悪魔たちの休日(5)
文字数 2,084文字
「有希ちゃん、素敵なお友達ね。ママ、安心しちゃった」
「うん、彼もママたちに逢えて、とても喜んでいた。ママ、そしてパパ、どうもありがとう。これまでずっと育ててくれて……」
それを聞いて、美菜は何故か感動のあまり目を
「おいおい、嫁ぐ日って訳じゃないんだぜ。そこまで……」
しかし美菜は、純一の言葉など全く聞こえていない様子だった。
「有希ちゃん。ママ、有希ちゃんがこんなに立派に育ってくれて嬉しい!」
「ママ。有希はまだ子供だよ。でも、ママが有希のこと、大人になったって感じてくれたのなら、ママのお蔭だよ。ありがとう!」
「有希ちゃん!」
純一には、どうも、この2人の世界観が理解できない。
「あのね、2人とも……」
しかし、美菜、そして有希も、純一を無視し続けている。
「盈さんが生きていたら、私のこと喜んでくれたかなぁ?」
「うん、絶対……。
盈さんは有希ちゃんのこと、目に入れても痛くない程、可愛がっていたもの……。きっと、今も天国で喜んでくれているよ……」
「あのね……、2人でそう云う世界に浸っているのは勝手だけど、耀公主は死んでなんかいないよ」
あきれ顔でそう言った純一の顔を、美菜も有希も驚きの表情で見つめている。
「でも、あたしたち、あなたの時空まで行って、月宮盈さんのお葬式に出席したのよ。あたしなんか、有希ちゃんに憑依して貰って、やっと行きつけたのだから……」
「パパ、変なこと言わないでよ。盈さんは、事故だったとは言え、私のせいで死んでしまったのよ……」
「だから、あれは月宮盈のお葬式。要のおじいちゃんとおばあちゃんが、嫁と孫に会いたいって言うものだから、いい機会だと思って連れて行っただけだよ……。でも、耀公主は死んだりしてないよ」
「え?」
「盈さんは耀子と同じで、死んだ振りとか、そう云う事やって、人を脅かすのが趣味なんだよ……。
だから、あの時も結局、誰も死なない様にシナリオが書かれている。まぁ1人、なんとか言う人間のハンターの親分は、耀子が怒りに任せて斬り殺しちゃった様だけどね……。
ほら、武闘会の後、有希も耀公主のメッセージを聞いただろう?」
「え? 私、あの後、寝込んでて、何も聞いてないんだけど……」
「あれ? そうだっけ?」
純一は、あの時の記憶を辿った。
そう言えば、有希は両腕の怪我の為に安静にしてたので、メッセージを聞いていなかったかも知れない……。そして、誰もそれを伝えていない様だった。
「何か……、有希に……、伝え損なっているみたいだなぁ……」
「パパ!」
有希は立ち上がって、純一に詰め寄る。
「ご免、ご免」
純一はいつもの調子……。口だけは謝罪の言葉を発するのだが、全く悪びれる素振りを見せない。
「耀公主によると……、」
純一は折角なので、月宮盈に変身し、彼女の口調を真似て、その時のメッセージを再現し、2人に見せることにした……。
盈の姿の純一は2人に語る……。
「私も年だ。悪魔として闘うことはもう出来ない。幸いなことに、自分の時空では二代目耀公主が存在するし、不安だったこちらの時空には、新たに信頼できる大悪魔が誕生した。もう、いつ隠居しても問題は無かろう。
だから、今回のミッションを最後に、私はまた長い眠りに入ろうと思う……。
だが、これが最後ではない。
確かに、私の時空には耀子が存在する。私が闘う必要はもうない。悪魔の襲来にも、耀子なら決して負けることはないだろう……。
しかし……、私はあの時空の地球に特別な思い入れがある。あの地球には、私の大切な人が眠っているのだ。私はあの地球をいつまでも見守っていたいのだ。
だから、私はあの時空に戻って、あの時空にある
私は自分の地球を見守り続ける。もし地球に大悪魔襲来の危機が訪れた時は、私は復活する。仮に耀子が守っているとしてもだ。そして、それは、世界が消滅するまで続けて行く。私はそうしたい。
さらばだ。元気でな。純一、耀子、そして有希……。お前たちがいて、本当に楽しかったぞ。だから、つい長居し過ぎてしまった。
だが、もう潮時だ。私は24時間地球を見守っている……。さらばだ……」
純一は月宮盈の姿から、元の新田純一へと姿を戻した。
「と言うことだ。彼女は向こうの時空が危機になった時、また誰かに憑依して闘うのだろう。決して彼女は死んではいない。彼女は何時でも復活することが出来るからね」
それを聞いた美菜が、ふと頭に浮かんだ疑問を口にする。
「でも、耀公主の
「そんなの決まってるじゃないか。彼女が言っていたろう。四六時中ずっと地球を見続けるって。そんなことが出来るもの。あれしかないさ……」
純一は窓を指差した。その東向きの窓の外には、陽が沈んで暗くなってきた夕暮れ空に、真っ赤に耀く巨大な天体、盈月がボンヤリと浮かんでいたのである。