第５６話
文字数 4,280文字
「…巻き込まれても、大丈夫って？…」
私は、電話の向こう側から、聞こえてきた米倉正造の言葉を繰り返す…
「…一体、どういう…」
「…米倉も、水野も、五井も皆、問題を抱えているものです…」
「…問題を抱えている…」
正造が、意味深に言う…
私は、頭に来た…
どんなことを、聞いても、この正造が、まともに、答えない…
私が、そう悟ったからだ…
だから、質問を変えた…
「…今日は、どうして、いらっしゃらなかったんですか？…」
「…どうしてと、言われても…」
「…最初から、いらっしゃるつもりが、なかったんでしょ？…」
「…」
無言が、肯定を意味した…
ずばり、私の予想が、的中した…
「…正造さんの目的は、なんですか？…」
「…目的？…」
「…すっとぼけないで、下さい…」
私は、怒鳴った…
キツイ調子で、言った…
すると、だ…
「…すっとぼけるだなんて…」
米倉正造が、笑った…
「…まさか、高見さんが、そんな言葉を使うとは…」
正造の言葉に、自分が、恥ずかしくなった…
言われて、見れば、その通り…
その通りだった…
自分でも、自分に、驚いた…
自分自身、
…すっとぼける…
なんて、言葉を使った記憶は、ない（苦笑）…
が、
今、使った…
その事実に、驚いた…
すると、だ…
「…ひとって、面白いものですね…」
と、正造が、言った…
「…面白い？ …なにが、面白いんですか？…」
「…追い詰められると、その人間の本性が、現れる…」
「…本性？…」
言いながら、まさか、と、思った…
まさか、この米倉正造は、私の本性を見定めるために、あの寿さんと、会わせた…
私、高見ちづるの本性を見るために、寿さんと会わせた…
ふと、気付いた…
本当は、もしかしたら、私を、あの五井に誘ったのは、寿さんと、会わせるため…
明らかに、私以上の美人である、寿さんと会わせるため…
そして、寿さんと、会った私が、どういう反応を見せるか？
試した…
美人と、呼ばれて、これまで、少なからず、調子に乗っていた、私、高見ちづるが、自分以上の美人と、会ったときに、どういう反応を示すか？
試した…
そう、思った…
すると、だ…
「…どんな人間も、危機に陥ったときに、その人間の本性が、現れる…」
米倉正造が、ゆっくりと、言う…
そして、
「…高見さんにとっては、それが、自分以上の美人が、目の前に現れたときだったと、いうことです…」
と、正造が、楽しそうに、付け加えた…
それを、聞いて、私は、なにも、言えなかった…
自分では、決して、認めたくなかったが、その通り…
まさに、その通りだった…
すでに、何度も説明したように、私とて、自分以上の美人を前にしたことは、幾度となくある…
が、
顔は、違うが、中身が、自分に似ている美人と、会ったことがなかった…
それが、ショックだった…
つまり、顔を除けば、中身が、似ている…
自分と、同じしっかり者…
が、
顔＝ルックスは、私とタイプは、違うが、美人…
しかも、誰が、見ても、私以上の美人だった…
これは、痛かった…
これは、ショックだった…
中身が、自分と同じキャラで、明らかに、相手が、自分以上の美人…
こんなタイプの美人には、これまで、会ったことがなかった…
だから、以前も言ったが、完全にキャラ被り…
私と、寿さんは、中身が、キャラ被り＝同じだった…
そして、そんなことを、考えていると、
「…しかし、不思議ですね…」
と、米倉正造が、言ってきた…
…不思議？…
…なにが、不思議なんだろ？…
が、
私が、聞くまでもなく、
「…秋穂ですよ…」
と、正造が、言った…
「…秋穂さん？…」
秋穂さんが、一体、なんだと、言うんだ？…
「…だって、秋穂は、高見さんに、そっくりとまでは、言わないが、高見さんと同じタイプの美人です…ただ歳が、十歳近く離れているだけ…」
