第99話

文字数 4,531文字

 米倉正造の動きを封じるために、動いた…

 つまりは、私も、秋穂も、そのために、利用されたということだ…

 最大の関心は、正造の動き…

 正造が、水面下で、アレコレ、動いて、米倉の面倒を見る相手を探す…

 その動きを止めようとした…

 それが、最大の動機だったはずだ…

 と、いうことは、誰が、正造の動きを止めようと、考えるか?

 それが、正造の邪魔をした犯人を捜すことでもある…

 正造の動きを止める…

 水野と、提携した、米倉の次なる、援助者を探す動きでもある…

 そして、結局は、米倉は、五井の庇護下に入った…

 五井の傘下に入った…

 それゆえ、生き残ることができた…

 さらには、米倉の借金が、ちゃらになった…

 米倉の借金が、なくなった…

 米倉の経営する大日産業の子会社が、石油や、天然ガスなどのエネルギー資源を先物取引で、大量に買っていて、それが、今回の、ロシアとウクライナの戦争で、大幅に高騰…

 それゆえ、その儲けで、米倉の借金が、なくなった…

 借金=負債が、予想外の利益で、ちゃらになったということだ…

 が、

 正造が、五井の傘下に、米倉が入ると、決めたときには、その情報は、まだ伝わってなかった…

 つまり、米倉は、借金を抱えたままだった…

 が、

 五井の若き総帥である、諏訪野伸明は、それを承知で、米倉の五井入りを後押しした…

 おそらく、五井ならば、米倉の持つ借金など、たいしたことは、ないと、判断したのだろう…

 真逆に、それまで、米倉と提携していた水野は、本音では、米倉を切りたがっていた…

 社風が違うことも、もちろんだが、それより、なにより、米倉の持つ、負債=借金が、嫌だった…

 水野は、米倉の三倍は、大きい…

 だから、米倉の持つ借金が、明らかになっても、その借金の重みで。水野が、潰れることは、なかったが、それでも、米倉に騙されて、将来的に合併しようと、唆されて、騙されたのは、水野にとって、嫌な思いしかないだろう…

