有希の冒険 模造品(7)

文字数 1,238文字

 純一はまず、手首に巻き付いている黒いロープの持主にクレームを付ける。

「有希……。突然乱入するのは狡くないかぁ? まぁ別に、パパはお前たちが2人同時に掛かって来ても構わんけどな……」
 有希は狡いと非難され、恥ずかしそうに俯きロープを外した。彼女は日頃から、狡い行いは許せないものだと考えている。今、彼女はそんなこと考えもせずに、感情の赴くまま、戦場に跳び降り、純一に指ロープを伸ばしてしまったのだ。

 一方、身を呈して純一の攻撃を遮った狐侍、 政木の大刀自の養子にして、政木家の次期当主、政木大全は頭を低く下げ、純一に慈悲を乞う。
「新田様……。この勝負、あなた様の勝ちでござります。ここは何卒、慈悲を持って、その太刀を収めて頂けませんでしょうか? この愚か者の顔に免じて何卒!」
「父上!」
「大全さん……」
 狐侍、政木大全の言葉に純一も剣を持つ力が抜ける。彼の知る大全ではないとは云え、政木大全は何度か一緒に戦った戦友なのだ。その必死の懇願を無視するのは、純一としても簡単なことではない。

 しかし、沼藺(ぬい)は、彼女の持つ最後の気力を振り絞った。
「父上、お退き下さい。新田さん、もう終わりにしませんか?
 邪悪な狐ですか……。
 必死になって民を導き、人間世界との架け橋になろうとし、妖怪と人間が共に幸せに暮らせる世界を築こうと日々努力してきた心算でしたが……。所詮は妖怪。人間から見れば邪悪な魔物でしかないのですね……。
 そう言われてみれば……、
 確かに、私はこれまで政木家を継ぐ者として、後ろ指を指されまいとして生きて来ましたが、それは即ち、血の繋がらない私が、政木家を乗っ取ろうとしていた行動であることに他ならないのでしょう……。
 私の毛色は黒い。政木の一族はどの様な身分の者でさえ、毛色は金か白です。きっと、私の内に秘めた邪な心が、毛色を黒に変えているのだと思います。
 新田さん、その降魔の利剣で私の邪心を切り裂いてください。それで私の魂は、浄化されることでしょう。私の命と共に……」

 それを言い終わった時、大全のその前に別の姿があった。人間に変じた政木の大刀自である。彼女は純一に深々と頭を下げて、沼藺(ぬい)の助命を願った。
「要殿、申し訳ございません。私からお願いしたことでござんすけど、もうこれ以上は見ていられません。もう良いのです。この娘を、このままにしてやって下さい。お願いします」
「おばあ様、政木の大刀自様ともあろうお方が、私などの為に頭を下げる必要などありません。私を殺して、別の新しい養女を迎えれば良いではありませんか? 元々、私は政木の大刀自とは何の血の繋がりもない……」

 その言葉が言い終わらないうちに、純一は沼藺(ぬい)へと近づき、彼女の頬を打った。この闘いで初めて純一は本気で沼藺(ぬい)を打った。それは重力操作も何もない平手打ちだったので、ダメージこそ無いが、彼の本気の一打だ。
沼藺(ぬい)……。君は政木と繋がりが無いことなどない。君は政木家の者だ。君は政木の大刀自の実の娘なのだ……」
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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