第80話 閉ざされた場所
文字数 655文字
ありったけの食糧と身のまわりの品を鞄に詰め終えると、唯音はふう、と息をついて窓の外に眼をやった。
あとは悠哉を待つだけだった。
避難民でごった返す通りを悠哉は母親を背負い、美夜をかばいながら歩いていた。
額を汗が流れ落ちる。やせ細った母親の体は軽いとはいっても、人混みの中で幼い美夜をかばいながら進むのは容易ではなかった。
もうすぐだ、と悠哉は自分を励ました。角を曲がった向こうが目指す病院だ。
だが、門の前まで来て悠哉は愕然とした。何者をも拒絶するするように、病院の門はかたく閉ざされていた。
「開けてくれ! 病人なんだ」
中に向かって叫びながら門を叩く。しかし応答はなかった。
外の世界の騒乱とは裏腹に、高い塀と頑丈な門に守られた赤レンガ造りの建物はひっそりとしている。
医者や患者たちは戦闘を恐れて中で息をひそめているのか、それともどこかに避難してしまったのか、悠哉には判断がつきかねた。
背中で母親が、もういいんです、と消え入りそうな声で告げる。
「わたしは置いていってください。美夜だけを連れていって……」
何を言うんです、と悠哉が叱りつける。
「美夜ちゃんのためにも、がんばらなくては。確かこの先に、もう一軒病院があったはずだ」
「でも……」
「さあ、行きますよ」
母親を背負ったまま、再び歩き出す。幼い美夜が悠哉のベルトの端をつかんで、ちょこちょことついていく。
──唯ちゃん。
アパートで自分を待っているであろう唯音を思って、悠哉は唇を噛んだ。
この先の病院とて開いているかどうか、希望は持てなかった。
あとは悠哉を待つだけだった。
避難民でごった返す通りを悠哉は母親を背負い、美夜をかばいながら歩いていた。
額を汗が流れ落ちる。やせ細った母親の体は軽いとはいっても、人混みの中で幼い美夜をかばいながら進むのは容易ではなかった。
もうすぐだ、と悠哉は自分を励ました。角を曲がった向こうが目指す病院だ。
だが、門の前まで来て悠哉は愕然とした。何者をも拒絶するするように、病院の門はかたく閉ざされていた。
「開けてくれ! 病人なんだ」
中に向かって叫びながら門を叩く。しかし応答はなかった。
外の世界の騒乱とは裏腹に、高い塀と頑丈な門に守られた赤レンガ造りの建物はひっそりとしている。
医者や患者たちは戦闘を恐れて中で息をひそめているのか、それともどこかに避難してしまったのか、悠哉には判断がつきかねた。
背中で母親が、もういいんです、と消え入りそうな声で告げる。
「わたしは置いていってください。美夜だけを連れていって……」
何を言うんです、と悠哉が叱りつける。
「美夜ちゃんのためにも、がんばらなくては。確かこの先に、もう一軒病院があったはずだ」
「でも……」
「さあ、行きますよ」
母親を背負ったまま、再び歩き出す。幼い美夜が悠哉のベルトの端をつかんで、ちょこちょことついていく。
──唯ちゃん。
アパートで自分を待っているであろう唯音を思って、悠哉は唇を噛んだ。
この先の病院とて開いているかどうか、希望は持てなかった。