第95話 自問
文字数 686文字
アレクセイと別れると、二人は荷物を持って埠頭に向かった。街の中心に近い大桟橋に帰国の船は停泊している。
手続きをすませ、船室に落ち着くと、唯音は悠哉に向かって告げた。
「ね、船が出るまでまだ時間があるでしょう? わたし、少し散歩してくるわ」
「一緒に行くよ」
心配げな顔つきの悠哉に、ひとりで大丈夫よ、とほんのり笑ってみせる。
「近くを歩いてくるだけよ。最後ですもの」
「でも……」
「ひとりで歩きたいの。お願い。すぐに戻ってくるわ」
そう言いながら唯音は悠哉に向かいあって立ち、彼の手に自分の手を重ねた。
「わかっているのよ。いつだってそばには悠哉さんがいてくれて、わたしは守られてきたこと」
「唯ちゃん……」
「気持ちに整理をつけて、この街にさよならを告げたいの。でないと、先に踏み出せない気がして……」
言葉をつまらせる唯音を、手のひらの小鳥をつつみこむように悠哉はそっと抱きしめた。
ひとり船室を出ると、唯音はタラップを降り、帰国する人々でごった返す桟橋から、港通りに足を向けた。
しばらく歩いてから、自分たちの乗る船を振り返る。
あの船に乗ってしまったら、もう二度とこの街には戻れない予感があった。
──日本に戻ったら、結婚してくれないか。
返事を保留にしたままの悠哉の求婚が、ふっと胸に思い起こされる。
他の男に心をよせていた自分を、それでも愛し続けてくれた人。
帰国したら、と唯音は自問するようにつぶやいた。
自分は悠哉と結婚することになるのだろうか。
今はまだためらっていても、いずれは彼の想いを受け入れ、妻となり、その子供を産むのだろうか。自分でもよくわからなかった。
手続きをすませ、船室に落ち着くと、唯音は悠哉に向かって告げた。
「ね、船が出るまでまだ時間があるでしょう? わたし、少し散歩してくるわ」
「一緒に行くよ」
心配げな顔つきの悠哉に、ひとりで大丈夫よ、とほんのり笑ってみせる。
「近くを歩いてくるだけよ。最後ですもの」
「でも……」
「ひとりで歩きたいの。お願い。すぐに戻ってくるわ」
そう言いながら唯音は悠哉に向かいあって立ち、彼の手に自分の手を重ねた。
「わかっているのよ。いつだってそばには悠哉さんがいてくれて、わたしは守られてきたこと」
「唯ちゃん……」
「気持ちに整理をつけて、この街にさよならを告げたいの。でないと、先に踏み出せない気がして……」
言葉をつまらせる唯音を、手のひらの小鳥をつつみこむように悠哉はそっと抱きしめた。
ひとり船室を出ると、唯音はタラップを降り、帰国する人々でごった返す桟橋から、港通りに足を向けた。
しばらく歩いてから、自分たちの乗る船を振り返る。
あの船に乗ってしまったら、もう二度とこの街には戻れない予感があった。
──日本に戻ったら、結婚してくれないか。
返事を保留にしたままの悠哉の求婚が、ふっと胸に思い起こされる。
他の男に心をよせていた自分を、それでも愛し続けてくれた人。
帰国したら、と唯音は自問するようにつぶやいた。
自分は悠哉と結婚することになるのだろうか。
今はまだためらっていても、いずれは彼の想いを受け入れ、妻となり、その子供を産むのだろうか。自分でもよくわからなかった。