第32話 リーリ
文字数 641文字
裏口からホールへ続く廊下の途中で、唯音はアレクセイと別れた。彼には開店の準備があったし、唯音も舞台のために着替えないといけなかった。
ホールへ早足で向かうアレクセイを見送り、楽屋に入ろうとした時。
「唯音」
高い、きつい声に呼び止められ、唯音は足を止めた。いつの間にかそばにはリーリが立っていた。唯音と同い年の、整った顔立ちの踊り子だ。
「リーリ?」
別に仲が良いわけではない。思いがけない相手に声をかけられ、まばたきする唯音に挑戦的に言い放つ。
「時間いい? ちょっと話があるのよ」
「え、ええ……」
気圧されるようにして唯音はうなずいた。仕度をする時間だったが、リーリの口調には有無を言わせないものがあった。
「廊下で話をするのもまずいわ。楽屋に入って」
うながす唯音にリーリは首是し、二人は楽屋に入るとドアを閉めた。
「どうぞ、座って」
「いいえ、このままでいいわ」
椅子をすすめる唯音を、リーリはあっさりと断った。仕方なしに唯音は自分も立ったまま口を開いた。
「それで、お話って?」
「あなた、彼とつきあってるって本当なの?」
彼? と訊き返す唯音に、リュウよ、と告げる。
唯音は返答をためらった。確かリーリは彼のことを……。
「どうなの!?」
「あなたには、関係ないわ」
「いいえ、あるわ!」
激しい口調に唯音は眼を細め、リーリを凝視した。
「関係があるというのなら、どんな?」
「あなたがここに来るまではね、あたしがあの人の恋人だったのよ!」
リーリが、彼の?
唯音は唇を噛み、細い眉をひそめた。
ホールへ早足で向かうアレクセイを見送り、楽屋に入ろうとした時。
「唯音」
高い、きつい声に呼び止められ、唯音は足を止めた。いつの間にかそばにはリーリが立っていた。唯音と同い年の、整った顔立ちの踊り子だ。
「リーリ?」
別に仲が良いわけではない。思いがけない相手に声をかけられ、まばたきする唯音に挑戦的に言い放つ。
「時間いい? ちょっと話があるのよ」
「え、ええ……」
気圧されるようにして唯音はうなずいた。仕度をする時間だったが、リーリの口調には有無を言わせないものがあった。
「廊下で話をするのもまずいわ。楽屋に入って」
うながす唯音にリーリは首是し、二人は楽屋に入るとドアを閉めた。
「どうぞ、座って」
「いいえ、このままでいいわ」
椅子をすすめる唯音を、リーリはあっさりと断った。仕方なしに唯音は自分も立ったまま口を開いた。
「それで、お話って?」
「あなた、彼とつきあってるって本当なの?」
彼? と訊き返す唯音に、リュウよ、と告げる。
唯音は返答をためらった。確かリーリは彼のことを……。
「どうなの!?」
「あなたには、関係ないわ」
「いいえ、あるわ!」
激しい口調に唯音は眼を細め、リーリを凝視した。
「関係があるというのなら、どんな?」
「あなたがここに来るまではね、あたしがあの人の恋人だったのよ!」
リーリが、彼の?
唯音は唇を噛み、細い眉をひそめた。