第96話 エピローグ2023【2】

文字数 648文字

【2】

 はっとした私は、そのパートを何度か聴き直し、その内容が私の聴き間違いでは無いことを確認した。
 そして私は、思わず独り言ちた。

〈これって……、太宰の言い訳じゃないか……〉
 
 絶対にあり得ないことなのだが、太宰が私の指摘に対して、後になって言い訳をしているような錯覚を覚えたのだ――。

 以下は、私がこの手記の第70話で述べているものだ。

 *

 また太宰は、この文章のロジックをまったく変更している。
 原文では太田静子が「この世界では完成ということはあり得ないのに、完成を信じて新しいものを生み出さんがために破壊する行為が、哀れで悲しくて美しいのだ」という論旨を述べているのに、太宰はそれを理解していないのか、敢えて改変したのか、『斜陽』の方では、

【さうして、いつたん破壊すれば、永遠に完成の日が来ないかも知れぬのに、それでも、したふ恋ゆゑに、破壊しなければならぬのだ。】

 などと、言わずもがななことを書いている。

 太宰のこの改変によって、太田静子の「破壊と完成についての逆説的なロジック」は全くスポイルされてしまった。

 *

 こう指摘した私に対して、太宰が時空を超えて、後出しで言い訳しているように思えたのだが、そんなことはあるはずもない。

 太宰は『斜陽』のなかで、太田静子の日記のロジックを改変してまった部分を、『おさん』で訂正していたのだが、なぜ敢えて訂正したのか?
 合理的に考えられることは、当時『斜陽』が発表された後で、太宰に対して私と同じ指摘をした人物がいたのではないか、と云うことだ。
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