第42話 花瓶
文字数 939文字
翌日はいつもより早めに仕度をして、唯音はアパートを出た。
ブルーレディに出勤する前に、おじの入院している病院へ寄っていこうと思ったのだ。
とりあえず自分のところからタオルや洗面用具といったこまごまとしたものを持ち、市場で見舞いの花を買っていく。
病院の正面玄関には昨日と同じ兵士が立っていた。花を持った唯音を見ると、今日は丁寧な態度で、
「貴堂大佐の姪御さんですね。ご苦労さまです。どうぞお通りください」
軽く頭を下げて唯音は玄関をくぐった。広い廊下をこつこつと歩き、病室のドアを小さくノックする。
どうぞ、と中から返ってきた声に、唯音は息を呑んだ。声の主が静かにドアを開けてくれる。
思った通り、そこにいたのは悠哉だった。
複雑な思いをかかえて二人は見つめあい、やがて唯音は唇を動かした。
「悠哉さんも来ていたのね。おじさまの具合はどう?」
「大佐なら今はよく眠っているよ」
小声でそう言いながら身を引き、唯音を中に入れてくれる。
唯音はおじの枕もとにかがみこみ、顔を覗き込んだ。悠哉の言った通り、穏やかに眠っている。
その眠りを妨げないように、唯音は枕もとからそっと立ち上がった。
ベッドの脇のテーブルに花を置き、取ってのついた紙袋から透明なガラスの花瓶を取り出す。自分のアパートから持ってきたものだ。
「ちゃんと花瓶まで持ってくるなんて、さすがだな」
悠哉は感心しながら、窓きわに置いてあった花束を差し出す。
「唯ちゃん、これも一緒に飾ってもらえるかな。病院ってところは殺風景だと思ってね、花は買ってきたんだが、花瓶までは思いつかなかった」
「そうね。男の人はそこまで考えつかないかもしれないわね。昨日来た時、確か花瓶はなかったと記憶していたの」
唯音は苦笑まじりに花を受け取り、病室に備え付けの洗面台で水を汲むと、二人分の花を少しぎゅうずめにして花瓶に活ける。
花を飾ってしまうと、唯音は悠哉に耳打ちした。
「おじさまもよく眠っていらっしゃるし、悠哉さん、今日はもうおいとましないこと?」
ああ、と悠哉が首是する。
「夕方からは、いつものようにブルーレディのステージがあるしね」
もう一度、おじの寝顔を確認すると、身の回りの品が入った袋を置き、唯音は静かに病室を出た。悠哉が後に続く。
ブルーレディに出勤する前に、おじの入院している病院へ寄っていこうと思ったのだ。
とりあえず自分のところからタオルや洗面用具といったこまごまとしたものを持ち、市場で見舞いの花を買っていく。
病院の正面玄関には昨日と同じ兵士が立っていた。花を持った唯音を見ると、今日は丁寧な態度で、
「貴堂大佐の姪御さんですね。ご苦労さまです。どうぞお通りください」
軽く頭を下げて唯音は玄関をくぐった。広い廊下をこつこつと歩き、病室のドアを小さくノックする。
どうぞ、と中から返ってきた声に、唯音は息を呑んだ。声の主が静かにドアを開けてくれる。
思った通り、そこにいたのは悠哉だった。
複雑な思いをかかえて二人は見つめあい、やがて唯音は唇を動かした。
「悠哉さんも来ていたのね。おじさまの具合はどう?」
「大佐なら今はよく眠っているよ」
小声でそう言いながら身を引き、唯音を中に入れてくれる。
唯音はおじの枕もとにかがみこみ、顔を覗き込んだ。悠哉の言った通り、穏やかに眠っている。
その眠りを妨げないように、唯音は枕もとからそっと立ち上がった。
ベッドの脇のテーブルに花を置き、取ってのついた紙袋から透明なガラスの花瓶を取り出す。自分のアパートから持ってきたものだ。
「ちゃんと花瓶まで持ってくるなんて、さすがだな」
悠哉は感心しながら、窓きわに置いてあった花束を差し出す。
「唯ちゃん、これも一緒に飾ってもらえるかな。病院ってところは殺風景だと思ってね、花は買ってきたんだが、花瓶までは思いつかなかった」
「そうね。男の人はそこまで考えつかないかもしれないわね。昨日来た時、確か花瓶はなかったと記憶していたの」
唯音は苦笑まじりに花を受け取り、病室に備え付けの洗面台で水を汲むと、二人分の花を少しぎゅうずめにして花瓶に活ける。
花を飾ってしまうと、唯音は悠哉に耳打ちした。
「おじさまもよく眠っていらっしゃるし、悠哉さん、今日はもうおいとましないこと?」
ああ、と悠哉が首是する。
「夕方からは、いつものようにブルーレディのステージがあるしね」
もう一度、おじの寝顔を確認すると、身の回りの品が入った袋を置き、唯音は静かに病室を出た。悠哉が後に続く。