第13話:お願い

文字数 2,467文字

<2年生 7月初旬>

「山葉くん、わたしやっぱり諦められないよ」
「今さらそんなこと。あのとき分かったって言ったじゃないか」
「確かに言ったよ。でも、忘れられないよ、山葉くんのこと。前みたいに、また一緒に…」
「ごめん。何て言われようとダメだよ。確かに俺も一緒に帰ったりプールに行ったりした。それは認めるよ。それで君を誤解させたって言うんなら謝る。このとおりだ。許してくれ」
「そ、そんな」
「でも、今、好きな子がいるんだ。君とは付き合えない」
「そ、そんな。わたしのこと捨てるの」
「捨てるなんて人聞き悪いこと言うなよ。捨てる以前に君と恋人になったつもりなんかないし、愛だとか、そんなこと考えたことないって」
「…酷い。わたしのこと弄んで、いらなくなったとたん、ボロ雑巾のように捨てるんだ」
「ちょっと待てよ! なんだよそれ! 勝手に勘違いしてたの、そっちだろう」
「許さない…わたし、絶対に許さないからっ!」
「やめろよ! 何言ってんだ!」
「捨てられた! わたし、山葉くんに捨てられたぁぁぁぁぁ!」

昼休み、突然オレの机に来た涼子と言い合いになった。
涼子は勝手にあることないことわめきたて、最後にはその場で泣き崩れてしまった。

「本当なの、山葉くん」
「か、かすみ」

「あ~あ、結局フタマタだったんだ。2人とも可哀想」
「春菜…」

「ほんとあなた、最っ低な人ね。人の着替えを覗くだけのことはあるわね」
「…くっ」

「お前、女を泣かすなんてサイテーだな」
「と、東城ぉ」

「あはは、わたしを捨てたバチよ」

「さようなら、山葉くん」
「待ってくれ、かすみ。待ってくれええ」・・・・・
   §
   §
   §
・・・・・だああああ! またこの夢かよ!

昨夜もこの夢を見たんですが。
まさか、学校での昼寝でまで見ちまうとは、うう。


かすみはきょう、熱が出て休みだ。
テスト前だってのに、風邪が流行ってるからだ。
他にも休んでる生徒が何人もいる。
昨日一緒に帰ったとき、少し咳き込んでいたので気になってはいたが、その後具合が悪くなったそうだ。
朝、出掛けにスマホに連絡が入った。
帰りに見舞いに寄ると伝えたが、伝染すと悪いから気持ちだけもらっておくと丁寧に断られた。

そんなこともあり、今日は久しぶりに昼飯は1人。
東城と春菜の3人で食べようかとも思ったが、チャイムが鳴ると同時に2人してダッシュで飛び出していきやがった。
最近、周りにコンビニやファストフードがないことに目をつけたキッチンカーが学校の近くに来るようになり、生徒の間で結構なブームだ。
クレープやたこ焼きみたいな軽食系だけでなく、ケバブの車まで来てるらしい。
作ってるのはヒゲをはやした中近東系だっていうから、本格的なのかもしれない。

俺は学食で1人ってのもわびしいから売店でパンを買い、この屋上でパックの牛乳とともに流し込んだあと、つい寝込んじまったってワケだ。
夢が夢だから寝覚めはすこぶる悪かったが。

起きて周りを見回すと、弁当を広げてる連中や、フェンスにもたれかかって話に花を咲かせてる真っ最中って姿が目に入った。
ということはまだ昼休み。
寝たといっても、ほんの数分のことだろう。

天気予報だと南の方に台風がいて、上陸はしないがゲリラ豪雨には気を付けた方がいいらしい。
今夜はもちそうだが、明日からは影響が出るだろうって話だ。
今はまだそんな気配はまるでなく、青空も見えている。
しかしさすがは台風。
時折、何となく生暖かい風が吹いてくる。

