第98話

文字数 4,241文字

 これからは、仕事に生きよう!

 ふと、思った…

 恋は、もういい…

 そう、思った…

 元々、もうすぐ、34歳になるにも、かかわらず、この歳まで、まともな恋愛ひとつ、してこなかった…

 ならば、この先、まともな恋愛が、できるはずもない…

 言葉は、悪いが、これからは、下り坂…

 乙女の下り坂だ(涙)…

 年々、ルックスが、衰えて来る…

 これも、これまで、何度も、言ったが、私の母が、若かった頃…

 今から、30年以上前は、女の売り時は、25歳までと、言われていたそうだ…

 クリスマスケーキに、例えられていたそうだ…

 つまりは、12月25日のクリスマスに、ケーキが、売れる…

 そして、売れ残れば、翌日の26日から、値段を半額以下にして、売るしかない…

 なにしろ、生ものだからだ…

 早く、食べなれば、ならない…

 だから、早く売らなければ、ならない…

 それと、同じで、女も25歳を過ぎれば、大安売り…

 バナナのたたき売り状態になる(涙)…

 自分が、相手に望んでいた条件を一気に下げなければ、いけなくなる…

 例えば、大卒は、偏差値は、60以上の大学を出ているとか…

 大企業に、勤めているとか…

 身長は、175㎝以上とか…

 漠然とだが、自分が、相手に求めている条件を、だ…

 それを、一気に下げなければ、ならなくなる…

 もはや、そんなことを、言っていては、結婚ができないからだ…

 だが、私には、もはや、そんな気もない…

 条件を下げるも、上げるもない…

 元々、この歳まで、まともな恋愛ひとつしてこなかった…

 だから、今さら…

 今さら、結婚に憧れても、仕方がない…

 そう、思った…

 だから、仕事に、生きようと思った…

 これもまた、今さらだが、そう、思った…

 これもまた、母の時代から、よく言われることだが、結婚に行き詰ったから、方向転換した…

 そういうことだ(苦笑)…

 誰もが、うまくいかないことを、無理に続けても、仕方がない…

 私の場合は、結婚だが、これが、なにかの資格でも、同じ…

 例えば、日本の最難関の資格の一つである、弁護士になるための試験=司法試験も、同じ…

 何年、経っても、受からなければ、諦めて、別の道を模索しなければ、ならない…

 それと、同じだ…

 要するに、受からないから、諦めるわけだが、物事は、すべて、そう…

 すべて、同じだ…

 たとえば、好きな男や女が、できて、何度、

 「…ボク(アタシ)と、付き合って下さい…」

 と、頼んでも、

 「…ムリ…ムリ…」

 と、返されたら、誰でも、方向転換するしかない…

 それと、同じだ(爆笑)…

 私は、米倉正造のことを、考えながら、今さらながら、そう、思った…

 もはや、正造とは、なんの関係もない…

 好きだ、

 嫌いだ、

 も、ない…

 忘れよう!…

 二度と、思い出すまい!…

 そう、必死に、自分に言い聞かせた…

 まるで、呪文のように、何度も、何度も、言い聞かせた…


 それから、一か月が、過ぎた…

 もはや、私は、米倉や水野とは、なんの関係もなかった…

 いや、

 元々、なんの関係もなかったが、偶然、知り合った…

 それが、真相…

 そして、一定期間が、過ぎれば、付き合わなくなった…

 そして、それは、学校と似ている…

 中学や、高校、あるいは、専門学校でも、いい…

 何年か、いっしょにいる…

 そして、そのときは、親しくなる…

 が、

 その後が、続かない…

 そのとき、仲が良かった友人と、時間を作って会っても、それが、何度も、続かない…

 なぜなら、互いに、今は、いる場所が、違う…

 場所=職場など、環境が、違う…

 だから、どうしても、会っても、昔話が、中心となる…

 そうでなければ、話が合わないからだ…

 互いに、共通した経験でなければ、話が合わないからだ…

 例えば、今いる職場の不平、不満を言っても、友人はただ、話を聞くことしか、できない…

 なぜなら、友人は、その職場にいないから…

 だから、具体的な状況が、わからない…

 要するに、体験していないからだ…

 そして、そんなことが、何度も、続くと、自然と、その友人と、会わなくなる…

 会っても、昔話が、中心では、互いに、飽きるからだ…

 それと、同じかも、しれない…

 私と、米倉や、水野との関係も、それと、似ているのかも、しれない…

 今さらながら、思った…

 初めて、あの米倉正造と会ったときは、ときめいた…

 これまで、会ったことのない、お金持ちだったからだ…

 が、

 正造の目的は、好子さんを、守ることだった…

 実父の平造が、血が繋がってない娘の好子さんを狙っていると、思った、息子の正造が、好子さんに、ルックスが、よく似た私を、平造に差し出そうと画策した…

 それが、正造が、私を選んだ、真相だった…

 そして、米倉の騒動が、半年前に終結…

 米倉は、破産寸前にまで、追い込まれ、水野に救ってもらった…

 が、

 今回は、違った…

 破産寸前にまで、追い込まれた米倉だが、肝心の合併相手である、水野と、米倉では、社風が、合わなかった…

 だから、合併は、無理…

 できない…

 だから、一刻も早く、米倉は、水野に代わる、援助者を探さなければ、ならない…

 おそらく、それが、騒動の発端だったはずだ…

 今さらながら、気付いた…

 と、いうことは、どうだ?

