第5話:夜の公園

文字数 2,129文字

<2年生 6月6日>

「俺ちょっと出かけてくっから」
「ええっ?せっかく作ってるのにゴハンどうするのよ」
「帰ってから食うから置いといてくれ」
「だって、きょうギョーザ食べたいって言ってたの兄貴じゃない!出来合いじゃイヤだって言うから、わざわざ作ったんだからっ」
「いや、だから食わんとは言ってないだろ。急ぐんでな。じゃあな」

もどかしそうに靴を履くと、走って家を出た。

「バーカっ!」

妹・美砂の怒る声が後ろで小さくなっていく。

ただでさえ遅くなった晩飯。
やっとできそうだって時にいなくなれば、美砂でなくとも怒るだろう。
もう、夜も9時を回っている。
   ◇
   ◇
   ◇
俺はプールの医務室でキスを迫ってきた涼子から何とか逃れ、東城に連絡したのだった。
更衣室に戻り、カバンからスマホを取り出すと、奴に電話を入れた。

プルルルルル…プルルルルル

「何やってんだ。早く出ろ」

プルルルルル…プルルルルル

ゲーセンの中はうるせーから音がかき消されてるのか。
それともカラオケに夢中で、気付かないのか。

早く出ろって。

こっちから勝手に掛けておきながら、なかなか電話に出ない東城に悪態をつく。
春菜に掛けてもいいんだが、やっぱ、東城に先に話して、奴から春菜を連れて来さすのがいいように感じる。
だから東城に固執した。

プルルルルル…

諦めて切ろうとしたときに、やっと奴が出た。

「おう、東城! 俺だよ!」
「おお。ん…どした? 電話なんて珍しいじゃん」

てっきりゲーセンの騒音がBGMになるかと思っていたのだが、奴のいる場所は静かなところのようだ。
声がはっきりと聞こえる。

「いや、実は、お前…今夜ちょっち時間つくれねー?」
「構わねーけど、改まって何よ? ま、いいけど、で、何時に、どこよ?」

ごくっごくっ・・・

電話の向こうで、東城が何か液体を飲み込む音が聞こえた。

「いや、実は確かめたいことがあってな…」
「確かめたいこと?」

 「ねえねえ、何なの?」

話を続けようとしたら、電話から東城以外に女の声がかすかに聞こえてくる。
たぶん春菜だろう。

 「ん? 山葉。なんか相談あるって」
 「相談?」
 「なんか確かめてーとか」

おいおい、春菜と話をするのもいいが、まだ先はあるんだ。東城よ、電話に戻れっての。

「あ、わりわり。で、夜って何時よ?」
東城の声が大きくなった。

「頼んでて遅いのもなんだが、9時過ぎとか、どうよ?」

「9時過ぎ? ま、時間は構わねーけど、場所にもよるぞ」

 「9時過ぎ? 9時過ぎに何かあるの?」

また春菜の声がする。

 「今日の夜、9時過ぎに会えねーかって」
 「ふ~ん」

「で、9時過ぎだな。場所は?」
東城が再び戻った。

「いいか? じゃあ場所はな…」

 「わ、くすぐってえ!」
 「あははっ」
 「あ、って、おまえ、春菜、脇腹触んな」
 「えへへっ、きゃっ」
 「ばっ、やめろ」
 「きゃっ! エッチ! 胸触った!」

なんか、電話したタイミング、すげー拙かったみたいだ。
俺は思わず電話を顔から離し、睨み付けちまった。
こいつら、ゲーセンでもカラオケでもない、家かどっかでいちゃついてたんだろう。
アホらしいから会うのやめようかなとも思ったが、しかしそれでは俺が落ち着かない。

「お、わりわり、9時過ぎで、うひゃ、分かった。場所だけ、ひーっ、言ってくれ、場所、あひひ」
東城がまた戻ってきたが、声は完全に上ずっている。

「お前んチの近くの公園でどうよ? あの、ブランコのあるトコ」
俺は我関せずといった調子で、声の表情も変えずに伝えた。

「ああ、児童公園な。分かった。じゃ、9時過ぎに行くわ。ひひひ…」

 「ねぇ」

春菜の甘えるような声を聞きながら、俺は電話を切った。

「お楽しみのトコ、邪魔してわるうござんしたね」

ムカつくと同時に羨ましくもあったが、どうでもいい。
とにかく今は涼子対策だ。
彼女の件、誰が、どこまで知っていて、まだ知っていないクラスの連中に広がるのを防がねばならぬ。

電話を切ってから、春菜も連れて来いというのを忘れていたと気付いたが、まあ、いい。
東城の家の近くで会うんだし、春菜の家は奴の家のほとんどハス向かいだ。呼ばなくてもついてくるだろう。


更衣室に来たので、ついでに服に着替え、嫌だったがまた医務室に戻った。
その後、案の定、俺は涼子を途中まで送って帰るハメになった。
   ◇
   ◇
   ◇
9時過ぎって約束だったが、出るのに手間取り、家を出たのが9時過ぎじゃシャレにならんような気もするが。
東城はもう待っているだろうか。
俺んチから待ち合わせの児童公園まではダッシュで5、6分だ。
この公園は東城が住んでる団地の中にある。
ネコの額ほどの広さしかないが、一応、ブランコとか滑り台なんかもあって、昼間は小学生が遊んでたりする。