女生徒のスカートや髪が風で揺れる。
丈の短い娘が多いので、フェンスに寄りかかっている俺からはスカートの中が見えそうだ。

「いかんいかん」

あらぬ疑いを掛けられたら御山の件もあるし、どんな目に遭わされるか分かったもんじゃない。

俺は頭をすっきりさせたくもあったので、顔を洗いに行くため立ち上がり、4階に下りる階段室の扉を開けた。
鉄のドアなので結構重い。
勢いよく開けて入ろうとしたその瞬間、誰かと思いっきり衝突した。

「っ!」

女の子は声にならぬ声を上げると、痛さと、衝突した驚きでその場に尻餅をついてしまった。

「あ、ごめん! 大丈夫?」

俺は思わずかがみ、声をかけた。

「いえ、驚いただけですから。いいんです。申し訳ありません、こちらこそ」

今風でない、丁寧な言葉遣い。
ショートだが、尻餅の衝撃でところどころ髪の毛が跳ね上がっている。
華奢な体つき、端正な顔立ち。
スカートの裾を押さえ、ほんの少し頬を赤らめて上目遣いに見上げた女の子は、同じクラスの吉村(よしむら)莉緒(りお)だった。

吉村とはほとんど口をきいたことがない。
あまり活発な印象もなく、他の女生徒曰く「何を考えてるのか、いまいち掴めない」子だ。
性格が正反対に見える椎名とはなぜか仲がいいらしいが、それ以外の女子としゃべっているところはあまり見たことがない。

「ごめんなさい。驚かせてしまって」
「こっちこそごめん。立てる?」

俺は吉村に手を貸し、立ち上がるのを手助けしてやった。

「あ、ありがとう…ございます」
「いいよ、いいよ、俺も不注意だったし。じゃ、行くから」
「はい…あ、あの」
「え?」
「あ、な、なんでもありません。失礼…します」

やっぱ変わってるよな、あの娘。
確かに掴みどころがねーや。
ま、俺には関係ないけど。

トイレで顔を洗い、教室へ戻った。


午後最後の授業も終わりHRだ。
隣の教室で授業だったかえで先生は、すぐにやってきた。
あまりにも早くやってきたので、日直が黒板を消すのが間に合わない。

「いいわよ、後で。にしても、すごい字ね」

そこには、とてもではないが字とは呼べないシロモノが書き連ねられていた。
辛うじて「気合」とか「抹殺」と読み取れるが…

「あ、そっか、数学だったわね」

なんともいえない、呆れたような顔でかえで先生は言うと、すぐに納得したようだ。

前の授業は数学。
ついさっき、数学担当教員の金剛こと、金村(かねむら)(つよし)が肩を怒らせながら出て行ったばかりだ。

「ま、いいわ。えーっと、それよりみんな聞いてくれる? お願いがあるんだけど」

かえで先生からのお願いということで、それまでざわめいていた教室内は一気に静まり返った。
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登場人物紹介

山葉譲二

・やまは/じょうじ

・2年N組

・出席番号:36

・1月16日生まれ

・16歳

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・本作の主役

・山葉美砂の兄

・部活は性に合わないのでやってない

・父親は樺太に赴任中で母親もたまに不在。こちらでは美砂と2人暮らしになるタイミングもある

・1年時はクラスの文化祭実行委員

・創立記念祭の実行委員

東城薫

・とうじょう/かおる

・2年N組

・出席番号:21

・2月10日生まれ

・16歳

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・本作の主役

・佐伯春菜の彼氏

・山葉譲二の親友

佐伯春菜

・さえき/はるな

・2年N組

・出席番号:15

・3月22日生まれ

・16歳

・帰宅部

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・東城の彼女。中学から付き合っている。小学校も同じだった

