第53話 拉致
文字数 844文字
公園の出口に向かい、ひっそりと寄り添って歩く。まるで人目をはばかるように。
「彼らを助けたい。いや、どうしても助けなくちゃいけない」
唯音はそっと彼の腕にふれた。
「あなたの気持ちはわかるわ。どうすれば助けられるかしら。何かしたくても、わたしには……」
どうすることもできない、と言いかける唯音をさえぎり、彼が真摯な表情で語りかける。
「約束してくれないか。何があっても俺を信じてくれると」
「リュウ?」
彼の意図がまるでわからず、唯音の瞳に当惑した色が浮かぶ。
「どういう意味なの?」
「決して悪いようにはしない。一緒に来て欲しいんだ」
「どこへ? わたし、お店の始まる時間だわ」
いつの間にか二人は公園の出口まで来ていた。大通りではない。人の往来の少ない小路に面した出口だ。
公園を出た路上に一台の黒塗りの車が止まっていた。
「乗って」
「この車に? なぜ?」
彼女の疑問には答えず、背中を押す。車の中には運転手も含めて二人の男が座っていた。
何か、ただならぬ事態が起こりつつあるのを、唯音は察した。
このまま乗ってはいけない、と自分自身に警告する。
今、背後にいるのはリュウだけだ。
車から逃れて大声を上げれば、周囲の誰かが聞きつけ、来てくれるかもしれない。
一度、乗るふりをして唯音はとっさに身をひるがえし、車から離れようとした。
が、それより早く、後部座席にいた男が彼女の腕をつかんだ。
「何を……!?」
叫ぼうとした先は声にならなかった。薬品臭が鼻につく。いきなり布で鼻と口をふさがれ、抵抗する間もなく意識が薄れていく。
なぜ? どうしてこんな……。
そんな疑問を最後に、彼女の意識は途絶えていった。
人けのない通りでの、ほんの一、二分の出来事だった。車は何事もなかったように、夕暮れの街を発進した。
店に出勤の時間なのに、唯音が姿を見せない。連絡も入っていない。今まで一度も、こんなことはなかったのに。
ブルーレディの支配人、巳月が困惑顔で悠哉に言ってきたのは、それから一時間後のことだった。
「彼らを助けたい。いや、どうしても助けなくちゃいけない」
唯音はそっと彼の腕にふれた。
「あなたの気持ちはわかるわ。どうすれば助けられるかしら。何かしたくても、わたしには……」
どうすることもできない、と言いかける唯音をさえぎり、彼が真摯な表情で語りかける。
「約束してくれないか。何があっても俺を信じてくれると」
「リュウ?」
彼の意図がまるでわからず、唯音の瞳に当惑した色が浮かぶ。
「どういう意味なの?」
「決して悪いようにはしない。一緒に来て欲しいんだ」
「どこへ? わたし、お店の始まる時間だわ」
いつの間にか二人は公園の出口まで来ていた。大通りではない。人の往来の少ない小路に面した出口だ。
公園を出た路上に一台の黒塗りの車が止まっていた。
「乗って」
「この車に? なぜ?」
彼女の疑問には答えず、背中を押す。車の中には運転手も含めて二人の男が座っていた。
何か、ただならぬ事態が起こりつつあるのを、唯音は察した。
このまま乗ってはいけない、と自分自身に警告する。
今、背後にいるのはリュウだけだ。
車から逃れて大声を上げれば、周囲の誰かが聞きつけ、来てくれるかもしれない。
一度、乗るふりをして唯音はとっさに身をひるがえし、車から離れようとした。
が、それより早く、後部座席にいた男が彼女の腕をつかんだ。
「何を……!?」
叫ぼうとした先は声にならなかった。薬品臭が鼻につく。いきなり布で鼻と口をふさがれ、抵抗する間もなく意識が薄れていく。
なぜ? どうしてこんな……。
そんな疑問を最後に、彼女の意識は途絶えていった。
人けのない通りでの、ほんの一、二分の出来事だった。車は何事もなかったように、夕暮れの街を発進した。
店に出勤の時間なのに、唯音が姿を見せない。連絡も入っていない。今まで一度も、こんなことはなかったのに。
ブルーレディの支配人、巳月が困惑顔で悠哉に言ってきたのは、それから一時間後のことだった。