表通りに出たから、奴の団地まで一本道だ。
白百合台行きのバスに追い抜かれた。
客のオヤジと目が合っちまった。
見せモンじゃねえっつうの。

団地が見えてきた。
11階建ての集合住宅が6つ並んでいる。
時間が時間なので、ほとんどの家の主は帰ってきているようで、大部分の窓からは光が漏れている。
団地の中に入ると、公園はすぐそこだ。

「わりい、…んぐ、わりい」

姿を見つけ、息を切らせて声をかけた。

東城と春菜はブランコに乗って待っていた。
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登場人物紹介

山葉譲二

・やまは/じょうじ

・2年N組

・出席番号:36

・1月16日生まれ

・16歳

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・本作の主役

・山葉美砂の兄

・部活は性に合わないのでやってない

・父親は樺太に赴任中で母親もたまに不在。こちらでは美砂と2人暮らしになるタイミングもある

・1年時はクラスの文化祭実行委員

・創立記念祭の実行委員

東城薫

・とうじょう/かおる

・2年N組

・出席番号:21

・2月10日生まれ

・16歳

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・本作の主役

・佐伯春菜の彼氏

・山葉譲二の親友

佐伯春菜

・さえき/はるな

・2年N組

・出席番号:15

・3月22日生まれ

・16歳

・帰宅部

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・東城の彼女。中学から付き合っている。小学校も同じだった

・東城、山葉の3人でつるんでいる

・父親が大手商社員

・東城の呼び方は「薫」。一人称は「わたし」

・中学時代はバレーが得意だったらしい

・山葉的には「バカそうに見えるが意思のはっきりした娘で、相手を立てるべきときはちゃんと立てる」良いやつ

・チャーミングで、ちょっとおバカで、スタイルもそこそこ

※アイコンは自作です

山葉美砂

・やまは/みさ

・1年B組

・1月22日生まれ

・15歳

・彩ケ崎中学出身

・家庭部

・電車通学

・山葉譲二の1歳違いの妹

・父の転勤の関係で1年の半分は譲二と2人だけで暮らしている

※アイコンは自作です

紅村涼子

・べにむら/りょうこ

・2年N組

・出席番号:30

・5月3日生まれ

・16歳

・彩ケ崎東中出身

・電車通学

・初期の主人公級キャラ

・ひょんなことから山葉に告って付き合うことになるが、山葉は何とか別れたいと思っている

・なんだかんだで結構可哀想な立ち位置のキャラ

・小5のときに家族の転勤で関西方面からやってきた

・メガネっ娘

※アイコンは自作です

一ノ瀬かすみ

・いちのせ/かすみ

・2年N組

・出席番号:5

・5月15日生まれ

・16歳

・茶道部

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・山葉譲二の幼稚園からの幼馴染。小学校で同級だった最後は6年生で、中学3年間はクラスが同じになることはなかった。譲二の妹・美砂のことも知っている

・おとなしく、相手を慮る気持ちが強い

・自宅は彩ケ崎駅南商店街の蕎麦屋「香澄庵」

・呼びかけ方は「山葉くん」。一人称は「わたし」

※アイコンは自作です

紫村かえで

・しむら/かえで

・2年N組担任(1~3年まで同じ)

・12月6日生まれ

・25歳

・中高大とも美咲女子

・国語担当

・紫村かなでの妹

・面倒見が良く生徒みんなから好かれている

・姉のかなでと一緒に伏木教頭の伯母が経営しているアパートに住んでいる

・軽自動車のコニーに乗っている

※アイコンは自作です

紫村かなで

・しむら/かなで

・2年K組担任

・10月9日生まれ

・26歳

・中高大とも美咲女子

・英語担当

・紫村かえでの姉

・妹かえでよりは性格がきつめ

※アイコンは自作です

穐山冴子

・あきやま/さえこ

・2年N組

・出席番号:1

・7月3日生まれ

・16歳

・フェンシング部

・内部生

・電車通学

・東京市赤坂区

・一応は電車通学

・1人娘で父親は軍人上がりの華族で会社経営者。金持ち

・同じく内部生の紀伊國蓮花と中学からとても親密

・穐山と紀伊國の父親同士は実は仕事での縁が深く旧知。そのため穐山も紀伊國も子供時代からお互いを知っていた

・紀伊國のことは「蓮花」。それ以外も男女問わず呼び捨て。一人称は「わたくし」

・いろんなシーンで登場する準メーンキャラ

※アイコンは自作です

鶯谷ミドリ

・うぐいすだに/みどり

・2年N組

・出席番号:6

・8月25日生まれ

・たぶん16歳

・出身中学設定なし(内部生ではない)

