第66話 賭け
文字数 823文字
真夜中。街の中心から外れた浦東地区。
昼は客船や貨物船で賑わう波止場も今は人の姿もなく、しんと静まり返っている。
その埠頭に車が一台、ひっそりと向かっていた。
乗っているのは前の座席に貴堂大佐、悠哉、それに運転している大佐の部下。後ろの座席には粗末な中国服を来た三人の男たちが座っている。
「本当に、上手くいくでしょうか」
暗い車内でぽつりと問いかける悠哉に大佐は決然とうなずいた。
「危険な賭けだが、成功させねばならん」
上着のポケットにしのばせたピストルに触れながら悠哉もうなずき返す。
「そうですね。ぜひとも成功させて唯ちゃんを助け出さないと」
唯音を誘拐した連中の要求に応じるわけにはいかない。断じてテロリストを野に放つことはできない。
だが、何としてもあの娘は無事に救出しなければ。
困難な状況の中で貴堂大佐は秘かに動き出した。
後部座席に座っている三人の男たちは、治安隊の捕えた活動家ではなかった。彼らと背格好の似た、大佐の部下だった。
三人は着古した中国服を着て目隠しをされていた。といっても、それはすぐにほどけるように結ばれている。
どこまで連中を欺 けるだろうか。窓の外、暗く沈んだ街に眼をやりながら大佐は考えた。
目隠しをするだけでも人の顔立ちはかなりわかりにくくなる。そして、夜の闇。
彼らが替え玉に気づく前に、唯音を取り戻さなくては。
勝算は大きくはなかった。大佐は心の中で亡き妻に唯音の無事を祈った。
やがて車は埠頭に到着した。活動家たちの指定してきた人質の交換場所だ。
まず大佐と悠哉が車を降りる。それからもっともらしく替え玉の三人に銃を突きつけ、座席から降りさせる。
「君はここで待っていてくれ」
「はい、大佐。お気をつけて」
運転してきた部下が答えると、間に三人をはさみ、桟橋に向かって大佐と悠哉は歩き出した。
唯音を誘拐した連中はまだ姿を見せていない。
大佐の言う通り、危険な賭けだった。悠哉は緊張で喉をごくりと鳴らした。
昼は客船や貨物船で賑わう波止場も今は人の姿もなく、しんと静まり返っている。
その埠頭に車が一台、ひっそりと向かっていた。
乗っているのは前の座席に貴堂大佐、悠哉、それに運転している大佐の部下。後ろの座席には粗末な中国服を来た三人の男たちが座っている。
「本当に、上手くいくでしょうか」
暗い車内でぽつりと問いかける悠哉に大佐は決然とうなずいた。
「危険な賭けだが、成功させねばならん」
上着のポケットにしのばせたピストルに触れながら悠哉もうなずき返す。
「そうですね。ぜひとも成功させて唯ちゃんを助け出さないと」
唯音を誘拐した連中の要求に応じるわけにはいかない。断じてテロリストを野に放つことはできない。
だが、何としてもあの娘は無事に救出しなければ。
困難な状況の中で貴堂大佐は秘かに動き出した。
後部座席に座っている三人の男たちは、治安隊の捕えた活動家ではなかった。彼らと背格好の似た、大佐の部下だった。
三人は着古した中国服を着て目隠しをされていた。といっても、それはすぐにほどけるように結ばれている。
どこまで連中を
目隠しをするだけでも人の顔立ちはかなりわかりにくくなる。そして、夜の闇。
彼らが替え玉に気づく前に、唯音を取り戻さなくては。
勝算は大きくはなかった。大佐は心の中で亡き妻に唯音の無事を祈った。
やがて車は埠頭に到着した。活動家たちの指定してきた人質の交換場所だ。
まず大佐と悠哉が車を降りる。それからもっともらしく替え玉の三人に銃を突きつけ、座席から降りさせる。
「君はここで待っていてくれ」
「はい、大佐。お気をつけて」
運転してきた部下が答えると、間に三人をはさみ、桟橋に向かって大佐と悠哉は歩き出した。
唯音を誘拐した連中はまだ姿を見せていない。
大佐の言う通り、危険な賭けだった。悠哉は緊張で喉をごくりと鳴らした。