、師匠はもう1人、最後の切り札である大悪魔を召喚した。結局、私たちはその大悪魔の力に由って、その敵に勝利し、太陽系は救われた……」
「最後の切り札?」
「そうだ。そいつは師匠が最後に、アルウェンの魂と力を封印した、将に最強の大悪魔だったのだ……」
「そんな人、いたの?」
「その時はいなかった。師匠は未来から、その大悪魔を召喚したのだ。もう分かったろう? その大悪魔とは誰のことか……」
「そんな……」