第52話 逮捕
文字数 622文字
公園に入って緑の樹々の中を歩きながら、唯音は彼を見上げた。
「どうしたの? 今日は本当に変ね」
間近で見つめながら、白い細い指をそっと彼の頬に当てる。
「唯音……」
彼が眼を細め、その表情に唯音はどきっとした。これまで見たこともない、ひどく辛そうな瞳。
「何が、あったの」
返事はなく、リュウは彼女の手を取ってベンチへとうながした。緑の木陰で二人は木製のベンチに腰を降ろした。
木立ちの向こうから街のざわめきが聞こえ、公園を散歩する人々が前を通り過ぎていく。
彼は無言でじっと何かを考えこみ、唯音も黙っていた。訊いてはいけない、そんな気がした。
太陽が辺りを金色に染め、夕暮れが訪れようとしていた。言葉を交わさない長い時間が過ぎた後、唯音はためらいがちに口を開いた。
「わたし、そろそろお店に行かないと……」
立ち上がろうとした彼女の腕を彼がつかむ。
「リュウ?」
訝し気に名を呼ぶ彼女を引き寄せ、彼はきつく抱きしめた。
「だめよ! こんなところで……」
腕の中で抗 う唯音を抱きしめたまま、絞り出すような声で告げる。
「……仲間が、逮捕されたんだ」
抵抗する手を止めて、唯音は眼を見開いた。
「いったい、誰に逮捕されたというの!?」
「日本の憲兵隊だ」
唯音の脳裏を、先日追われていた男の姿がよぎった。リュウの仲間もあんな風に追われ、捕えられたのだろうか。
彼の心を占めていたのは、このことだったのだ。
深刻な話をかかえながら、二人はベンチを離れて歩き出した。
「どうしたの? 今日は本当に変ね」
間近で見つめながら、白い細い指をそっと彼の頬に当てる。
「唯音……」
彼が眼を細め、その表情に唯音はどきっとした。これまで見たこともない、ひどく辛そうな瞳。
「何が、あったの」
返事はなく、リュウは彼女の手を取ってベンチへとうながした。緑の木陰で二人は木製のベンチに腰を降ろした。
木立ちの向こうから街のざわめきが聞こえ、公園を散歩する人々が前を通り過ぎていく。
彼は無言でじっと何かを考えこみ、唯音も黙っていた。訊いてはいけない、そんな気がした。
太陽が辺りを金色に染め、夕暮れが訪れようとしていた。言葉を交わさない長い時間が過ぎた後、唯音はためらいがちに口を開いた。
「わたし、そろそろお店に行かないと……」
立ち上がろうとした彼女の腕を彼がつかむ。
「リュウ?」
訝し気に名を呼ぶ彼女を引き寄せ、彼はきつく抱きしめた。
「だめよ! こんなところで……」
腕の中で
「……仲間が、逮捕されたんだ」
抵抗する手を止めて、唯音は眼を見開いた。
「いったい、誰に逮捕されたというの!?」
「日本の憲兵隊だ」
唯音の脳裏を、先日追われていた男の姿がよぎった。リュウの仲間もあんな風に追われ、捕えられたのだろうか。
彼の心を占めていたのは、このことだったのだ。
深刻な話をかかえながら、二人はベンチを離れて歩き出した。