・東城、山葉の3人でつるんでいる

・父親が大手商社員

・東城の呼び方は「薫」。一人称は「わたし」

・中学時代はバレーが得意だったらしい

・山葉的には「バカそうに見えるが意思のはっきりした娘で、相手を立てるべきときはちゃんと立てる」良いやつ

・チャーミングで、ちょっとおバカで、スタイルもそこそこ

※アイコンは自作です

山葉美砂

・やまは/みさ

・1年B組

・1月22日生まれ

・15歳

・彩ケ崎中学出身

・家庭部

・電車通学

・山葉譲二の1歳違いの妹

・父の転勤の関係で1年の半分は譲二と2人だけで暮らしている

※アイコンは自作です

紅村涼子

・べにむら/りょうこ

・2年N組

・出席番号:30

・5月3日生まれ

・16歳

・彩ケ崎東中出身

・電車通学

・初期の主人公級キャラ

・ひょんなことから山葉に告って付き合うことになるが、山葉は何とか別れたいと思っている

・なんだかんだで結構可哀想な立ち位置のキャラ

・小5のときに家族の転勤で関西方面からやってきた

・メガネっ娘

※アイコンは自作です

一ノ瀬かすみ

・いちのせ/かすみ

・2年N組

・出席番号:5

・5月15日生まれ

・16歳

・茶道部

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・山葉譲二の幼稚園からの幼馴染。小学校で同級だった最後は6年生で、中学3年間はクラスが同じになることはなかった。譲二の妹・美砂のことも知っている

・おとなしく、相手を慮る気持ちが強い

・自宅は彩ケ崎駅南商店街の蕎麦屋「香澄庵」

・呼びかけ方は「山葉くん」。一人称は「わたし」

※アイコンは自作です

紫村かえで

・しむら/かえで

・2年N組担任(1~3年まで同じ)

・12月6日生まれ

・25歳

・中高大とも美咲女子

・国語担当

・紫村かなでの妹

・面倒見が良く生徒みんなから好かれている

・姉のかなでと一緒に伏木教頭の伯母が経営しているアパートに住んでいる

・軽自動車のコニーに乗っている

※アイコンは自作です

紫村かなで

・しむら/かなで

・2年K組担任

・10月9日生まれ

・26歳

・中高大とも美咲女子

・英語担当

・紫村かえでの姉

・妹かえでよりは性格がきつめ

※アイコンは自作です

穐山冴子

・あきやま/さえこ

・2年N組

・出席番号:1

・7月3日生まれ

・16歳

・フェンシング部

・内部生

・電車通学

・東京市赤坂区

・一応は電車通学

・1人娘で父親は軍人上がりの華族で会社経営者。金持ち

・同じく内部生の紀伊國蓮花と中学からとても親密

・穐山と紀伊國の父親同士は実は仕事での縁が深く旧知。そのため穐山も紀伊國も子供時代からお互いを知っていた

・紀伊國のことは「蓮花」。それ以外も男女問わず呼び捨て。一人称は「わたくし」

・いろんなシーンで登場する準メーンキャラ

※アイコンは自作です

鶯谷ミドリ

・うぐいすだに/みどり

・2年N組

・出席番号:6

・8月25日生まれ

・たぶん16歳

・出身中学設定なし(内部生ではない)

・自宅は東京市淀橋区

・通学手段不明

・一人称は「あたし」「あたしゃ」

・校内の情報に精通しており、ヤバい情報や資料を多数持っている敵に回してはならない女

・たまにしか登場しない

※アイコンは自作です

織川姫子

・おりかわ/ひめこ

・2年N組

・出席番号:7

・2月11日生まれ

・16歳

・内部生

・電車通学

・自宅は横濱。ここからはるばる通っている

・ティーンズ雑誌の街角美少女に選ばれたことがある

・山葉を山葉と呼び捨てで呼ぶ数少ない女子

・一人称は「わたし」

・呼びかけるとき必ず「やあ」で始まる

・登場回数は少なめ

・アイコンは自作です

柏木踊子

・かしわぎ/ようこ

・2年N組

・出席番号:8

・6月13日生まれ

・16歳

・吹奏楽部

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・かすみの実家・香澄庵近くにある小料理屋の娘で、商売柄親同士も仲がいい。かすみとは幼馴染

