第31話 アレクセイ
文字数 661文字
厳重な警戒の通りを抜け、ブルーレディに急ぐ。店の裏口まで来て、やっと安堵の息をつく。
「おはよう、ユイネ」
ほっとしたところに突然声をかけられ、どきっとして振り向くと。
「ああ、アレクセイ」
相手の顔を見て唯音は笑いかけた。仲のいいウエイター長だった。ロシアの出身で、彼がまだ子供だった頃に革命が起こり、両親と共にこの街に逃げてきたのだと言っていた。
「もうっ、驚かさないで。びっくりしたわ」
「そいつは悪かったね。でも、どうしてそんなにびくびくしていたんだい?」
「何か事件があったらしいの。来る途中で物々しい警備が敷かれていたわ」
「やれやれ、また事件か」
額にかかる金髪をかきやり、彼は眉根を寄せる。
「いつになったら安心できる世の中になるんだろうな」
「まったくね……」
「ところで、話は変わるけど」
アレクセイが先に立ってドアを開けてくれながら、いたずらっぽい視線を投げてよこす。
「最近、ブルーレディでの噂を知ってるかい?」
「知らないわ。なあに?」
唯音がたずねると、彼は片眼をつむってみせた。
「君のことさ。もっぱらの噂だよ。ユイネが最近とても綺麗になった。恋でもしてるんじゃないか、ってね」
「まあ」
口もとに手を当てて唯音は赤くなった。
「僕もそう思うな。本当に、近頃のユイネは綺麗になった。あ、もちろん前から美人だったけどね」
「とってつけたように言わなくていいわ。お世辞が上手ね、アレクセイ」
「お世辞なんかじゃないよ。ユイネの恋人が羨ましいくらいさ」
リュウの姿が心をよぎり、くすぐったいような甘やかな気持ちで、そっと微笑む。
「おはよう、ユイネ」
ほっとしたところに突然声をかけられ、どきっとして振り向くと。
「ああ、アレクセイ」
相手の顔を見て唯音は笑いかけた。仲のいいウエイター長だった。ロシアの出身で、彼がまだ子供だった頃に革命が起こり、両親と共にこの街に逃げてきたのだと言っていた。
「もうっ、驚かさないで。びっくりしたわ」
「そいつは悪かったね。でも、どうしてそんなにびくびくしていたんだい?」
「何か事件があったらしいの。来る途中で物々しい警備が敷かれていたわ」
「やれやれ、また事件か」
額にかかる金髪をかきやり、彼は眉根を寄せる。
「いつになったら安心できる世の中になるんだろうな」
「まったくね……」
「ところで、話は変わるけど」
アレクセイが先に立ってドアを開けてくれながら、いたずらっぽい視線を投げてよこす。
「最近、ブルーレディでの噂を知ってるかい?」
「知らないわ。なあに?」
唯音がたずねると、彼は片眼をつむってみせた。
「君のことさ。もっぱらの噂だよ。ユイネが最近とても綺麗になった。恋でもしてるんじゃないか、ってね」
「まあ」
口もとに手を当てて唯音は赤くなった。
「僕もそう思うな。本当に、近頃のユイネは綺麗になった。あ、もちろん前から美人だったけどね」
「とってつけたように言わなくていいわ。お世辞が上手ね、アレクセイ」
「お世辞なんかじゃないよ。ユイネの恋人が羨ましいくらいさ」
リュウの姿が心をよぎり、くすぐったいような甘やかな気持ちで、そっと微笑む。