第49話 軍人
文字数 805文字
一方、軍の大がかりな捜査にも関わらず、貴堂大佐を狙撃した犯人はまだ捕まっていなかった。
「どうしたね、急に黙り込んで」
おじの呼びかけにあわてて顔を上げ、さりげなく話題をそらす。
「ごめんなさい、ちょっと考えごとをしていて。ところで、おじさまはお仕事にはいつから戻られるの?」
「明日から出ようと思っている」
明日ですって? と唯音は非難めいた口調で訊き返した。
「だめよ! まだ傷が治りきっていないのに」
「退院したのに、いつもまでもぶらぶらしているわけにはいかんだろう」
「もうっ、無茶ばかりして。自宅療養ということで、やっと退院許可が下りたのよ」
唯音に軽く睨まれ、大佐はあわてて言い訳めいた台詞を口にする。
「大丈夫、無理はせんよ」
「そう言いながら、おじさまは無理なさるんですもの」
「やれやれ、おまえには勝てないな」
ソファの背もたれに体を預け、大佐は眼を細めて苦笑を刻む。
「ね、おじさま」
「何だね」
「以前から訊いてみたかったのだけど……おじさまはどうして軍人になられたの」
真剣な表情で問いかける唯音に、大佐も真顔になって彼女を見つめ返した。
「唯音は軍人は嫌いかね?」
「そんなことはないけれど、でも、わたし、戦争は嫌いだわ」
黙って耳を傾ける大佐にさらに問いを重ねる。
「どうして? 祖国を愛しているから?」
「もちろん根底にはその思いがある。しかし、それだけではない。唯音は今、戦争は嫌いだと言ったね」
「え、ええ」
唯音はとまどいながらうなずいた。軍人であるおじには言うべきことではなかったかもしれない。
だが、当惑する唯音に、おじは静かに微笑した。
「私は、自分の任務は戦争をすることではなく、この街に住む人々を守ることだと考えているよ。その中には日本人だけでなく、中国の市民も含まれている。戦うためではなく、守るために私は軍人になったんだ」
「──はい」
幼い頃からの尊敬と信頼をより深めながら、唯音はうなずいた。
「どうしたね、急に黙り込んで」
おじの呼びかけにあわてて顔を上げ、さりげなく話題をそらす。
「ごめんなさい、ちょっと考えごとをしていて。ところで、おじさまはお仕事にはいつから戻られるの?」
「明日から出ようと思っている」
明日ですって? と唯音は非難めいた口調で訊き返した。
「だめよ! まだ傷が治りきっていないのに」
「退院したのに、いつもまでもぶらぶらしているわけにはいかんだろう」
「もうっ、無茶ばかりして。自宅療養ということで、やっと退院許可が下りたのよ」
唯音に軽く睨まれ、大佐はあわてて言い訳めいた台詞を口にする。
「大丈夫、無理はせんよ」
「そう言いながら、おじさまは無理なさるんですもの」
「やれやれ、おまえには勝てないな」
ソファの背もたれに体を預け、大佐は眼を細めて苦笑を刻む。
「ね、おじさま」
「何だね」
「以前から訊いてみたかったのだけど……おじさまはどうして軍人になられたの」
真剣な表情で問いかける唯音に、大佐も真顔になって彼女を見つめ返した。
「唯音は軍人は嫌いかね?」
「そんなことはないけれど、でも、わたし、戦争は嫌いだわ」
黙って耳を傾ける大佐にさらに問いを重ねる。
「どうして? 祖国を愛しているから?」
「もちろん根底にはその思いがある。しかし、それだけではない。唯音は今、戦争は嫌いだと言ったね」
「え、ええ」
唯音はとまどいながらうなずいた。軍人であるおじには言うべきことではなかったかもしれない。
だが、当惑する唯音に、おじは静かに微笑した。
「私は、自分の任務は戦争をすることではなく、この街に住む人々を守ることだと考えているよ。その中には日本人だけでなく、中国の市民も含まれている。戦うためではなく、守るために私は軍人になったんだ」
「──はい」
幼い頃からの尊敬と信頼をより深めながら、唯音はうなずいた。