・自宅は東京市淀橋区

・通学手段不明

・一人称は「あたし」「あたしゃ」

・校内の情報に精通しており、ヤバい情報や資料を多数持っている敵に回してはならない女

・たまにしか登場しない

※アイコンは自作です

織川姫子

・おりかわ/ひめこ

・2年N組

・出席番号:7

・2月11日生まれ

・16歳

・内部生

・電車通学

・自宅は横濱。ここからはるばる通っている

・ティーンズ雑誌の街角美少女に選ばれたことがある

・山葉を山葉と呼び捨てで呼ぶ数少ない女子

・一人称は「わたし」

・呼びかけるとき必ず「やあ」で始まる

・登場回数は少なめ

・アイコンは自作です

柏木踊子

・かしわぎ/ようこ

・2年N組

・出席番号:8

・6月13日生まれ

・16歳

・吹奏楽部

・彩ケ崎中学出身

・電車通学

・かすみの実家・香澄庵近くにある小料理屋の娘で、商売柄親同士も仲がいい。かすみとは幼馴染

・後半は比較的登場回数が多い

・山葉と東城に何度かぱんつを見られる

・アイコンは自作です

紀伊國蓮華

・きのくに/れんげ

・2年N組

・出席番号:10

・11月21日生まれ

・16歳

・フェンシング部

・内部生

・電車通学

・自宅は東京市麻布区

・絶えず穐山とともにいる

・穐山のことは「冴子さん」と呼んでいる

・紀伊國と穐山の父親同士は実は仕事の縁で旧知。そのため穐山も紀伊國も子供時代からお互いを知っていた

・非常に清楚な出で立ちでモテるはずだが、穐山がいつもそばにいるので男は寄りつけない

※アイコンは自作です

来栖マリ子

・くるす/まりこ

・2年N組

・出席番号:12

・12月24日生まれ

・16歳

・内部生

・電車通学

・天然。ドジ。料理がゲロマズ(らしい)。憎めない性格

・入学したての主人公たちを校内探検に誘ってくれた

・物語の至る所に出没する

※アイコンは自作です

ジェシカ・ライジングサン

・6月30日生まれ

・2年N組

・出席番号:18

・16歳

・Jessica Risingsun

・アメリカ人の留学生でオタクだが、日本全般の知識が豊富

・同じアメリカ人のレナーテに誤情報を吹き込むことがあり、それが元でレナーテと犬猿の仲

・銀行支店長の家にホームステイしていたが、支店長が不正融資で逮捕され紫村姉妹の家に転がり込む

・本編での登場は少ないが番外編「紫村姉妹の居候」と「ジェシーとレナ」では主役扱い(連載が終わったら公開します)

※アイコンは自作です

慈乗院和歌男

・じじょういん/わかお

・2年N組

・出席番号:19

・10月3日生まれ

・16歳

・太刀川第2中学出身(太刀川市)

・自転車通学

・かえで先生のことが大好きな男子生徒

・中学ではバスケ部だった

・モブだったが、なんだかんだで後半は重要な役割を持つ

・親が、生まれるのは女の子なので「和歌子」って名前にしようと決めていたが、男だったのでヤケクソで和歌男にしたらしい(ただし風説の類)

船橋弥生

・ふなばし/やよい

・2年N組

・出席番号:29

・1月28日生まれ

・16歳

・彩ケ崎南中学出身(御山、吉村と同じ)

・体型はちょっと太めらしい(山葉の見立て)

・物語後半での登場頻度が非常に高いキーキャラ

※アイコンは自作です

御山沙貴子

・みやま/さきこ

・2年N組

・出席番号:33

・8月15日生まれ

・16歳

・彩ケ崎南中学出身(船橋、吉村と同じ)

・バレー部(後に主将)

・電車通学

・物語のとても重要な人物

・1年のとき山葉に着替えを覗かれて以来、山葉のことを徹底的に敵視している

・とても執念深い性格

・同じ中学出身の船橋による中学時代の回想が恐ろしい

※アイコンは自作です

吉村莉緒

・よしむら/りお

・2年N組

・出席番号:38

・11月7日生まれ

・16歳

・彩ケ崎南中学出身(船橋、御山と同じ)

・母親は死んでおり父親が男手ひとつで育てた。学費免除の特待生で入学

・実は美形

・おとなしい性格でクラスでも仲の良さそうな同級生はいないようだが、後半から出番が増える

※アイコンは自作です

レナーテ・バックマン

・2年N組

・出席番号:40

・2月24日生まれ

・16歳

・Renate Bachmann

・セミロングの金髪で青い目。日焼け対策で夏でも白の中間服を着ている

・横里米軍基地の軍医である父親について母と妹とともに日本に来たので留学ではない

・中学までは基地内のスクールだったが高校から神姫に入った

・兄もいるが本国で大学生

・ジェシカにはめられ変な日本語で恥をかかされることが多い

・春菜と仲がよくお泊まりに来たこともある

・日本語で「小川麗菜」という当て字の名前を持っている。ジェシカと吉村が考案したもの

※アイコンは自作です

小錦厚子

・こにしき/あつこ

・理事長兼校長

・誕生日設定なし

・年齢不詳だが60歳は超えてるだろう(山葉の想像)

・かつては国語教員だった

・なぜだか男には「セニョール」と話しかける(が、スペイン系ではない)

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