ミメの伝説 偽りの伝説(6)
文字数 1,992文字
「彼は同意しなかったのです。私には理解できません。彼の罪を消すばかりでなく、彼に殺された人々を救い、破壊された街を戻し、全てを無かったことに出来るのです。何故受け入れないのか? 拒否する理由が全く理解できません。
彼はこう言って拒否しました……。
『それは罪を無いことにしただけで、儂が罪を償ったことにならない。犯した罪と云うものは、決して帳消しに出来るものではなく、何らかの形で罪を償って、初めて魂の救済が為されるものなのだ……』
私は、今でも彼の論理が理解できません」
「天下のミメ様にも、理解できないことがあったとはな……」
「分からないことだらけです……。世の中ってものは……」
盈の皮肉めいた冗談に、アルウェンは不満そうにそう応えた。
「で、結局、アルウェンさんは、どうしたのですか?」
「私はもう何も出来ません。私の秘策に期待して、私との闘いの剣を収めたくれたクレリアでしたが、私では駄目だと分かると、彼女自身で最後に片を付けました……。
彼女は魔僧正に闘いを挑み、最後、自らの背を魔僧正の身体に押し当てて、それで彼を壁に抑え込み、その状態で自分の身体ごと魔僧正の心臓を貫いたのです」
「そんなことで、倒せるものなのか?」
「相手に背中で抑えられても、避けること位は出来ます。でも、魔僧正はそれをせず、クレリアの身体を支えていました。クレリアも自分ごと貫かなくとも、どの様にでも相手を倒せる体勢でしたが、敢えて自分の心臓と、魔僧正の心臓を同時に貫いたのです。
その時、クレリアはこんなことを言っていました。
『あなたが、何度生まれ変わろうとも、今、心臓で結ばれてた私が、同じ場所に転生し、あなたの悪事を
そして、魔僧正は、一言『頼む』と……」
「それはもう、心中としか言い様が無いな。それにしても悲しい話だ」
「あら、思い出話をし過ぎましたね……。
もう直ぐ太陽に最接近します。そこは少し危険なので手動で操船したいと思います。
太陽の脇を過ぎると、若干危険が減りますので、ファージに向かって最大加速で直進し、一気に敵に近付きますよ……」
「で、その冒険の後、アルウェンさんは、どうしたのですか?」
純一少年は、まだ聞き足りない様だった。
「その後ですか……? では、掻い摘んで説明しますね……」
純一少年は小さく頷く。
「私は、幾たびか冒険の旅に出て行きました。師兄たちの助けもあり、私は何とか死なずに済んだのですが、それでも『善を為した』と言えることは出来ませんでした。
そして最後に、1つの真理に出会いました。それが最初の『偽善でも善』と云うことです。善など身勝手な物で良いのです。普遍的、絶対的な善など必要ないのです。私は善など為してなくとも、善を為したと偽って、すべきことをすれば良かったのです。
私がすべきこと。それは姉の意志を継ぐことでした……」
「それって、もしかして……」
「ええ、矛盾と欺瞞に満ちた風習、ミメの歴史を終えることです。私は宣言しました。『私こそが唯一無二のミメであり、ミコである』と。そして『今後、私以外のミメの存在は一切認めない』とね……」
「それが、
盈がポソリと呟いた。
「ええ、そうです。全ては偽りなのです。ですが、偽りであっても希望は残さなくてはなりません。私は『56億7千万年の後、再び世に現れて、世界を救う』と宣言し、自らを封印しました。そして、至る所に残った残思念が実体化したもの……、つまり、今の私ですが、それらを残し、未来を約束して逝ったのです」
「本当にそんな遠い未来に、ミメは復活出来るものなのか?」
「さぁ、どうでしょう? 呪文が失敗しているかも知れません。封印された場所が56億年後には消滅してるかも知れません。
「ミメの話の中で、一番の欺瞞だな……」
「そうかも知れません……。
でも、それが欺瞞であっても、私たちは為すべきことを為さねばなりません。
さぁ、行きましょう。私たちは私たちの義務を果たしに……。ファージを迎え撃つと云う大切な義務をね……」
アルウェンはそう言うと、操縦席へとすっと戻って行った。
アルウェンと3悪魔を乗せたガルラは、ここから一気に重力を増加させ、そこで生じた太陽に落ちる加速を利用し、太陽を掠め、その速度を維持し、ファージへと向きを変えて飛んで行く。
今、ファージは天王星を超えた辺り……。
ガルラも加速をし、ファージもこれから太陽に近付くにつれ加速していく……。
宇宙のウィルスとの遭遇まで、もう、あと少し……。決戦の時は近い。