第88話 銃口
文字数 691文字
──リュウ。
不意に懐かしい、愛しい者の名が胸をよぎり、唯音は片手で顔をおおった。
こんなことになるのなら。あの別れの時、もう一度、愛していると言っておけばよかった。
裏切りや憎しみ。けれど、それ以上に愛していることを、今頃になって思い知るなんて……。
後悔にさいなまれる唯音の前に、突然、人影が立ちはだかった。おそらくは彼女を追ってきた、銃をもった暴徒だった。
憎悪をむき出しにした男が何か叫び、銃口が向けられる。
──殺される!
死の恐怖が唯音を鷲掴みにした。全身が凍りつき、きつく眼を閉じる。
が、予想に反して銃声は響かなかった。
「……?」
おそるおそる眼を開けた彼女の前に、意外な光景があった。
彼女に銃を突きつけた男は地面に倒れ伏し、そしてもうひとり、中国服を着た男がこちらを見つめていた。
その姿を見て唯音は驚愕した。
「リュウ!」
息を呑み、何度もまばたきする。信じられない想いが彼女を包む。
「あなた、どうして……」
「話は後だ。こっちへ!」
唯音の手を引き、建物の陰に身をひそめる。彼女の腕に眼を止めると彼は眉根をよせた。
「やられたのか。見せてごらん」
唯音は言われるままに胸を向け、彼がポケットから布を取り出す。
「……つうっ」
傷口を布でしばられ、顔をしかめる唯音に語りかける。
「ちょっと我慢してくれ。止血しないといけない」
うなずいて、唯音は歯を食いしばった。
応急手当てを終えた彼が顔を上げると、眼が合い、唯音の頬を涙がころがり落ちた。
「夢みたい……また会えるなんて」
死を覚悟した時、誰よりも会いたかった人。望みが本当にかなったなんて、まだ信じられない気がする。
不意に懐かしい、愛しい者の名が胸をよぎり、唯音は片手で顔をおおった。
こんなことになるのなら。あの別れの時、もう一度、愛していると言っておけばよかった。
裏切りや憎しみ。けれど、それ以上に愛していることを、今頃になって思い知るなんて……。
後悔にさいなまれる唯音の前に、突然、人影が立ちはだかった。おそらくは彼女を追ってきた、銃をもった暴徒だった。
憎悪をむき出しにした男が何か叫び、銃口が向けられる。
──殺される!
死の恐怖が唯音を鷲掴みにした。全身が凍りつき、きつく眼を閉じる。
が、予想に反して銃声は響かなかった。
「……?」
おそるおそる眼を開けた彼女の前に、意外な光景があった。
彼女に銃を突きつけた男は地面に倒れ伏し、そしてもうひとり、中国服を着た男がこちらを見つめていた。
その姿を見て唯音は驚愕した。
「リュウ!」
息を呑み、何度もまばたきする。信じられない想いが彼女を包む。
「あなた、どうして……」
「話は後だ。こっちへ!」
唯音の手を引き、建物の陰に身をひそめる。彼女の腕に眼を止めると彼は眉根をよせた。
「やられたのか。見せてごらん」
唯音は言われるままに胸を向け、彼がポケットから布を取り出す。
「……つうっ」
傷口を布でしばられ、顔をしかめる唯音に語りかける。
「ちょっと我慢してくれ。止血しないといけない」
うなずいて、唯音は歯を食いしばった。
応急手当てを終えた彼が顔を上げると、眼が合い、唯音の頬を涙がころがり落ちた。
「夢みたい……また会えるなんて」
死を覚悟した時、誰よりも会いたかった人。望みが本当にかなったなんて、まだ信じられない気がする。