「…それが、一体？…」
一体、なんだと、言うんだ？
「…不思議ですね？…」
「…なにが、不思議なんですか？…」
「…だって、普通なら、高見さんは、秋穂にだって、ライバル心を抱いても、おかしくない…なにしろ、自分と似たタイプの美人…おまけに、若い…だから…」
後は、言わなくても、わかった…
だから、私は、あの秋穂に勝てない…
まもなく３４歳になる、私、高見ちづるは、二十代半ばの秋穂さんに、勝てない…
思えば、秋穂は、十年前の私…
２４歳の私、だ…
そして、男にとってみれば、若い女の方が、いい…
若い女の方が、魅力的…
そして、それは、あの人事の松嶋が、秋穂に頼まれて、私を金崎実業から、追い出そうとしたことから、明らか…
明らかだ…
私は、あの松嶋から、無理やり退職を迫られて、面食らったというか…
驚いた…
内心、もうすぐ、３４歳になる身だ…
会社にとっては、厄介な存在だろう…
ハッキリ言えば、扱いに困る存在だ…
中堅の私大を出たに過ぎない、私は、いわゆる、上昇志向もなければ、出世する能力もない…
だから、歳を取れば、取るほど、どういうポジションを用意すれば、いいか、会社は、扱いに、悩む…
また、私の勤務する金崎実業は、昔ながらの日本の企業…
キャリア志向の女子は、皆無とまでは、言わないが、稀…
滅多にいない…
だから、皆、歳を取れば、自然に、いなくなるというか…
ずばり、退職する…
が、
これまでは、おそらく、私のルックスが有利に働いたのだろう…
三十路を過ぎても、退職を強要されることは、なかった…
ハッキリ言えば、美人ゆえに、守られたというか…
人事は、皆、男が多い…
そして、人事権を持つ者は、間違いなく、男…
そして、男は、皆、美人が好き…
だから、守られた…
そういうことだろう…
ずっと、昔だが、母が、就職活動をした時代…
いわゆるバブル時代には、母の友人が、ピンクのスーツで、就職活動をして、大手の企業に受かったそうだ…
いかに、景気のいい、時代とはいえ、さすがに、ピンクのスーツを着て、就職活動はないと、母を含めて、母の友人たちも、皆、思ったそうだが、彼女は、受かった…
その理由は、簡単…
彼女が、誰もが、街で会えば、思わず、振り返って見るほどの美人だったからだそうだ（爆笑）…
男も女も皆、美人や、イケメンに弱い…
誰もが、程度の差こそあれ、ルックスの良い人間に弱い…
だから、私に弱い…
この美人の高見ちづるに弱い（爆笑）…
自分でも、それが、十分過ぎるほど、わかっていたし、自分もまた、それに甘えていた…
だから、あの人事の松嶋に、半ば、強引に、退職を強要されたときは、焦った…
美人に生まれた私は、これまで、周囲にチヤホヤされて、生きてきた…
だから、年齢的に、これ以上、金崎実業に、いることは、できない…
正直、難しいと、内心、思っていても、どこか、高をくくっていたというか…
なんとかなる…
と、甘く見ていたのかも、しれない…
それが、半ば、強引に退職を強要された…
だから、驚いた…
だから、焦った…
自分は、美人だから、見逃してくれるのでは？
という甘い考えが、心の隅にあったからだ…
が、
実は、松嶋の背後には、秋穂がいた…
私によく似た、若い美人の秋穂がいた…
その秋穂に、あの松嶋が、私の退職を頼まれた…
そういうことだった…
私は、今さらながら、それを思い出していた…
そして、そんなことを、考えていると、
「…高見さんは、どう思います？…」
と、正造が、聞いてきた…
「…どう思うって？…」
「…なぜ、高見さんが、秋穂に脅威を感じないか？…」
「…」
「…だって、寿さんには、脅威を感じたんでしょ？…」
言われてみれば、その通り…
