有希の冒険 最後の切り札(4)
文字数 1,127文字
しかし、それを有希の我儘と云うのは、彼女が悪魔と云えども可哀想だろう。有希は、この理不尽な状況に必死に耐えているのだ。
「私、闘わないよ。殺したいなら殺せばいいじゃん。世界なんか滅びればいいじゃん。そんなの知らないもん。私だけが、そんな責任負うのって不公平だもん。
それに、もし覚醒できたとしても、どうせ私じゃ勝てないもん」
「有希!」
有希のほんの
闘技場の中央で、何やら無言で睨み合ったまま、一向に闘おうとしない2人に、観客も
その時……、
有希は心の中で、また別の声を聞いた。
それは、目の前の盈の声ではない。純一でも耀子でもない。それは他ではない、有希自身の声だった。
「闘って、有希!」
「やだよ……。
どうせ私、もう1人ぼっちだし……」
「ママは生きているよ」
「本当?」
「うん。でも、有希が覚醒して、あの化け物を倒さないと、ママもパパも、世界中の
「でも、ママが生きていたら、私、覚醒出来ないんじゃないの?」
「そんなことないよ……。あれは盈さんが、ママが生きていると、有希は甘えて本気で闘わないと思って、嘘を言っているんだよ」
「本当?」
「私が私に嘘言う筈ないじゃん。
復讐とか憎しみとか無くたって、私たちは本気で闘えるよ!
ママが生きていても……。
ウンウ、ママが生きているからこそ、ママを守る為に、本気で闘えるんだよ!」
「でも、ママを傷つけちゃう……」
「大丈夫だよ。あれは本物のママじゃない。本当だよ。信じて……」
「分かった! 闘う。一緒に闘おう」
「私は未来の有希だから、一緒には闘えないんだ……。でもね、私は信じているからね。少し先の未来で待ってるね。
じゃぁ、また後で……」
有希は我に返った。
轟々たるヤジの中、目の前には美菜の姿をした耀公主の困惑した姿がある。そして今、有希の心の中には有希しかいない。
彼女は1人思う。
今、すべきことは、目の前にいる魔法の師匠を倒し、安心させること……。
それから先は、その時考えればいい。
「盈さん。私、闘う。そして覚醒する。
だから……、私が覚醒する前に、盈さんが死んだりしないでね……」
「言うじゃないか……。お前こそ、私に簡単に殺させるではないぞ。私が本気で闘うにしてもだ……」
美菜の台詞の終了が、闘いの開始の合図となった。2人は相撲の立ち合いの様に、同時に相手に突進し戦闘を開始したのである。