 あの正造は、米倉と水野の提携が、破綻に追い込まれるのを、知って、動き出した…

 これは、正造の妹の好子さんと、水野春子が、同じく、そう、証言した…

 だから、それは、真実だろう…

 つまりは、正造にとって、米倉が、水野に代わる、援護者というか、庇護者を探す…

 庇護者=スポンサーを探す…

 それが、急務だったからだ…

 そして、その結果、五井が、候補に挙がり、米倉は、五井の下に入った…

 それが、今回の劇のあらすじだった…

 あらすじ=メインテーマだった…

 そして、そんなことを、考えれば、その過程で、一番大切なのは、なにか?

 それは、つまり、米倉正造の動きを封じることでは、なかったのか?

 ふと、思った…

 つまり、結果から、見れば、正造が、動いたから、米倉は、救われた…

 再び、窮地を脱したことになる…

 だから、真逆に考えれば、正造の動きを、どうにか、止めなければ、ならない…

 そのための秋穂だったのではないか?…

 秋穂の存在を、正造は、気にした…

 自分の姪かも、しれないと、気付いたからだ…

 いや、

 そうではない…

 秋穂自身が、正造の行きつけの店で、そう名乗ったと、正造自身が、言っていた…

 秋穂は、正造の姉の澄子の娘だとも、言っていた…

 が、

 同時に、正造、いや、たしか、好子さんだったが、

 「…秋穂は、澄子と会った形跡はない…」

 と、断言した…

 興信所に頼んで、調べたと、言っていた…

 だから、もしかしたら、あの秋穂は、澄子さんの娘では、ないのかもしれない…

 が、

 あの秋穂は、私や、好子さんと、よく似たルックスだった…

 三人とも、女優の常盤貴子さんの若い頃に似た、ルックス…

 それゆえ、もしかしたら、それを、利用した?…

 あるいは、利用された?

 誰かに、利用された?

 私も、血が薄いとはいえ、米倉一族…

 祖父の、そのまた祖父が、米倉の創業者の兄弟だと、かつて、好子さんの弟の新造さんが、告げた…

 だから、私と好子さんは、似ている…

 薄いとはいえ、血が繋がっているから、似ている…

 そう、思った…

 だから、私や好子さんに似たルックスを利用された?

 私や、好子さんに似たルックスならば、澄子さんの娘だと、言い張って、正造に近付くことが、できるから、利用された?…

 そう、気付いた…

 が、

 たしか、正造は、あの秋穂の正体について、見当がついているとも、言っていた…

 そして、あの秋穂は、ひとを使って、正造を殺そうとして、警察に捕まった…

 今は、どうなっているか、わからないが、すでに秋穂の素性は、割れているに違いない…

 ただ、私が、その素性を、まだ、知らないだけかも、しれない…

 と、話が、ずれた…

 この際、秋穂のことは、どうでもいい…

 問題は、正造だ…

 それが、今回、正造が、私に接触したのは、秋穂が原因だった…

 あの秋穂を正造が、監視している…

 あの秋穂を、尾行している…

 水野春子いわく、それに、気付いた五井の女帝、諏訪野和子が、あの秋穂から、正造の監視を解くために、秋穂を使って、あの金崎実業の人事の松嶋を使って、私を、解雇しようとした…

 解雇=クビにしようとした…

 そうすれば、正造は、慌てて、秋穂の監視どころではなくなる…

 私のために、動かざるを得なくなる…

 そう、春子は、説明した…

 が、

 果たして、それは、本当だろうか?

 今さらながら、考えた…

 たしかに、正造が、邪魔なのは、わかる…

 春子や好子さん、いわく、正造が、外で、あっちの女、こっちの女と、女を物色するのは、仮の姿…

 いや、

 仮の姿ではなくても、それが、すべての目的ではない…

 目的は、人的交流…

 さまざまな場所で、酒を飲み、色々な人物と、交流して、情報を得たり、親しくなったりして、それを、ビジネスに繋げて行く…

 その手段に、他ならない…

 また、春子いわく、それは、正造の実父の平造もまた同様だったそうだ…

 いわゆる、大人の男の人脈作りといえば、酒か、ゴルフ…

 共に、長時間、いっしょに、いることで、たわいもない会話をすることで、仲良くなる…

 仲良くなって、さまざまな情報を得る…

 そういうことだ…

 正造は、米倉と水野の提携が、うまくいかないと、知ると、途端に、酒場に飲みに出かけた…

 そこで、旧知の知人から、さまざまな情報を得た…

 その結果、あの五井家の若き当主、諏訪野伸明に、米倉の今後を相談…

 米倉の五井入りを、果たした…

 そういうことだ…

 つまりは、誰かが、正造の動きを、封じるために、秋穂を使った?

 そして、また、秋穂を使って、松嶋を誘惑して、この私を、解雇しようとした…

 金崎実業から、追い出そうとした…

 そうすれば、正造は、秋穂の監視を外れ、私の窮地を救うべき、動き出す…

 なぜなら、正造は、私を好きだから…

 そう、好子さんと、水野春子は、言った…

 私は、正造が、私を好きか、どうかは、わからない…

 ただ、秋穂のことも、私のことも、同じ…

 同じだ…

 目的は、同じ…

 正造の動きを止めること…

 水野との提携が、ダメになった、米倉の引き取り先を探そうとする、正造の動きを止めること…

 それだった…

               
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