第100話 メイイン
文字数 713文字
どのくらい、そうしていただろうか。
「リュウ!」
自分を呼ぶ声に弾けたように顔を上げた。雨の中、瓦礫の山の中に鮮やかな赤の傘が見えた。すらりとした身体つきと整った顔立ち。自分の名を呼んだのは、父の妹のメイインだった。
「よかった、あなたは無事だったのね!」
それから周囲を見渡して、
「兄さんと姉さんは?」
リュウは黙って首を横に振った。
メイインはしばらく言葉を失っていたが、
「とにかく、わたしの家にいらっしゃい。まずは体を温めて何が食べないと」
リュウはメイインが差しのべる手を取って立ち上がった。去る前に両親が戻ってきた時のために張り紙をしておいた。
彼女の家はフランス租界に隣接していて、今回の戦闘とは無縁だった。家に着くとメイインは大急ぎでバスタブにお湯をはり、少年を入れさせた。
「タオルと着替えはここに置いていくわ。着替えの服はあなたには少し大きいかもしれないけれど」
彼女が出ていったところで濡れてしめった服を脱いで、バスタブに入った。凍えた体が湯の中で温まっていくのを感じた。同時に実感した。自分は──生きているのだと。
リュウはバスタブから出ると、ふかふかのタオルで体をふいてメイインが用意してくれた服を着た。確かにそれは少年には少しばかり大きすぎた。
バスルームからダイニングに行くと、テーブルには粥の用意がされていた。
温かな粥をひと口食べると、少年の眼から涙がこぼれ落ちた。
家に張り紙をしたのは、いわば気休めだった。
もう父も母もこの世にはいないのだ。そう思うと涙が次々にこみあげてきた。
匙を置き、眼をこする少年を、メイインはそっと抱きしめた。
「どうか泣かないで……わたしがいるわ。ずっとそばにいるわ」
「リュウ!」
自分を呼ぶ声に弾けたように顔を上げた。雨の中、瓦礫の山の中に鮮やかな赤の傘が見えた。すらりとした身体つきと整った顔立ち。自分の名を呼んだのは、父の妹のメイインだった。
「よかった、あなたは無事だったのね!」
それから周囲を見渡して、
「兄さんと姉さんは?」
リュウは黙って首を横に振った。
メイインはしばらく言葉を失っていたが、
「とにかく、わたしの家にいらっしゃい。まずは体を温めて何が食べないと」
リュウはメイインが差しのべる手を取って立ち上がった。去る前に両親が戻ってきた時のために張り紙をしておいた。
彼女の家はフランス租界に隣接していて、今回の戦闘とは無縁だった。家に着くとメイインは大急ぎでバスタブにお湯をはり、少年を入れさせた。
「タオルと着替えはここに置いていくわ。着替えの服はあなたには少し大きいかもしれないけれど」
彼女が出ていったところで濡れてしめった服を脱いで、バスタブに入った。凍えた体が湯の中で温まっていくのを感じた。同時に実感した。自分は──生きているのだと。
リュウはバスタブから出ると、ふかふかのタオルで体をふいてメイインが用意してくれた服を着た。確かにそれは少年には少しばかり大きすぎた。
バスルームからダイニングに行くと、テーブルには粥の用意がされていた。
温かな粥をひと口食べると、少年の眼から涙がこぼれ落ちた。
家に張り紙をしたのは、いわば気休めだった。
もう父も母もこの世にはいないのだ。そう思うと涙が次々にこみあげてきた。
匙を置き、眼をこする少年を、メイインはそっと抱きしめた。
「どうか泣かないで……わたしがいるわ。ずっとそばにいるわ」