第82話 戦場へ
文字数 613文字
「開けてくれ──開けてくれ!」
二軒目の病院、かたく閉ざされた門の前で悠哉の声が空しく響く。
ここもだめか、と彼は拳で門をどん、と叩いた。
「本当に、もういいんです……」
背中から母親の申し訳なさそうな声がかかるのと同時に、飛行機の轟音がして彼は頭上を振り仰いだ。
視界に移ったのは空軍機だった。それは奥地へと本拠を移していた、この国の政府のものだった。
一刻の猶予もなかった。何とかして母親と美夜を安全な場所に避難させなければならない。
病院を探しているうちに、いつしか彼らは街の中心近くまで来ていた。ここからなら仲間たちと打ち合わせした場所までは歩いて十分もかからない。
確か、葉村の妻は以前に看護婦をしていたと言っていた。
二人を避難させる場所はもうブルーレディしかなかった。悠哉は美夜を気遣いながら、南京路へと足を向けた。
アパートの部屋で不安げに自分を待っている唯音の姿が浮かぶ。
──すまない、唯ちゃん。
自分にかまわず、先に行ってくれ。
祈るような気持ちで悠哉は内心つぶやいた。今となっては状況を伝えるすべがなかった。
そして。悠哉がブルーレディに向かったのと同じ頃。
郊外に逃れようとする避難民とは反対に、虹口地区へ向かう男の姿があった。リュウだった。
彼はどうしたいのか、自分でもよくわからなかった。
ただ、彼女が無事に避難したかどうかだけでも確かめたい。その想いが彼を、戦場となる虹口地区へと向かわせていた。
二軒目の病院、かたく閉ざされた門の前で悠哉の声が空しく響く。
ここもだめか、と彼は拳で門をどん、と叩いた。
「本当に、もういいんです……」
背中から母親の申し訳なさそうな声がかかるのと同時に、飛行機の轟音がして彼は頭上を振り仰いだ。
視界に移ったのは空軍機だった。それは奥地へと本拠を移していた、この国の政府のものだった。
一刻の猶予もなかった。何とかして母親と美夜を安全な場所に避難させなければならない。
病院を探しているうちに、いつしか彼らは街の中心近くまで来ていた。ここからなら仲間たちと打ち合わせした場所までは歩いて十分もかからない。
確か、葉村の妻は以前に看護婦をしていたと言っていた。
二人を避難させる場所はもうブルーレディしかなかった。悠哉は美夜を気遣いながら、南京路へと足を向けた。
アパートの部屋で不安げに自分を待っている唯音の姿が浮かぶ。
──すまない、唯ちゃん。
自分にかまわず、先に行ってくれ。
祈るような気持ちで悠哉は内心つぶやいた。今となっては状況を伝えるすべがなかった。
そして。悠哉がブルーレディに向かったのと同じ頃。
郊外に逃れようとする避難民とは反対に、虹口地区へ向かう男の姿があった。リュウだった。
彼はどうしたいのか、自分でもよくわからなかった。
ただ、彼女が無事に避難したかどうかだけでも確かめたい。その想いが彼を、戦場となる虹口地区へと向かわせていた。