第50話 パーラー
文字数 680文字
おじとの昼食を終え、唯音が家を出たのは午後二時になる少し前だった。
「仕事までは、まだ時間があるのだろう? もっとゆっくりしていけばいいのに」
玄関先で引き留めようとする大佐に、ごめんなさい、と唯音は頭を下げた。
「今日はこれからお友達と約束があるの」
「それでは仕方ないな」
残念そうにつぶやくおじに、明るくほほえみかける。
「美味しい昼食だったとシュウレイさんに伝えておいてくださいな。じゃ、わたし、これで失礼します」
「ああ、気をつけて」
「おじさまも、くれぐれも無理なさらないでね」
「わかったわかった」
苦笑いするおじに見送られて玄関を出た唯音は、通りを渡り、共同租界の方角へと足を向けた。
ガーデンブリッジを渡り、税関の時計塔を見上げ、歩く速度を速める。
いけない、少し遅れそうだわ。
二時にリュウとの約束があった。場所は南京路のパーラーだった。
せわしなく約束の場所に急ぎながらも、唯音は心が弾むのを感じた。
リュウと会うのは半月ぶりだ。昨日、突然、ブルーレディに連絡が舞い込んできた。
彼にはこちらから連絡がつかなかった。前に住所をたずねたら、「宿なしさ。友達のところを点々としているんだ」と曖昧に答えただけだった。
通りの喧騒の中、約束の店にたどり着くと、唯音はパーラーの白いドアを開けた。
多様な客たちの中に彼を探し、ぱっと瞳を輝かせる。壁際のテーブルに片肘をついて何かを考えこんでいる姿。
テーブルの間をぬって、彼のいる席に近づき、明るく声をかける。
だが、唯音の弾んだ気持ちをよそに、彼は肩をびくっとさせ、顔を上げた。初めて唯音に気づいた風だった。
「仕事までは、まだ時間があるのだろう? もっとゆっくりしていけばいいのに」
玄関先で引き留めようとする大佐に、ごめんなさい、と唯音は頭を下げた。
「今日はこれからお友達と約束があるの」
「それでは仕方ないな」
残念そうにつぶやくおじに、明るくほほえみかける。
「美味しい昼食だったとシュウレイさんに伝えておいてくださいな。じゃ、わたし、これで失礼します」
「ああ、気をつけて」
「おじさまも、くれぐれも無理なさらないでね」
「わかったわかった」
苦笑いするおじに見送られて玄関を出た唯音は、通りを渡り、共同租界の方角へと足を向けた。
ガーデンブリッジを渡り、税関の時計塔を見上げ、歩く速度を速める。
いけない、少し遅れそうだわ。
二時にリュウとの約束があった。場所は南京路のパーラーだった。
せわしなく約束の場所に急ぎながらも、唯音は心が弾むのを感じた。
リュウと会うのは半月ぶりだ。昨日、突然、ブルーレディに連絡が舞い込んできた。
彼にはこちらから連絡がつかなかった。前に住所をたずねたら、「宿なしさ。友達のところを点々としているんだ」と曖昧に答えただけだった。
通りの喧騒の中、約束の店にたどり着くと、唯音はパーラーの白いドアを開けた。
多様な客たちの中に彼を探し、ぱっと瞳を輝かせる。壁際のテーブルに片肘をついて何かを考えこんでいる姿。
テーブルの間をぬって、彼のいる席に近づき、明るく声をかける。
だが、唯音の弾んだ気持ちをよそに、彼は肩をびくっとさせ、顔を上げた。初めて唯音に気づいた風だった。