第91話 再会と別離
文字数 812文字
「お願いだから、もうやめて……」
唯音は祈るような気持ちで悠哉を見つめた。
リュウは無言だった。弁解もしなけば、逃げようともしなかった。銃を向けた悠哉に無防備に身をさらすことで、自分自身を罰しているようにも見えた。
「悠哉さん──!」
唯音の哀願するような叫び。
その声に揺り動かされたように、悠哉はかまえていた銃を降ろした。リュウのためではない。唯音のために思いとどまったのだ。
ふいっと顔をそむけ、唯音が息をつめて見守る中で、低い声で告げる。
「とにかく、唯ちゃんを守ってくれたことは礼を言う」
それから、唯音の方を向いて、
「君を迎えに来た。ここにいちゃ危ない」
「でも共同租界も……」
「爆撃を受けたのは、ほんの一部だ。ブルーレディの建物も、みんなも無事だ」
「本当に!?」
「ああ。だが、早く避難しないと、またいつ戦闘になるかわからない」
「でも、わたしは……」
唯音の瞳が大きく見開かれ、彼女はすがるようにリュウを見た。だが、その視線を受けとめた彼は静かな口調で言った。
「悠哉の言う通りだ。彼と一緒に行くんだ」
愛しい者を見つめながら、唯音はためらいがちにかぶりを振る。
「いやよ、わたし……」
またどこかで銃声が響き、騒乱の気配がする。
「唯ちゃん、早く! 一刻を争うんだ」
「彼と行くんだ」
リュウは唯音の傷を負っていない方の腕をつかみ、強引に悠哉に託すと、自分は背を向けて歩き出した。
「待って!」
悠哉に支えらたまま、唯音は叫んだ。けれど、彼は振り向かなかった。
束の間の再会。そしてまた別離。
やっと会えたのに。もう離れないと心に決めたのに。
「わたし、待ってるわ。この戦争が終わるまで待ってるわ!」
だからその時は戻ってきて──。
想いを振りしぼった声には答えずに、彼の姿が遠ざかっていく。
極度の疲労と傷口からの出血のせいで、貧血を起こしかけていた。眩暈 がして視界がにじみ、薄れていく意識の中で、唯音は彼を呼び続けていた。
唯音は祈るような気持ちで悠哉を見つめた。
リュウは無言だった。弁解もしなけば、逃げようともしなかった。銃を向けた悠哉に無防備に身をさらすことで、自分自身を罰しているようにも見えた。
「悠哉さん──!」
唯音の哀願するような叫び。
その声に揺り動かされたように、悠哉はかまえていた銃を降ろした。リュウのためではない。唯音のために思いとどまったのだ。
ふいっと顔をそむけ、唯音が息をつめて見守る中で、低い声で告げる。
「とにかく、唯ちゃんを守ってくれたことは礼を言う」
それから、唯音の方を向いて、
「君を迎えに来た。ここにいちゃ危ない」
「でも共同租界も……」
「爆撃を受けたのは、ほんの一部だ。ブルーレディの建物も、みんなも無事だ」
「本当に!?」
「ああ。だが、早く避難しないと、またいつ戦闘になるかわからない」
「でも、わたしは……」
唯音の瞳が大きく見開かれ、彼女はすがるようにリュウを見た。だが、その視線を受けとめた彼は静かな口調で言った。
「悠哉の言う通りだ。彼と一緒に行くんだ」
愛しい者を見つめながら、唯音はためらいがちにかぶりを振る。
「いやよ、わたし……」
またどこかで銃声が響き、騒乱の気配がする。
「唯ちゃん、早く! 一刻を争うんだ」
「彼と行くんだ」
リュウは唯音の傷を負っていない方の腕をつかみ、強引に悠哉に託すと、自分は背を向けて歩き出した。
「待って!」
悠哉に支えらたまま、唯音は叫んだ。けれど、彼は振り向かなかった。
束の間の再会。そしてまた別離。
やっと会えたのに。もう離れないと心に決めたのに。
「わたし、待ってるわ。この戦争が終わるまで待ってるわ!」
だからその時は戻ってきて──。
想いを振りしぼった声には答えずに、彼の姿が遠ざかっていく。
極度の疲労と傷口からの出血のせいで、貧血を起こしかけていた。