第18話

文字数 3,988文字

 なんというか…

 外見と、中身の違いというか…

 とにかく、驚いた…

 が、

 半面、世の中、こんなものかもしれないとも、思った…

 私自身も、そうだが、何度も、言うように、私は、外見は、女優の常盤貴子さんに、似ている…

 つまりは、外見というか、傍目には、おっとりとして、優しい印象があるらしい…

 が、

 実際、そんなことは、まったくない(笑)…

 私は、子供の頃から、結構、言うことは、言うタイプの人間だった…

 だから、学校や会社で、知り合った人間も、

 「…意外ね…」

 とか、

 「…全然、そうは、見えなかった…」

 とか、

 よく言われたものだ(笑)…

 だから、それと、同じ…

 この水野春子も、また、同じかもしれない…

 そして、そんなことを、考えると、なんのことはない…

 私と、好子さん、そして、この水野春子の3人は、同じ…

 皆、同じタイプの人間だった…

 自分で、言うのも、なんだが、清楚で、おとなしい美人の印象…

 学生時代で、言えば、図書館で、物憂げに、本を読んでいるのが、あっている…

 いわゆる、動的で、なく、静的な印象…

 が、

 それは、印象だけ…

 もちろん、中身は、違う…

 当たり前だ…

 誰もが、おとなしく見えれば、性格が、おとなしいわけではない…

 当たり前のことだ…

 女の立場で、言えば、男は、外見に惑わされる男が、思いのほか、多い…

 いや、

 多すぎる(笑)…

 誰もが、おおげさに、いえば、天使のように、清楚で、汚れのない外見をしていれば、性格が、良かったり、頭が、良かったりするわけではない…

 当たり前のことだ…

 が、

 ひとは、どうしても、その外見に惑わされてしまう…

 男関係など、その最たる事例だろう…

 例えば、若き日の常盤貴子さんのように、清楚で、キレイな外見なら、当然、相手の男も、真面目な感じのイケメンが、似合う…

 が、

 それは、ただ周りの人間が、そう思っているだけ…

 本人の嗜好とは、なんの関係もない(爆笑)…

 本人の性格とは、なんの関係もない(爆笑)…

 いわゆる、絵に描いたように、清楚で、真面目に見える美人が、実は、ヤンキーが好みだった…

 そんな事例は、枚挙にいとまがない…

 ありふれている…

 性的嗜好も、そう…

 いわゆる、乱倫とまでは、言わないが、真面目に見えても、あっちの男、こっちの男と、渡り歩いている女も、またいるのも、事実…

 だから、見た目では、わからない…

 当たり前のことだ…

 が、

 誰もが、それが、わかっているにも、かかわず、外見に惑わされるというか…

 どうしても、外見から、その人間を、判断する…

 これもまた仕方のないことかも、しれない…

 事実、外見通りの人間もまた、多いからだ(笑)…

 私は、この水野春子を、見て、あらためて、そう思った…

 そして、そんなことを、考えていると、

 「…今日は、ご苦労様…」

 と、いきなり、春子が、言った…

 「…エッ? …ご苦労様って?…」

 「…今日、来て頂いた目的は、終了…後は、付録というか…楽しんでね…」

 「…楽しんで?…」

 思わず、目が点になった…

 まさか、いきなり、楽しんでなんて、言われるとは、思わなかった…

 そして、そんなことを、考えると、今日の、この春子の目的が、わかってきた…

 おそらく、その目的の第一は、やはりというか…

 この私を間近に、見たかったに違いない…

 この高見ちづるを、直接見て、どんな人間か、評価したかったに違いない…

 なにしろ、一時とはいえ、あの透(とおる)が、憧れたのは、私だったからだ…

 あの透(とおる)もまた、私を好きだった…

 この高見ちづるを好きだった…

 米倉好子さんに、比べれば、遥かに、思いが、劣るが、私を好きだった…

 だから、直接、どんな人間か、見て見たかった…

 そういうことだろう…

 あのとき、私か、好子さんのどちらと結婚しても、水野は、米倉を救済すると、言ったが、本心は、透(とおる)は、好子さんと、結婚したかった…

 が、

 あそこで、この私の名前を出したのは、当て馬では、あったが、まったくのウソでもないだろう…

 誰もが、嫌いな人間と、結婚しても、いいなんて、いうはずもないからだ…

 だから、透(とおる)が、私を好きだということは、信じても、いい…

 どれほど、私を好きなのかは、わからない…

 好子さんに比べれば、数分の一、あるいは、数十分の一に過ぎないだろう…

 が、

 私を好き…

 その事実は、信じていい…

 私は、思った…

 そして、この春子との会談は、終わった…

 すると、だ…

 「…では、私は、これで…」

 と、言うなり、スーッと、その場から、消えた…

 スーッと、その場から、立ち去った…

 私は、文字通り、唖然とした…

 まさに、まさか? の行動だった…

 おそらく、私に会うのが、今回の目的だったのかも、しれないが、その目的が、叶えば、呆気なく、消える…

 まさか、大の大人が、そんな子供のような真似をするとは、思わなかった…

