第36話 褒め言葉
文字数 443文字
廊下でドアを閉めたとたん、今までこらえていた感情があふれてきて唯音は両手で顔をおおった。涙が次々にあふれてくる。
「唯ちゃん……」
悠哉が彼女の肩を抱くようにして、病院の正面玄関まで歩かせる。
先ほど案内してくれた、おじの友人の士官の姿は見当たらなかった。警備に当たる兵士たちも帰りはすんなりと通してくれた。
ここから唯音のアパートまでは歩いていける距離だ。彼女の歩調に合わせて通りをゆっくりと歩きながら、悠哉が語りかける。
「今日は店は休んで、アパートに帰った方がいい」
「でも……」
「支配人には事情を話してある。今はゆっくり休むんだ。でないと、唯ちゃんの方がまいってしまう」
「わたし、プロとして失格ね」
「そんなことはないさ。休養をとって、また明日からよいステージを務めてくれればいい」
唯音は眼をこすって、
「優しいのね、悠哉さん」
「そいつは男にとって、あまり褒め言葉になってないな」
通りに植えられたアカシアの葉陰の下、薄手のコートのポケットに両手を入れたまま、悠哉は苦笑いを浮かべた。
「唯ちゃん……」
悠哉が彼女の肩を抱くようにして、病院の正面玄関まで歩かせる。
先ほど案内してくれた、おじの友人の士官の姿は見当たらなかった。警備に当たる兵士たちも帰りはすんなりと通してくれた。
ここから唯音のアパートまでは歩いていける距離だ。彼女の歩調に合わせて通りをゆっくりと歩きながら、悠哉が語りかける。
「今日は店は休んで、アパートに帰った方がいい」
「でも……」
「支配人には事情を話してある。今はゆっくり休むんだ。でないと、唯ちゃんの方がまいってしまう」
「わたし、プロとして失格ね」
「そんなことはないさ。休養をとって、また明日からよいステージを務めてくれればいい」
唯音は眼をこすって、
「優しいのね、悠哉さん」
「そいつは男にとって、あまり褒め言葉になってないな」
通りに植えられたアカシアの葉陰の下、薄手のコートのポケットに両手を入れたまま、悠哉は苦笑いを浮かべた。