第55話 解けた謎
文字数 803文字
二人だけ残された部屋で、唯音は自分でも意外なほど冷静な口調で訊いた。
「正直に言って。もう何を聞いても驚かないわ。あなたは反日活動をしているのね?」
返ってきたのは、そうだ、という感情のこもらない短い言葉。
「やっぱり……」
唯音は魂の抜けたような表情でつぶやいた。悠哉が自分に忠告したことは、真実だったのだ。
あの時は信じなかった。信じたくなかった。けれど現実は容赦なく唯音に突きつけられていた。
「この国を自分の手で取り戻す……俺たちはそのために戦っているんだ」
「それで、あなたは何なの? 国民党? 共産党? それとも青幇 (上海の秘密結社)?」
「延安 だ」
当時、延安は共産党の本拠地がある場所だった。
「おじさまを撃ったのも、あなたたち?」
違う! と彼は激しく否定した。
「貴堂大佐を狙撃したのは俺たちじゃない。約束する。君に危害は加えない。ただ、しばらくここにいて欲しいんだ」
「何のために?」
「……」
言葉に窮する彼に、畳み掛けるように問う。
「あなた、仲間が日本の憲兵隊に逮捕されたと話していたわね。そのことと関係があるのね?」
彼の沈黙が、唯音の推測が正しいことを物語っていた。
唯音は息をひとつ吸い込み、質問を続けた。まだ大きな疑問が残っていた。
「でも、どうしてわたしなの? わたしはナイトクラブの歌い手にすぎない小娘よ。利用価値なんてないはずよ」
いいや、と彼は首を横に振った。
「何としてでも捕らわれた仲間を助けたい。君には交換のための人質になってもらう」
「交換? 人質?」
思いもよらない単語に、眼をしばたたかせる唯音に彼は続けた。
「逮捕された抗日分子の釈放──軍部の実力者、貴堂大佐ならできるはずだ」
唯音は息を呑み、両手をきつく握りしめた。すべての謎が解けた気がした。
目的は、貴堂のおじだったのだ。
彼らは逮捕された仲間を取り返すために、大佐が実の娘のように可愛がっている姪に眼をつけたのだ。
「正直に言って。もう何を聞いても驚かないわ。あなたは反日活動をしているのね?」
返ってきたのは、そうだ、という感情のこもらない短い言葉。
「やっぱり……」
唯音は魂の抜けたような表情でつぶやいた。悠哉が自分に忠告したことは、真実だったのだ。
あの時は信じなかった。信じたくなかった。けれど現実は容赦なく唯音に突きつけられていた。
「この国を自分の手で取り戻す……俺たちはそのために戦っているんだ」
「それで、あなたは何なの? 国民党? 共産党? それとも
「
当時、延安は共産党の本拠地がある場所だった。
「おじさまを撃ったのも、あなたたち?」
違う! と彼は激しく否定した。
「貴堂大佐を狙撃したのは俺たちじゃない。約束する。君に危害は加えない。ただ、しばらくここにいて欲しいんだ」
「何のために?」
「……」
言葉に窮する彼に、畳み掛けるように問う。
「あなた、仲間が日本の憲兵隊に逮捕されたと話していたわね。そのことと関係があるのね?」
彼の沈黙が、唯音の推測が正しいことを物語っていた。
唯音は息をひとつ吸い込み、質問を続けた。まだ大きな疑問が残っていた。
「でも、どうしてわたしなの? わたしはナイトクラブの歌い手にすぎない小娘よ。利用価値なんてないはずよ」
いいや、と彼は首を横に振った。
「何としてでも捕らわれた仲間を助けたい。君には交換のための人質になってもらう」
「交換? 人質?」
思いもよらない単語に、眼をしばたたかせる唯音に彼は続けた。
「逮捕された抗日分子の釈放──軍部の実力者、貴堂大佐ならできるはずだ」
唯音は息を呑み、両手をきつく握りしめた。すべての謎が解けた気がした。
目的は、貴堂のおじだったのだ。
彼らは逮捕された仲間を取り返すために、大佐が実の娘のように可愛がっている姪に眼をつけたのだ。