第85話 後悔
文字数 731文字
一方、悠哉がブルーレディにたどり着いたのは、市街が空爆される少し前だった。
「おおい、開けてくれ!」
美夜をかばい、母親を背負いながら裏口のドアを叩く。
その呼び声を聞きつけ、アレクセイが急ぎドアを開けてくれる。
「ユウヤ!」
転がるように中に入り、地下室へと階段を降りていくと、仲間たちが駆け寄ってくる。
「よかった、無事だったんだな!」
「遅かったじゃないか。その人は?」
「同じアパートの奥さんと娘さんだ。部屋に取り残されていたんだ」
状況を説明しながら、悠哉は葉村の妻の方を向いた。
「奥さん、以前、看護婦をしていたとおっしゃってましたね。診ていただけますか」
うなずいて葉村の妻が前に出てくる。
「そうっと横にして。奥さん、どんな具合ですの?」
かたわらに座り、雨で濡れた体をタオルでふきながら、たずねかける。
「胸が苦しくて……。いったいここはどこなんです?」
おびえた口調の母親の手を握り、葉村の妻はさとすように語りかけた。
「ここは南京路にあるナイトクラブの地下室ですわ。もう大丈夫。誰か、お水を持ってきて」
葉村の妻の言葉に、母親は安堵したように眼を閉じた。隣には母と手をつないだ美夜がちょこんと座っている。
これで二人は一安心だった。が、ほっとしたのも束の間、周囲を見渡し、悠哉は動揺した声を出した。
「唯ちゃんは? 来ていないのか」
ああ、と葉村が沈痛な表情で相槌を打つ。
「僕らは、君と一緒だとばかり思っていた」
「一緒に来るはずだった。だが、すれ違ってしまって……。あの二人をかばってここに来るのが精一杯で……」
唯音はまだ虹口地区にいるのだ。
自分のせいだ、と悠哉は唇を噛んだ。
いくら美夜たちを助けるためとはいえ、戦場に唯音を置き去りにしてしまった
のだ。
「おおい、開けてくれ!」
美夜をかばい、母親を背負いながら裏口のドアを叩く。
その呼び声を聞きつけ、アレクセイが急ぎドアを開けてくれる。
「ユウヤ!」
転がるように中に入り、地下室へと階段を降りていくと、仲間たちが駆け寄ってくる。
「よかった、無事だったんだな!」
「遅かったじゃないか。その人は?」
「同じアパートの奥さんと娘さんだ。部屋に取り残されていたんだ」
状況を説明しながら、悠哉は葉村の妻の方を向いた。
「奥さん、以前、看護婦をしていたとおっしゃってましたね。診ていただけますか」
うなずいて葉村の妻が前に出てくる。
「そうっと横にして。奥さん、どんな具合ですの?」
かたわらに座り、雨で濡れた体をタオルでふきながら、たずねかける。
「胸が苦しくて……。いったいここはどこなんです?」
おびえた口調の母親の手を握り、葉村の妻はさとすように語りかけた。
「ここは南京路にあるナイトクラブの地下室ですわ。もう大丈夫。誰か、お水を持ってきて」
葉村の妻の言葉に、母親は安堵したように眼を閉じた。隣には母と手をつないだ美夜がちょこんと座っている。
これで二人は一安心だった。が、ほっとしたのも束の間、周囲を見渡し、悠哉は動揺した声を出した。
「唯ちゃんは? 来ていないのか」
ああ、と葉村が沈痛な表情で相槌を打つ。
「僕らは、君と一緒だとばかり思っていた」
「一緒に来るはずだった。だが、すれ違ってしまって……。あの二人をかばってここに来るのが精一杯で……」
唯音はまだ虹口地区にいるのだ。
自分のせいだ、と悠哉は唇を噛んだ。
いくら美夜たちを助けるためとはいえ、戦場に唯音を置き去りにしてしまった
のだ。