有希の冒険 模造品(3)
文字数 1,774文字
耀子の攻撃が命中する度に、風花は地面に崩れ落ちた。そして、1人ではもう立ち上がれない風花を、耀子はまた髪の毛を掴んで無理矢理立ち上がらせ、再びボディに拳をぶち込む。耀子はもう、この攻撃に徹することにした様だった。
風花は意識があるのかないのか、もう本人にすら分かりはしない。
その繰り返しが10を超えた辺り……、耀子が風花の髪を持ち彼女を引きずり上げた時、体を細かく震わせていた
「助けて。妹を助けて……」
「おい、聞こえんな? 何か言ったか?」
「助けて、風花の命を助けて!」
耀子は指の皮をロープに変え、それで
「おい、それがお願いする態度か?
そう云う時は両手を突いて、頭を地面に擦りつけてお願いするのが筋ってものだろう?
それとも、政木のプリンセスには、そんなこと、プライドが許さないかな?」
耀子は風花を左手でぶら下げたまま、
それを終えた
「お姉ちゃん、止めて……。お姉ちゃんはそんなことしちゃ駄目。私なんか、狐と違う風狸なんだから……、お姉ちゃんがそんなことする価値なんて無いよ……」
耀子は風花の言葉を聞いて、再び
「妹はああ言っているぞ。どうする? 血の繋がらない風狸なんかの為に、大切なプライドに泥は濡れないよな……。どうだ? 止めるか?」
「血の繋がりなんか関係ない。風花は大切な、1人っきりの妹よ!」
そういう
「ほう、本当かな? では、この大観衆の前で四つン這いになり、3遍廻って『ワン』と言え。狐の姿などでするなよ、それでは当たり前だからな。人間の姿のままでだ……。
『コン』ではないぞ、『ワン』だ!」
「良くやるな……。自分の身内可愛さに、そこまでやるとはな……。本当にプライドは全て捨てたらしいな」
「おお、そう言えば、先ほど私は狸の糞を踏んだのだ。酷い所だな
済まないが、靴を綺麗にしてくれないか?
お前の舌で。靴の底まで舐めて……」
耀子は
「耀子叔母さん! いくら何でも酷い!」
「有希ちゃんは黙ってなさい!」
有希のクレームを、耀子は一喝する。
「さあ、舐めろ。それとも止めるか? あるいは隙をついて私を騙し討ちにするか?
どれを選ぶもお前の自由だ……。
親切だろう? 選択の余地を与えたのだ」
「これを……、舐めれば……、風花を助けてくれますか?」
「助かるかは分からんぞ。だが攻撃は止めてやる。こいつのギブアップを認めよう。そして、これが最後だ。お前に『次の闘いを態と負けろ』などと言ったりはしない。どうだ? 政木のプリンセスが、妹可愛さに、狸の糞を舐めるか?」
この状態で
それは唯、狸の糞を舐めるだけのことではない。彼女のこれまで培ってきた、全てを捨てることだった。政木のプリンセスだと家来や領民に模範を示してきたが、これからは『狸の糞の舐めた姫様じゃ』と言って馬鹿にされ、蔭口を叩かれ、言うことも聴かれず侮られるに違いない。
もし仮に、それが領民の命を救うものなら、領民から神と崇められもしよう。だが、これはあくまで身内を助けると云う私事に過ぎない。そんな私事では、誰も同情などしてはくれないものだ……。
「でも、それでもいい。自分は風花を助けたい。全てを捨てても……」