・後半は比較的登場回数が多い

・山葉と東城に何度かぱんつを見られる

・アイコンは自作です

紀伊國蓮華

・きのくに/れんげ

・2年N組

・出席番号:10

・11月21日生まれ

・16歳

・フェンシング部

・内部生

・電車通学

・自宅は東京市麻布区

・絶えず穐山とともにいる

・穐山のことは「冴子さん」と呼んでいる

・紀伊國と穐山の父親同士は実は仕事の縁で旧知。そのため穐山も紀伊國も子供時代からお互いを知っていた

・非常に清楚な出で立ちでモテるはずだが、穐山がいつもそばにいるので男は寄りつけない

※アイコンは自作です

来栖マリ子

・くるす/まりこ

・2年N組

・出席番号:12

・12月24日生まれ

・16歳

・内部生

・電車通学

・天然。ドジ。料理がゲロマズ(らしい)。憎めない性格

・入学したての主人公たちを校内探検に誘ってくれた

・物語の至る所に出没する

※アイコンは自作です

ジェシカ・ライジングサン

・6月30日生まれ

・2年N組

・出席番号:18

・16歳

・Jessica Risingsun

・アメリカ人の留学生でオタクだが、日本全般の知識が豊富

・同じアメリカ人のレナーテに誤情報を吹き込むことがあり、それが元でレナーテと犬猿の仲

・銀行支店長の家にホームステイしていたが、支店長が不正融資で逮捕され紫村姉妹の家に転がり込む

・本編での登場は少ないが番外編「紫村姉妹の居候」と「ジェシーとレナ」では主役扱い(連載が終わったら公開します)

※アイコンは自作です

慈乗院和歌男

・じじょういん/わかお

・2年N組

・出席番号:19

・10月3日生まれ

・16歳

・太刀川第2中学出身(太刀川市)

・自転車通学

・かえで先生のことが大好きな男子生徒

・中学ではバスケ部だった

・モブだったが、なんだかんだで後半は重要な役割を持つ

・親が、生まれるのは女の子なので「和歌子」って名前にしようと決めていたが、男だったのでヤケクソで和歌男にしたらしい(ただし風説の類)

船橋弥生

・ふなばし/やよい

・2年N組

・出席番号:29

・1月28日生まれ

・16歳

・彩ケ崎南中学出身(御山、吉村と同じ)

・体型はちょっと太めらしい(山葉の見立て)

・物語後半での登場頻度が非常に高いキーキャラ

※アイコンは自作です

御山沙貴子

・みやま/さきこ

・2年N組

・出席番号:33

・8月15日生まれ

・16歳

・彩ケ崎南中学出身(船橋、吉村と同じ)

・バレー部(後に主将)

・電車通学

・物語のとても重要な人物

・1年のとき山葉に着替えを覗かれて以来、山葉のことを徹底的に敵視している

・とても執念深い性格

・同じ中学出身の船橋による中学時代の回想が恐ろしい

※アイコンは自作です

吉村莉緒

・よしむら/りお

・2年N組

・出席番号:38

・11月7日生まれ

・16歳

・彩ケ崎南中学出身(船橋、御山と同じ)

・母親は死んでおり父親が男手ひとつで育てた。学費免除の特待生で入学

・実は美形

・おとなしい性格でクラスでも仲の良さそうな同級生はいないようだが、後半から出番が増える

※アイコンは自作です

レナーテ・バックマン

・2年N組

・出席番号:40

・2月24日生まれ

・16歳

・Renate Bachmann

・セミロングの金髪で青い目。日焼け対策で夏でも白の中間服を着ている

・横里米軍基地の軍医である父親について母と妹とともに日本に来たので留学ではない

・中学までは基地内のスクールだったが高校から神姫に入った

・兄もいるが本国で大学生

・ジェシカにはめられ変な日本語で恥をかかされることが多い

・春菜と仲がよくお泊まりに来たこともある

・日本語で「小川麗菜」という当て字の名前を持っている。ジェシカと吉村が考案したもの

※アイコンは自作です

小錦厚子

・こにしき/あつこ

・理事長兼校長

・誕生日設定なし

・年齢不詳だが60歳は超えてるだろう(山葉の想像)

・かつては国語教員だった

・なぜだか男には「セニョール」と話しかける(が、スペイン系ではない)

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