第65話 拒絶
文字数 670文字
「ずいぶん強情な娘じゃないか」
「おとなしくしていればいいものを、手間を取らせやがって──」
男のひとりに腕をつかまれ、逃れようとする唯音の頬が鳴った。力まかせに殴られ、彼女は地面に倒れ伏した。
口の中に血の味が広がっていく。殴られた時に切ったらしかった。
男は倒れた唯音の腕を再びつかみ、強引に引き起こす。再び殴られるのを予想して、ぎゅっと眼を閉じる。
が、男が手を振り上げた時だった。
「やめろ!」
鋭い制止に動きが止まった。建物から出てきた男が走り寄って来る。それが誰かは声でわかった。
たった今、交渉がまとまった、とリュウは周囲の男たちを見渡して告げた。
「貴堂大佐は我々の要求を承諾した。この娘は捕えられた同志と交換するための大切な人質だ。手を出すな」
腕をつかんでいた男が舌打ちして唯音を離す。よろける彼女をリュウが支えた。
交渉がまとまった?
信じられない思いで唯音は顔を上げ、リュウを凝視した。
貴堂のおじが人質交換などを承知したというのだろうか。
殴られた頬がひどく痛んだ。口もとに血をにじませた唯音の姿にリュウが固唾を呑んだ。
「どうして、こんな無茶を……」
唯音は答えなかった。口の中が切れて、うまくしゃべれなかったせいもある。
「とにかく部屋に戻ってくれ。あと少しの辛抱だ」
敵意をみなぎらせた仲間たちからかばうように、リュウは彼女の肩を抱いて屋敷へと引き返そうとする。
だが、唯音はその手を振り払った。
「……ないで」
「え?」
「わたしに……さわらないで!」
傷ついた彼女は、それでもありったけの気力を振りしぼって彼を拒絶した。
「おとなしくしていればいいものを、手間を取らせやがって──」
男のひとりに腕をつかまれ、逃れようとする唯音の頬が鳴った。力まかせに殴られ、彼女は地面に倒れ伏した。
口の中に血の味が広がっていく。殴られた時に切ったらしかった。
男は倒れた唯音の腕を再びつかみ、強引に引き起こす。再び殴られるのを予想して、ぎゅっと眼を閉じる。
が、男が手を振り上げた時だった。
「やめろ!」
鋭い制止に動きが止まった。建物から出てきた男が走り寄って来る。それが誰かは声でわかった。
たった今、交渉がまとまった、とリュウは周囲の男たちを見渡して告げた。
「貴堂大佐は我々の要求を承諾した。この娘は捕えられた同志と交換するための大切な人質だ。手を出すな」
腕をつかんでいた男が舌打ちして唯音を離す。よろける彼女をリュウが支えた。
交渉がまとまった?
信じられない思いで唯音は顔を上げ、リュウを凝視した。
貴堂のおじが人質交換などを承知したというのだろうか。
殴られた頬がひどく痛んだ。口もとに血をにじませた唯音の姿にリュウが固唾を呑んだ。
「どうして、こんな無茶を……」
唯音は答えなかった。口の中が切れて、うまくしゃべれなかったせいもある。
「とにかく部屋に戻ってくれ。あと少しの辛抱だ」
敵意をみなぎらせた仲間たちからかばうように、リュウは彼女の肩を抱いて屋敷へと引き返そうとする。
だが、唯音はその手を振り払った。
「……ないで」
「え?」
「わたしに……さわらないで!」
傷ついた彼女は、それでもありったけの気力を振りしぼって彼を拒絶した。