 だから、当たり前だが、つい、近くにいる、水野良平を見た…

 いや、

 見ざるを得なかったと言うか…

 反射的に、水野良平を振り返った…

 すると、だ…

 良平もまた、苦笑していた…

 「…スイマセン…高見さん…」

 良平が、苦笑いを浮かべながら、言った…

 「…妻は、生粋のお嬢様のもので…」

 …生粋のお嬢様…

 その言葉が、すべてだった…

 きっと、この水野春子は、これまで、自分のやりたいことだけを、基本、やってきたに違いない…

 したいことだけを、してきたに違いない…

 ずっと以前、往年の大女優、マレーネ・ディートリヒの話を読んだことがある…

 彼女の娘が言うには、

 「…母は、自分の言いたいことだけを、言い、ひとの話など、聞かなかった…」

 と、言っていた(笑)…

 まさに、スターそのものだったのだろう…

 皮肉でも、なんでもなく、常に、自分が、人々の中心というか…

 自分中心の人生を歩んできたんだろう…

 だから、そういう真似ができる…

 自分勝手に振る舞うことができる…

 そんな真似をしても、誰も、怒らないからだ…

 相手が、スターだから、仕方ないと、思う…

 それと、同じだろう…

 この春子も、また、生粋のお嬢様…

 だから、自分のしたいように、振る舞うことができる…

 自分のやりたいように、振る舞うことが、できる…

 だから、お嬢様…

 生粋のお嬢様なのだ…

 私は、思った…

 そして、それから、

 「…今日、私を連れてきたのは、奥様に、私を会わせるためだったんですね…」

 と、良平に、言った…

 良平は、苦笑した…

 バツの悪そうな、苦笑いを浮かべながら、

 「…申し訳ない…」

 と、私に頭を下げた…

 「…妻が、ぜひ、高見さんに会いたいと言って…」

 「…それは、透(とおる)さんが、好子さんと離婚したら、私と結婚させるつもりで…」

 「…それは…」

 良平が、なんとも、言葉に詰まった…

 おそらく、それは、あの場で、春子が、言っただけ…

 ハッキリ言えば、ブラフというか…

 ハッタリだ(笑)…

 本音では、これっぽっちも、そんな気は、ないだろう…

 ただ、もしかしたら、透(とおる)は、好子さんと、離婚するかも、しれない…

 そして、そうなったときに、以前、透(とおる)が、好きだった、私の名前が、この良平の口から出た…

 そういうことだったかも、しれない…

 まさか、仮に透(とおる)と、好子さんが、離婚したとしても、透(とおる)が、私と結婚するとは、考えにくい…

 なにより、透(とおる)ならば、透(とおる)と、結婚したい女は、星の数ほど、いるだろう…

 おおげさにいえば、よりどりみどり…

 なぜなら、水野透(とおる)は、水野家の跡取り…

 大金持ちだからだ…

 だから、仮に、透(とおる)が、好子さんと、離婚したとしても、私、高見ちづるとの結婚は、考えられない…

 が、

 私は、透(とおる)が、一度は、好きになった女…

 どんな女か、見て見たくなった…

 そういうことだろう…

 私は、そう見た…

 私は、そう睨んだ…

 そして、そんなことを、考えながら、

 「…奥様は、透(とおる)さんが、心配なんですね…」

 と、言った…

 「…どうして、そう思うんですか?…」

 「…だって、もし、透(とおる)さんが、好子さんと離婚したのなら、次は、どんな女と結婚させれば、いいか、考えて、いらっしゃる…」

 「…妻が、心配なのは、透(とおる)では、ありません…」

 「…エッ?…」

 「…水野が、心配なんです…」

 「…水野ですか?…」

 「…そうです…妻は…春子は、水野の正統後継者…水野が、次世代にも、永続的に続くのが、夢というか…」

 「…」

 「…おおげさでなく、三井や住友のように、何百年続く…それが、夢なんです…」

 「…」

 「…透(とおる)は、私の次に、水野を継ぐ人間…だから、春子は、心配なんです…」

 良平が、力を込めた…

 そして、そう言われれば、誰もが、納得した…

 水野透(とおる)は、水野家の次期リーダー…

 水野を継ぐ人間だ…

 水野本家のお嬢様に生まれた春子が、水野の行く末を案じるのは、ある意味、当たり前…

 透(とおる)が、好きであろうと、嫌いであろうと、水野の次を継ぐ人間は、透(とおる)だからだ…

 私は、思った…

 私は、考えた…

 そして、そんなことを、考えると、ふと、気付いた…

 水野には、透(とおる)以外の人間もいるという事実に、だ…

 皇室ではないが、血は薄くなるが、いるには、いる…

 皇室を例に挙げれば、旧皇族に該当する人間が、いるに違いない…

 いや、

 そして、その人間たちが、なにか、あれば、透(とおる)を、排して、次の水野のリーダーになろうとしている…

 それを、この良平は、危惧している…

 現に、そのようなことを、さっき、クルマの中で、言っていた…

 私は、それを、思い出していた…

               
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