第57話 失踪
文字数 683文字
「唯ちゃんが、消息を断ちました」
同時刻。貴堂大佐の自宅を訪れた悠哉は、沈痛な面持ちで状況を伝えていた。
「出勤時間になっても店に姿を見せません。連絡も入らず、アパートにも行きましたが、人の気配はありませんでした」
応接間で茉莉花 茶を置いたテーブルをはさみ、大佐と悠哉の間を重苦しい空気が流れていく。
「今朝は退院する私に付き添ってくれた。一緒に昼食を取って、午後二時頃、この家を出た。友人に会うと言っていたが……」
「僕もそれは知っています。昨夜、店に連絡が入って約束をしていました」
「相手には心当たりがあるかね」
ええ、と悠哉はうなずいた。リュウだ。
「その友人から何か手掛かりを聞けないだろうか」
「彼も店には姿を現しませんでした。今どこにいるかもわかりません」
「どんな人物だ?」
「中国人の青年です」
そして、一瞬ためらってから、
「抗日活動をしていると噂がありました」
「……」
不吉な予感に大佐の表情がこわばった時だ。だんなさま、と手伝いのシュウレイが呼びに来た。
「どうしたね? 今は大事な話をしているんだが」
シュウレイはもじもじしながら、だんなさまに電話がかかっている、と知らせる。
わかった、と大佐は椅子から立ち上がった。失礼、と悠哉に断ってから応接間を出ていく。
残された悠哉は落ち着きなく部屋の中を見回した。
何時間か前までは、唯音は確かにこの家にいたのだ。
唯音はいったいどこに消えてしまったのか。
彼女の失踪にリュウは関係があるのだろうか。
いたたまれない気持ちを静めようと、悠哉は冷めてしまった茉莉花茶に口をつけた。
今は、唯音の無事を祈るしかなかった。
同時刻。貴堂大佐の自宅を訪れた悠哉は、沈痛な面持ちで状況を伝えていた。
「出勤時間になっても店に姿を見せません。連絡も入らず、アパートにも行きましたが、人の気配はありませんでした」
応接間で
「今朝は退院する私に付き添ってくれた。一緒に昼食を取って、午後二時頃、この家を出た。友人に会うと言っていたが……」
「僕もそれは知っています。昨夜、店に連絡が入って約束をしていました」
「相手には心当たりがあるかね」
ええ、と悠哉はうなずいた。リュウだ。
「その友人から何か手掛かりを聞けないだろうか」
「彼も店には姿を現しませんでした。今どこにいるかもわかりません」
「どんな人物だ?」
「中国人の青年です」
そして、一瞬ためらってから、
「抗日活動をしていると噂がありました」
「……」
不吉な予感に大佐の表情がこわばった時だ。だんなさま、と手伝いのシュウレイが呼びに来た。
「どうしたね? 今は大事な話をしているんだが」
シュウレイはもじもじしながら、だんなさまに電話がかかっている、と知らせる。
わかった、と大佐は椅子から立ち上がった。失礼、と悠哉に断ってから応接間を出ていく。
残された悠哉は落ち着きなく部屋の中を見回した。
何時間か前までは、唯音は確かにこの家にいたのだ。
唯音はいったいどこに消えてしまったのか。
彼女の失踪にリュウは関係があるのだろうか。
いたたまれない気持ちを静めようと、悠哉は冷めてしまった茉莉花茶に口をつけた。
今は、唯音の無事を祈るしかなかった。