第30話 狙撃
文字数 663文字
いつしか季節の主役が花々から若葉に変わる頃。
その日、貴堂大佐は自宅から陸戦隊本部に向かっていた。
本部と自宅は同じ虹口 地区にあり、車でならさほどの距離ではない。
周囲を睥睨 するかのような、いかめしい建物の前で大佐は部下の運転する車を降りた。軍服の襟元を正し、正面玄関へと歩き出そうとした、その時だった。
背後にすっと黒塗りの車が止まった。車窓が開けられ、そこから大佐めがけて銃口が狙いを定める。
次の瞬間、一発の銃声が響き渡った。
あっという間の出来事だった。目的を果たした車はウインドウを閉め、猛然と走り去っていく。
「大佐!」
運転してきた部下が駆け寄り、倒れた大佐のかたわらにかがみこんだ。異変に建物からも兵たちが飛び出してくる。
「……大丈夫だ。大したことはない」
苦痛に顔を歪めつつ大佐は告げた。が、銃弾は右肩を貫き、軍服はみるみる血に染まっていく。
「傷にさわります。しゃべらないでください!」
まだ若い部下が応急処置をしながら、なかば怒鳴るように言った。
いつもと変わらぬ夕方。ブルーレディに出勤するため、アパートを出た唯音は大通りまで来て眼を見張った。
辺りには武装した兵士たちが大勢立っていたのだ。
兵士たちの表情は一様に険しく、周囲を威圧している。
また、テロでもあったのだろうか。
物々しい警戒に、唯音は落ち着かない気持ちで足早にその場を通り過ぎた。
確かにこの街は不穏だけれど、軍が力で制圧しようとしても無駄ではないだろうか……。
彼女には政治のことなどよくわからなかったが、そんな気がしてならなかった。
その日、貴堂大佐は自宅から陸戦隊本部に向かっていた。
本部と自宅は同じ
周囲を
背後にすっと黒塗りの車が止まった。車窓が開けられ、そこから大佐めがけて銃口が狙いを定める。
次の瞬間、一発の銃声が響き渡った。
あっという間の出来事だった。目的を果たした車はウインドウを閉め、猛然と走り去っていく。
「大佐!」
運転してきた部下が駆け寄り、倒れた大佐のかたわらにかがみこんだ。異変に建物からも兵たちが飛び出してくる。
「……大丈夫だ。大したことはない」
苦痛に顔を歪めつつ大佐は告げた。が、銃弾は右肩を貫き、軍服はみるみる血に染まっていく。
「傷にさわります。しゃべらないでください!」
まだ若い部下が応急処置をしながら、なかば怒鳴るように言った。
いつもと変わらぬ夕方。ブルーレディに出勤するため、アパートを出た唯音は大通りまで来て眼を見張った。
辺りには武装した兵士たちが大勢立っていたのだ。
兵士たちの表情は一様に険しく、周囲を威圧している。
また、テロでもあったのだろうか。
物々しい警戒に、唯音は落ち着かない気持ちで足早にその場を通り過ぎた。
確かにこの街は不穏だけれど、軍が力で制圧しようとしても無駄ではないだろうか……。
彼女には政治のことなどよくわからなかったが、そんな気がしてならなかった。