ミメの伝説 アルウェン消滅(3)
文字数 1,725文字
「不味いな……。こちらには火器を何も搭載していない。それに相手に構っている時間的余裕もない。仕方ない。どんなに攻撃を受けても、無視してすれ違うぞ!」
沼部隊員が、蒲田隊長に策を進言する。
「隊長! 俺が何とかします。兵器の搭載が無い以上、もう戦闘機の体当たり作戦しかないでしょう?」
「沼部、カミカゼなんてのは戦術じゃない! それだけは許さん!!」
「特攻が戦術じゃないってのは、俺も同感ですがね。下丸子が言ってたじゃないですか? ジズには戦闘機自動指揮システムが搭載されているって……。
俺だって、自爆攻撃なんかをする気は無いですよ。それだけはやっちゃいけないってのは、AIDSの基本理念の1つです。沁みついた考えってのは、簡単には変えられないものですからね……」
蒲田隊長はそれを聞いて考え込む。
確かに戦闘機自動指揮システムは、隊長機ですら戦闘機にパイロットが乗っていない。それなら体当り攻撃も無しではなかろう。
「隊長、敵艦隊からの共通回線での通信です。正面モニタに切り替えます!」
通信オペレータを担当していた、矢口ナナ隊員の声が響く。そして、次の瞬間に正面の巨大なモニタに、地球人としか見えないトルク星系人の姿が写る。
「地球人に告ぐ。我々は……」
「時間が無い。矢口隊員、我々はそちらの相手をしている時間など無いと伝えてくれ」
蒲田隊長の声が直接伝わったのだろう、相手がそれに答えてきた。
「我々は、地球人への恨みを晴らす為に、君たちと戦おう云う訳ではない。君たちを支援しようと云うのだ」
「我々を騙そうとしているのか? まぁどうでもいい。地球のことなど今は気にしていない。勝手に侵略でも何でもしてくれ。我々は急いでいるのだ!」
「ファージのことだろう?
しかし、そんな速度では、君たちが奴に会う前に、奴は太陽に憑りつき、とっくに分裂してしまっているぞ」
「どうして、それを?」
「知らない方が不思議だろう? この宇宙の危機なのだ。アルウェン様が、この太陽で奴を駆除することを選んだのだ。ならば、我々も微力ながら協力する」
「信じていいのか?」
「くだらない質問だな。信じるかどうかは君たちが決めることだ。もし、我々を信じないと言うのならそれでも良い。我々は、我々のみでアルウェン様の支援に向かう」
「分かった。間に合わなければ、太陽系そのものが滅びるのだ。我々が撃墜されようが、地球が滅ぼされようが、もうどうでもいい。それで、どうするんだ?」
「ここから太陽の手前まで、それと太陽の手前から反対側に火星軌道付近まで、それぞれワープトンネルを敷設した。そこを通れば時間は大幅に短縮できる。もし良ければ、それを使ってくれ」
「分かった……。有難く使わせて貰おう。
さあ、誘導してくれ。で、君たちはどう支援するのだ?」
「まず、ファージの進行を妨害する。そして、防衛ラインを超えた場合は……」
「超えた場合は?」
「太陽を破壊し、燃焼を停止する……」
この発言に、いつも冷静な下丸子隊員が大声を上げた。
「ふざけたことを言うな! 僕たちの太陽だぞ! 簡単に壊されて堪るか!!」
しかし、それを抑えたのは、地球側の蒲田隊長だった。
「それは仕方ないだろうな……。
ファージを繁殖させる訳にはいかない。最悪、我々の星系が滅びようともな……」
そして、トルク星系人に問う。
「で、防衛ラインとは、何処なんだ?!」
「金星軌道だ。それ以上は待てない。アルウェン様を信じてはいるが、太陽に着く前にファージを退治できる保証はない。
太陽さえ消滅させれば、最悪、この太陽での増殖は阻止できる」
「分かった……。では、ワープトンネルに案内してくれ。勿論、君たちもファージの進行妨害をしてくれるのだろうな?」
「勿論だ。既にそう言ったと思うが……」
通信はここで終了した。
数分後、ジズはトルク星系人の誘導に従って、ワープトンネルの暗い穴倉へと進んで行く。宇宙空間では、暗黒のトンネルと通常航行に大差はない。それでも、AIDSクルーは未知の空間への突入に、言いしれぬ恐怖を感じていたのであった。