 水野の総帥である、米倉平造の盟友である、水野良平も、そうだし、実質的な水野本家の跡取り娘である、良平の妻の春子もまた、同じだった…

 水野と米倉が、提携することに反対だった…

 が、

 それを、認めたのは、ひとえに、息子の透(とおる)のため…

 米倉本家の血を継ぐ、米倉好子さんと、幼馴染(おさななじみ)の透(とおる)は、小さい頃から、好子さんに憧れていた…

 その透(とおる)が、どうしても、好子さんと結婚したいと、言った…

 透(とおる)は、父親の良平が、外で、作った子供…

 愛人の子供だった…

 それが、良平が春子との間に、子供が生まれないために、引き取った…

 それゆえ、透(とおる)は、他人の顔色を窺う人間に育った…

 生まれた場所とは、違う場所で、育ったゆえだった…

 が、

 父親の良平は、それが、不満だった…

 将来、水野財閥を率いる透(とおる)が、それでは、将来が不安だったからだ…

 が、

 好子さんとの結婚では、透(とおる)は、引かなかった…

 透(とおる)にとって、好子さんは、憧れ…

 幼い頃からの憧れだった…

 その好子さんの実家である米倉が、没落する姿を、見ていられなくなった…

 だから、好子さんと結婚して、米倉を救いたいと思った…

 結婚することで、米倉を救う資格ができると、思ったのだ…

 そして、その考えを強引に主張するものだから、良平は、二人の結婚を認めた…

 本当は、米倉を救うのは、嫌だったが、それまで、他人の顔色を窺うばかりの透(とおる)が、ここまで、強引に、結婚したいという姿が、嬉しかったからだ…

 だから、結婚を認めた…

 が、

本心では、嫌だった…

 米倉の借金が、多すぎたからだ…

 だから、今回、水野は、米倉と別れて、せいせいしたに違いない…

 そして、真逆に、透(とおる)は、好子さんとの離婚に反対だった…

 水野が、米倉と提携を解消することにも、反対だった…

 だから、透(とおる)と、両親は、対立した…

 だから、以前、

「…透(とおる)が、言うことを利かなくなって、困る…」

と、良平が、こぼしたが、それは、そういう理由だった…

が、

結局は、透(とおる)と、好子さんは、別れた…

二人は、離婚した…

そして、水野と米倉は、提携を解消した…

つまりは、すべて、透(とおる)の両親の思う通りになったということだ…

それゆえ、二人にとって、万々歳の結末になった…

そして、透(とおる)と、好子さんの離婚の引き金はというと、泥酔した透(とおる)と、あの秋穂が、腕を組んで、コンビニに入る姿をフライデーに撮られたこと…

これが、すべての発端だった…

アレを契機に、透(とおる)と、好子さんは、離婚して、水野と米倉は、提携を解消した…

ということは、どうだ?

もしや?

もしや、あの秋穂の背後にいたのは、水野夫妻?

透(とおる)と、好子さんを離婚させるために、あの秋穂を使った?

そうとも、考えられる…

誰が、犯人かは、結果的に、誰が、得をしたか?
 
 と、同じ…

 一番、得をした人間が、犯人…

 あるいは、犯人と、疑われる…

 当然のことだ…

 そして、そんなことを、考えていると、泥酔した透(とおる)が、あの秋穂と、腕を組んで、歩いて、コンビニに入る姿を、写真週刊誌に撮られた直後、私に、電話で、

 「…だから、あれほど、気をつけなさい…と、透(とおる)に、言ったのに…」

 と、好子さんは、愚痴をこぼした…

 それは、今、考えてみれば、すでに、透(とおる)と、好子さんの結婚を、破綻させようという勢力が、周囲にあり、透(とおる)と、好子さんは、それに、抵抗しようとしていた…

 抗おうとしていた…

 そういうことだろう…

 これは、たしか、以前も、そう言った…

 つまり、透(とおる)と、好子さんは、結婚は、したものの、周囲にさまざまな思惑が、うごめいて、とても、結婚生活を続けることが、困難な状況だったに違いない…

 が、

 それでも、二人は、すぐに離婚するのは、嫌だったのだろう…

 が、

 周囲の人間が、なにを、仕掛けてくるか、わからない…

 だから、透(とおる)が、あの秋穂と、泥酔した姿で、フライデーに取られたとき、

 「…あんなに、気をつけなさいと、普段から、言っているのに…」

 と、私に愚痴をこぼしたのだろう…

 私は、考えた…

 そして、そんなことを、ずっと考えると、色々なことが、わかって来た…

 金崎実業での私の立場も、だ…

 私は、あの人事部の松嶋に、リストラ宣告をされた…

 が、

 私を、リストラ宣告をした松嶋は、あくまで、個人の判断で、私に、リストラ宣告をしたと、言い張っている…

 その裏では、あの秋穂に、唆されて、私に、リストラ宣告をしろ、と、言われたことを、隠していた…

 そして、その秋穂も、誰かに、唆されて、松嶋に、私を、リストラしろと、命じられていた…

 が、

 問題は、そこではない…

 内山さんの態度だ…

 金崎実業の同僚の内山さんの態度だ…

 同僚の内山さんの父親は、金崎実業の社長…

 だから、金崎実業で、権力がある…

 当たり前だ…

 にもかかわらず、娘の内山さんは、私が、松嶋から、リストラ宣告されても、動いては、くれなかった…

 いや、

 たしか、動いて、くれようとしたが、リストラ宣告をされて、自暴自棄になっていた私が、

 「…もういいの…どうでも、いいの…」

 と、内山さんに、告げた…

 つまりは、内山さんの協力を拒んだ…

 が、

 問題は、そこではない…

 松嶋が、個人的に、私を、リストラさせようとしていたことが、バレて、金崎実業をクビになり、私は、復職した…

 復職して、金崎実業に、戻った…

 にもかかわらず、誰も、私を相手にしなかった…

 まるで、疫病神を見るように、誰も、私を相手にしなかった…

 それは、一度リストラされかけた人間が、戻ってきて、その人間と仲良くなる姿を、周囲の人間に、見られれば、今度は、自分が、リストラされるのでは?

