ミメの伝説 偽りの伝説(3)
文字数 1,917文字
「伝説なんて、そんなものです。
何人もの若者が、ミメの遺志を継がんと冒険の旅に出ました。でも、冒険とは安全なものではありません。それを卑怯な行いもせず、正々堂々と行動し、生き残るなど至難の技です。それで何人もの若者が、次々と命を落としたとのことでした。
ですが、ある女性の候補者が、一応の成果を納めてフィの村に帰って来たのです。彼女の名はミコと言いました。彼女はその栄誉により、フィの村の女王と云う名誉職に就きました。実際の政治は長老たちが行っていたとのことなので、本当の名誉職だったのだと思います。
それでも、彼女と彼女の夫は良く出来た人で、フィの村は暫く平和な時代が続いたとのことでした。その間は当然、ミメの冒険者もおりませんので、死んでいく若者も在りはしません。そうして時が経つと、村は国と云える規模に発展していきました。
問題は、この夫婦が亡くなってから発生したのです……」
アルウェンの言葉に耀子は息を飲む。
「ミコ夫妻には1人息子があったのですが、彼は両親ほど賢くも謙虚でもありませんでした。そして、そう云う者には、必ず佞臣と云う輩が集まってくるのです。
彼は国政の支配を望みました。国民もミコ夫妻のことを愛しておりましたので、彼が王となることを拒みはしませんでした。しかし、彼が国を支配したかったのは、自分が贅沢をする為だけだったのです。ですから、彼に直言するものを遠ざけ、佞臣を周りに侍らせました。
この為、国は徐々に荒れていきました。
そして結局、革命と言うか、反乱が起こり、彼と佞臣は、国民に拠って倒されてしまったのです」
「どこにでもある話にしか聞こえんな……」
盈が詰まらなそうに口を挟む。だが、アルウェンは敢えて否定はしなかった。
「ええ、どこにでもある話です。当時はミメと云っても、小さな山村の、ちょっとした流行の冒険ごっこでしかありませんでした。ミコの時代になっても、それほど大きな違いはありません。そのミメも、ミコ時代の混乱から、暫くの間はミメと名乗ることはダブーとされ、冒険者も現れては来ませんでした。
しかし、時が経つにつれ、ミメを懐かしむ者が出てきて、新しいミメの時代がやって来るのです」
「新しいミメの時代だと?」
「ええ……。今までの、自由な冒険者としてのミメではなく、厳格な規則に定義された、ミメの時代が……」
「厳格な規則?」
「そうです。それ以降、ミメは1人だけと定められ、そのミメが死ぬか冒険を断念するまで、他者はミメと名乗って行動することが禁じられました。そして、前任のミメがミメでなくなると、次のミメがルールに従って選ばれ、冒険の旅に出されるのです……」
「ルール?」
盈はアルウェンの言葉を繰り返し、その意味を問う。
「その時、フィの国で一番美しい処女が選ばれるのです」
「随分と性差別的な規則だな。助平な男が考えそうなルールだ……」
「そうですね。それは間違いありませんね。でも、これについて、私の姉はこう解釈していました。『ミメが同時に2人以上存在出来ないのは、ミメに因る死者を極力減らす為、また娘と云うのは、労働力である男子の人口減少を恐れた為だ』とね……」
「じゃぁ、1番美しいと云うのは、どう云う理由なんです? 僕は、その方が確かに嬉しいですけどね……。あなたの様な方が、ミメになると云う方が……」
純一少年もミメの定義には興味がある様で、アルウェンの話に質問を挟む。
「あら、お上手ね。あの時は、偶然にも私より美しい女性が出払っていたのよ……」
「謙遜はいい。それにも理由があるのか?」
盈がアルウェンに続きを促す。
「これも姉によると『ミメは卑怯な行動が出来ない。だが、それでは幾ら命があっても足りるものではない。だから、少しでも男性冒険者に助けて貰えるよう、より美しい者が選ばれるようになったのだ』と云うことです」
「なんか、矛盾してますね……」
純一少年はその説明に納得することはなかった。そして、それは話しているアルウェンも同様だったのである。
「ええ、矛盾だらけです。姉の言った側面も確かにあったでしょうが、それ以上に冒険の途中で肉体を蹂躙され、ミメとしての資格を失い、その失望の為に死んでいった少女の数の方が遥かに多いのです。美しい処女であったばかりに……。
そんなこともあり、望まれて復活したミメですが、娘を持つ母親は、娘がミメに選ばれないように、娘の顔に泥を塗り、醜く化粧をしたりもしました。結局、『気高く美しい冒険者ミメ』、
「アルウェンが、それを言うのか……」
盈がボソッと呟いた。