第69話 裏切り

文字数 350文字

 が、次の瞬間、別の銃声があたりに響いた。持っていた銃を落とし、男は手をおさえてうめき声を上げた。
「誰だ !?
 そこに立つ姿に、撃たれた男、そして唯音と悠哉は信じられないものを見るように、眼を見開いた。
 銃を手に、無言でたたずんでいたのはリュウだった。
「どういうことだ、リュウ !? 何のつもりだ !?
 手もとを押さえたまま叫ぶ男に、リュウは答えない。
「仲間を撃つのか!? 裏切者!」
 言葉を返す代わりに、混乱するばかりの唯音の手を引いて彼は倉庫街へと走り出した。
「唯ちゃん!」
 後を追おうと立ち上がろうとして、肩の傷の痛みに悠哉はよろめいた。
 倉庫の陰に二人の姿が消える。桟橋の方ではまだ銃声が続いている。
「大佐! 貴堂大佐!」
 運転席から飛び出してきた部下が大佐を抱き起し、必死に呼びかけた。

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登場人物紹介

貴堂唯音(きどうゆいね)


十八歳。日本での窮屈な暮らしから逃れ、歌手をめざして上海にやって来る。

中原悠哉(なかはらゆうや)


唯音の義理の兄。上海でジャズ・ミュージシャンをしている。

リュウ


唯音が出会った中国人の青年。上海を離れていたが、ある目的を秘めて戻って来る。

貴堂大佐


唯音のおじ。武官として上海に駐在している。

早くに妻を亡くし、唯音を実の娘のように可愛がっている。

アレクセイ


ナイトクラブ「ブルーレディ」のウェイター長。彼が子供の頃、祖国で革命が起こり、両親と共に上海に逃れてきた。

リーリ


ブルーレディの踊り子。リュウとはかつて恋人同士だったと言うが……。

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