第62話 無表情
文字数 692文字
どのくらい時が経っただろう。
高い位置に窓がひとつきりの牢獄のような部屋。その中で唯音は硬い椅子に背筋を伸ばして座っていた。
時計がないので時間がまるでわからない。ここに連れて来られてから、ひどく長い時が過ぎたような気もしたし、ほんの短い時間しか経っていない気もした。
自分の知らないところで、どんな交渉が行われているのだろう。
逮捕した抗日分子の釈放。貴堂のおじは彼らの要求に応じるだろうか。
いいえ、と唯音は内心で首を振った。何があってもおじがそんな条件を受け入れるはずがない。
ただ、おじは自分を救うために動いてくれるだろう。それは確かだと思った。
まだ、怪我も治りきっていないのに……。
どうにかして、ここから逃げ出すことはできないだろうか。
唯音は幾度となくそうしたように部屋の中を見回した。
高い天井の、がらんとした室内。彼女の背よりもずっと高い場所に小さな窓がひとつ。ドアには頑丈な鍵がかかっていて中からはどうやっても開けられない。
あの窓から抜け出せるのは鼠くらいのものだ、とため息をついた時だった。こつこつと近づいてくる足音に唯音はぴくりと肩を震わせた。
鍵とかんぬきが外され、ドアが開けられる。入ってきたのは若い娘だった。
「食事を持ってきたわ」
その顔を見て唯音は眼を見開いた。
「リーリ……!」
唯音は思わず椅子から立ち上がり、両手を握りしめた。リーリは驚く様子もなく手にしていた皿を木のテーブルに置いた。
「あなたも彼らの仲間だったのね」
そうよ、とぽつりと答え、唯音を見返すリーリは無表情だった。恋仇に対する嘲笑も、恋人に裏切られた娘への憐れみの色もなかった。
高い位置に窓がひとつきりの牢獄のような部屋。その中で唯音は硬い椅子に背筋を伸ばして座っていた。
時計がないので時間がまるでわからない。ここに連れて来られてから、ひどく長い時が過ぎたような気もしたし、ほんの短い時間しか経っていない気もした。
自分の知らないところで、どんな交渉が行われているのだろう。
逮捕した抗日分子の釈放。貴堂のおじは彼らの要求に応じるだろうか。
いいえ、と唯音は内心で首を振った。何があってもおじがそんな条件を受け入れるはずがない。
ただ、おじは自分を救うために動いてくれるだろう。それは確かだと思った。
まだ、怪我も治りきっていないのに……。
どうにかして、ここから逃げ出すことはできないだろうか。
唯音は幾度となくそうしたように部屋の中を見回した。
高い天井の、がらんとした室内。彼女の背よりもずっと高い場所に小さな窓がひとつ。ドアには頑丈な鍵がかかっていて中からはどうやっても開けられない。
あの窓から抜け出せるのは鼠くらいのものだ、とため息をついた時だった。こつこつと近づいてくる足音に唯音はぴくりと肩を震わせた。
鍵とかんぬきが外され、ドアが開けられる。入ってきたのは若い娘だった。
「食事を持ってきたわ」
その顔を見て唯音は眼を見開いた。
「リーリ……!」
唯音は思わず椅子から立ち上がり、両手を握りしめた。リーリは驚く様子もなく手にしていた皿を木のテーブルに置いた。
「あなたも彼らの仲間だったのね」
そうよ、とぽつりと答え、唯音を見返すリーリは無表情だった。恋仇に対する嘲笑も、恋人に裏切られた娘への憐れみの色もなかった。