第63話 突きつけられた現実
文字数 735文字
「リーリ、お願いよ。わたしをここから出して!」
「あんたの気持ちはわかるけど、ダメよ」
すがるように腕をつかむ唯音の手を、そっと外す。
「あたしたちも必死なのよ。放っておいたら仲間たちは処刑されてしまうわ。何としても取り戻さないと」
それだけ言うと、唯音の瞳を見つめ、
「別にあんたに罪はないわ。でも、あたしの両親だって何も悪いことなんてしちゃいなかったわ」
「あなたの、両親?」
怪訝そうに聞き返す唯音に冷たい声でリーリは続けた。
「五年前に上海で戦闘があったのを知ってる? 日本軍と、この国の軍隊が市街で戦ったのよ。大勢の人が戦闘に巻き込まれて死んだ。その中に、あたしの父さんと母さんもいたわ」
「……」
「あたしだけじゃない。あの人もそう」
「あの人?」
「リュウよ。彼もあたしと同じ、その時の戦闘で両親を殺されたのよ」
息を呑む唯音に、リーリの氷のようなまなざしが向けられる。
「勝手に入り込んで、権力を振りかざして……あんたたち外国人にどんな権利があるっていうの? ここはあたしたちの国よ!」
激しい言葉に唯音はうつむいた。ひとことも返せなかった。
リーリは高ぶった気持ちを落ち着けるように髪をかき上げると、いくぶん穏やかな口調になって語りかけた。
「心配しなくていいわ。あんたのおじさんがこちらの要求を呑んでさえくれれば、無事に帰してあげる」
慰めるように言ってテーブルに置いた皿を指差す。粗末な米の煮込み料理だった。
「食べといて。後で食器を取りに来るわ」
ドアが閉められ、次いで外からかんぬきと鍵のかかる音。
閉ざされたドアを見つめながら、唯音は再び硬い椅子に腰を降ろした。
眼の前に突きつけられた、残酷な現実。何も知らなかった自分。
途方に暮れるように彼女は両手で顔を覆った。
「あんたの気持ちはわかるけど、ダメよ」
すがるように腕をつかむ唯音の手を、そっと外す。
「あたしたちも必死なのよ。放っておいたら仲間たちは処刑されてしまうわ。何としても取り戻さないと」
それだけ言うと、唯音の瞳を見つめ、
「別にあんたに罪はないわ。でも、あたしの両親だって何も悪いことなんてしちゃいなかったわ」
「あなたの、両親?」
怪訝そうに聞き返す唯音に冷たい声でリーリは続けた。
「五年前に上海で戦闘があったのを知ってる? 日本軍と、この国の軍隊が市街で戦ったのよ。大勢の人が戦闘に巻き込まれて死んだ。その中に、あたしの父さんと母さんもいたわ」
「……」
「あたしだけじゃない。あの人もそう」
「あの人?」
「リュウよ。彼もあたしと同じ、その時の戦闘で両親を殺されたのよ」
息を呑む唯音に、リーリの氷のようなまなざしが向けられる。
「勝手に入り込んで、権力を振りかざして……あんたたち外国人にどんな権利があるっていうの? ここはあたしたちの国よ!」
激しい言葉に唯音はうつむいた。ひとことも返せなかった。
リーリは高ぶった気持ちを落ち着けるように髪をかき上げると、いくぶん穏やかな口調になって語りかけた。
「心配しなくていいわ。あんたのおじさんがこちらの要求を呑んでさえくれれば、無事に帰してあげる」
慰めるように言ってテーブルに置いた皿を指差す。粗末な米の煮込み料理だった。
「食べといて。後で食器を取りに来るわ」
ドアが閉められ、次いで外からかんぬきと鍵のかかる音。
閉ざされたドアを見つめながら、唯音は再び硬い椅子に腰を降ろした。
眼の前に突きつけられた、残酷な現実。何も知らなかった自分。
途方に暮れるように彼女は両手で顔を覆った。