第18話 不夜城
文字数 525文字
深夜、ミッシェルも閉まる頃、二人は夜風に吹かれながら港沿いを歩いていた。
夜の外灘 は車のライトが絶え間なく流れ、さながら光の川だった。不夜城──眠ることのない街。
「楽しかったか?」
「ええ、とても」
風になびく髪をかきやりながら唯音ははしゃいだ声で答え、それからふっと真顔になってたずねかけた。
「どうして? リュウ、どうしてあなたはわたしを誘ってくれたの?」
彼が少しからかうような口調で問い返す。
「いけないかい?」
「──いいえ」
とっさにかぶりを振る唯音に、彼は自分でもとまどうようにつぶやいた。
「さあ、なぜだろうな……」
背後から追い越していく車のライトに、不意にある女性の面影が浮かび上がった。
スン・メイイン。優しく美しかった父の妹。といっても彼女は養女だったから、直接血のつながりはない。にもかかわらず両親が死んだ後、自分を育ててくれた。
彼女は歌が好きで、よく金糸雀 のような声で口ずさんでいた。唯音の歌声はどことなくメイインに似ていた。
白い船が港を静かにすべっていった。その窓の明かりを眺めながら、二人は黙って歩き続けた。
唯音は心が揺れるのを感じていた。この精悍 な若い男に。
彼女はまだ何も知らなかった。彼の素性も、秘めた任務も……。

夜の
「楽しかったか?」
「ええ、とても」
風になびく髪をかきやりながら唯音ははしゃいだ声で答え、それからふっと真顔になってたずねかけた。
「どうして? リュウ、どうしてあなたはわたしを誘ってくれたの?」
彼が少しからかうような口調で問い返す。
「いけないかい?」
「──いいえ」
とっさにかぶりを振る唯音に、彼は自分でもとまどうようにつぶやいた。
「さあ、なぜだろうな……」
背後から追い越していく車のライトに、不意にある女性の面影が浮かび上がった。
スン・メイイン。優しく美しかった父の妹。といっても彼女は養女だったから、直接血のつながりはない。にもかかわらず両親が死んだ後、自分を育ててくれた。
彼女は歌が好きで、よく
白い船が港を静かにすべっていった。その窓の明かりを眺めながら、二人は黙って歩き続けた。
唯音は心が揺れるのを感じていた。この
彼女はまだ何も知らなかった。彼の素性も、秘めた任務も……。