 と、いう恐怖がある…

 だから、誰も、私に接しなかった…

 疫病神を見るように、接しなかった…

 それは、わかる…

 が、

 社長の娘である、内山さんまで、周囲の人たちと、同じ態度なのは、おかしい…

 たしかに、以前のように、私と仲良くすれば、周囲が、内山さんを、どう見るかは、わからない…

 だから、私と、仲良くしない…

 だから、私と一切、話さない…

 それは、わかる…

 が、

 普通に考えれば、それ以上のなにか、違う理由があっても、おかしくはない…

 そして、その理由は、おそらく、父親以上の権力の持ち主が、私に話しかけるな!

 と、命じたのでは、ないか?

 金崎実業の社長である、内山さんの父親を、超える権力者といえば、数が、限られる…

 そして、私の予想する範囲では、おそらく、それは、水野夫妻…

 金崎実業は、水野グループ…

 いかに、金崎実業の社長である、内山さんの父親も、数多ある、水野グループの子会社の社長の一人に過ぎない…

 だから、水野夫妻の顔色を窺うしかない…

 いや、

 夫妻とは、限らない…

 どちらか、一方、夫の良平か、妻の春子のどちらかの可能性の方が、高い…

 単純に会社関係で、言えば、水野グループの総帥だから、夫の良平だと、思うが、これは、わからない…

 妻の春子の可能性もある…

 夫の良平が、妻の春子に頭が上がらないのは、周知の事実に違いないからだ…

 そして、そのどちらかと、言えば…

 正直、妻の春子の可能性が高い…

 なぜなら、以前、私が、良平に待ち伏せられ、水野のお屋敷に連れて行かれたことがある…

 そのときに、良平が、私が、金崎実業をリストラされかけているのを、知って、

 「…高見さん…失礼ですが、どこか、水野グループの他の会社を紹介します…」

 と、言ってくれた…

 が、

 私は、さすがに、その申し出は、その場で断った…

 まさか、水野グループの子会社の一介の女子社員に過ぎない私の転職先を、親会社の総帥に、世話をして、もらうことなど、できないからだ…

 が、

 もしかしたら?

 もしかしたら、私のリストラに春子が関わっていたのだったら、その申し出の意味がわかる…

 妻の春子が、松嶋を使って、私をリストラしようと、した…

 それを、申し訳なく思って、水野グループの他の会社を、私に紹介しようとした…

 そういうことかも、しれない…

 良平は、妻の春子に頭が上がらない…

 妻の春子は、水野本家の出身…

 水野本家の跡取り娘だからだ…

 その本家の跡取り娘と、分家の良平が結婚して、本家を継いだ…

 だから、良平は、妻の春子に頭が上がらない…

 だから、そう、考えれば、納得できる…

 が、

 仮に、もし、そうだとする?

 その通りだとする…

 だったら、なぜ、春子は、私を金崎実業から、追い出そうとするのか?

 理由が、わからない…

 私を追い出して、春子が、得をすることなど、なにも、ないからだ…

 が、

 あのとき、なぜ、良平が、私に、
 
 「…高見さん…失礼ですが、どこか、水野グループの他の会社を紹介します…」

 と、言ってくれたのは、謎が残る…

 そして、その謎を、探るには、やはり、あの春子が、私を金崎実業から、追い出そうとしたと、考えるのが、一番、しっくりとした…

               

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