第90話 流された血
文字数 623文字
「唯ちゃん!」
どこかで銃声がして、その音にまじって唯音を呼ぶ声に二人は同時に振り返った。
「悠哉さん!」
駆け寄ってくる姿に唯音は安堵の表情を浮かべた。
「よかった、無事だったのね」
「遅くなってすまない。同じアパートの親子を避難させていたんだ。母親が病気でね。唯ちゃんこそ無事でよかった」
かたわらまで来て唯音の腕に眼をとめ、悠哉は眉をひそめた。
「ケガしたのか」
「大丈夫よ。大したことないわ。彼が助けてくれたの」
悠哉は唯音からゆっくりと視線を移し、皮肉げに口を開いた。
「……あんたか」
刺のあるもの言いに首をかしげた直後、唯音は息を呑んだ。あろうことか、悠哉はリュウに銃を向けたのだ。
「悠哉さん、何を── !?」
狼狽する唯音には頓着せず、悠哉はリュウを見すえた。
「貴堂大佐は立派な人だった」
──おじさま……。
悠哉の唇からこぼれた名が胸をうずかせ、唯音は指を握った。
「軍人としても、個人としても、尊敬していた。血はつながっていなかったが、僕にもとてもよくしてくれた。あんたは、その仇 というわけだ。
話している間にもワルサーの銃口はまっすぐリュウに向けられている。
悠哉は本気だ。引き金に指をかけ、本当に撃つつもりだ。
「やめて、悠哉さん!」
必死に叫びながら、唯音は二人の間に立ちはだかった。
どいてくれ、と悠哉が顎をしゃくる。
「だめよ! これ以上、血を流してどうなるの。わたしたちまで殺しあうの!?」
もう、流された血は充分すぎるというのに。
どこかで銃声がして、その音にまじって唯音を呼ぶ声に二人は同時に振り返った。
「悠哉さん!」
駆け寄ってくる姿に唯音は安堵の表情を浮かべた。
「よかった、無事だったのね」
「遅くなってすまない。同じアパートの親子を避難させていたんだ。母親が病気でね。唯ちゃんこそ無事でよかった」
かたわらまで来て唯音の腕に眼をとめ、悠哉は眉をひそめた。
「ケガしたのか」
「大丈夫よ。大したことないわ。彼が助けてくれたの」
悠哉は唯音からゆっくりと視線を移し、皮肉げに口を開いた。
「……あんたか」
刺のあるもの言いに首をかしげた直後、唯音は息を呑んだ。あろうことか、悠哉はリュウに銃を向けたのだ。
「悠哉さん、何を── !?」
狼狽する唯音には頓着せず、悠哉はリュウを見すえた。
「貴堂大佐は立派な人だった」
──おじさま……。
悠哉の唇からこぼれた名が胸をうずかせ、唯音は指を握った。
「軍人としても、個人としても、尊敬していた。血はつながっていなかったが、僕にもとてもよくしてくれた。あんたは、その
話している間にもワルサーの銃口はまっすぐリュウに向けられている。
悠哉は本気だ。引き金に指をかけ、本当に撃つつもりだ。
「やめて、悠哉さん!」
必死に叫びながら、唯音は二人の間に立ちはだかった。
どいてくれ、と悠哉が顎をしゃくる。
「だめよ! これ以上、血を流してどうなるの。わたしたちまで殺しあうの!?」
もう、流された血は充分すぎるというのに。