第77話 悪夢
文字数 620文字
「こんな混乱した状況だ。何が起こるかわからない。誰かが来ても不用意にドアを開けちゃいけない」
「わかったわ」
「じゃ、くれぐれも気をつけて。すぐに迎えに来るから」
「悠哉さんも気をつけて」
ああ、と小さく笑って悠哉が踵 を返す。その姿が階段の下に消えてしまうと唯音は急いで部屋に入り、中から鍵をかけた。
すでに他の住人たちはどこかに避難しているのだろう。建物のどこからも気配は感じられない。
クローゼットにしまってあった旅行鞄を取り出し、缶詰やビスケット、ありったけの食料をかき集める。
ビスケットの箱を手に、唯音は大きなため息をこぼした。
まるで悪夢の中にいるようだ。
戦争なんて新聞や映画の中の遠い出来事でしかなかったのに。
窓際に立って港を眺めると、あたりを威圧するかのように軍艦が停泊しているのが見えた。武力衝突に備え、日本軍が急遽 派遣してきた艦隊だった。
主砲を市街に向けた軍艦を見つめながら、おじさまが生きていらしたら何と言うかしら、とふと唯音は思った。
いつだったか、自分が軍人になったのは戦うためでなく、守るためだと話してくれた。
けれどこれは祖国を守るための戦いではない。どんなに言いつくろっても、強者が弱者を踏みつける侵略にすぎない。
──あんたたち外国人にどんな権利があるっていうの? ここはあたしたちの国よ!
以前聞いたリーリの言葉を胸に繰り返しながら、唯音はじっと窓際にたたずんでいた。
「わかったわ」
「じゃ、くれぐれも気をつけて。すぐに迎えに来るから」
「悠哉さんも気をつけて」
ああ、と小さく笑って悠哉が
すでに他の住人たちはどこかに避難しているのだろう。建物のどこからも気配は感じられない。
クローゼットにしまってあった旅行鞄を取り出し、缶詰やビスケット、ありったけの食料をかき集める。
ビスケットの箱を手に、唯音は大きなため息をこぼした。
まるで悪夢の中にいるようだ。
戦争なんて新聞や映画の中の遠い出来事でしかなかったのに。
窓際に立って港を眺めると、あたりを威圧するかのように軍艦が停泊しているのが見えた。武力衝突に備え、日本軍が
主砲を市街に向けた軍艦を見つめながら、おじさまが生きていらしたら何と言うかしら、とふと唯音は思った。
いつだったか、自分が軍人になったのは戦うためでなく、守るためだと話してくれた。
けれどこれは祖国を守るための戦いではない。どんなに言いつくろっても、強者が弱者を踏みつける侵略にすぎない。
──あんたたち外国人にどんな権利があるっていうの? ここはあたしたちの国よ!
以前聞いたリーリの言葉を胸に繰り返しながら、唯音はじっと窓際にたたずんでいた。