その通りだった…
寿さんには、脅威を感じた…
それは、まるで、会社や学校で言えば、それまで、自分のいたポジションを奪われる！…
そんな脅威かも、しれなかった…
ハッキリ言えば、例えば、学校のクラスで、それまで、いつも、
「…高見って、キレイ…」
とか、
「…高見さんのような美人と付き合いたい…」
と、男子が、噂している…
そして、女子もまた、
「…高見は、美人だから…」
と、誰もが、思っている…
つまりは、クラスで、一番の美人と、誰もが、思っている…
誰もが、認めている…
それが、この高見ちづるの立場…
それが、あの寿さんが、転校生か、なにかで、やって来れば、一変する…
クラスで、一番美人という立場が、あっという間に、寿さんに奪われる…
そういうことだ…
そして、それは、クラスで一番でも、学校中で、一番でも、同じ…
つまりは、自分のポジションを奪われるということだ…
だから、今、正造が、言ったように、寿さんに、脅威を感じた…
そういうことかも、しれない…
真逆に、あの秋穂という小娘に脅威を感じないのは、年齢が、違うから…
寿さんは、私より、一つ年下と言っていた…
だから、ほぼ同じ年齢…
だから、余計に、ライバル心というか…
自分でも、無意識に、比べたくなる…
が、
あの秋穂という娘は、違う…
年齢も、私より、１０歳近く、若い…
だから、寿さんと違って、ライバル心も、湧かない…
そもそも、年齢が、違うから、比べようもない…
たしかに、私とタイプの違う美人の寿さんと違って、あの秋穂という娘は、私と、同じタイプの美人…
女優の常盤貴子さんの若い頃を彷彿させる美人だ…
だが、私と歳が違う…
だから、寿さんと違って、比べようとも、思わない…
しいて、言えば、私が、あの秋穂という娘と張り合うとするとすれば、それは、同じ男を秋穂と取り合うときぐらいか？
私は、思った…
自分でも、そんなことは、ありえない…
バカバカしいと思いながら、考えた…
そして、それに気付くと、正造に、
「…歳が、違いますから…」
と、答えた…
「…歳が、違う？…」
「…寿さんは、私より、一歳年下と伺いました…だから、私と同世代…でも、秋穂さんは、私より、十歳近く年下…比べようが、ないじゃないですか？…」
「…なるほど…」
「…しいて、言えば、私が、あの秋穂さんと、張り合うとすれば、同じ男のひとを、秋穂さんと、取り合うときぐらいです…」
私は、言った…
もちろん、冗談だ…
私が、あの秋穂という娘と、男を取り合うわけはない…
だから、それがわかっていて、あえて言った…
すると、だ…
「…すでに、そうなってますよ…」
電話の向こう側から、米倉正造が、言った…
私は、電話の向こう側から、聞こえてきた米倉正造の言葉を繰り返す…
「…一体、どういう…」
「…米倉も、水野も、五井も皆、問題を抱えているものです…」
「…問題を抱えている…」
正造が、意味深に言う…
私は、頭に来た…
どんなことを、聞いても、この正造が、まともに、答えない…
私が、そう悟ったからだ…
だから、質問を変えた…
「…今日は、どうして、いらっしゃらなかったんですか？…」
「…どうしてと、言われても…」
「…最初から、いらっしゃるつもりが、なかったんでしょ？…」
「…」
無言が、肯定を意味した…
ずばり、私の予想が、的中した…
「…正造さんの目的は、なんですか？…」
「…目的？…」
「…すっとぼけないで、下さい…」
私は、怒鳴った…
キツイ調子で、言った…
すると、だ…
「…すっとぼけるだなんて…」
米倉正造が、笑った…
「…まさか、高見さんが、そんな言葉を使うとは…」
正造の言葉に、自分が、恥ずかしくなった…
言われて、見れば、その通り…
その通りだった…
自分でも、自分に、驚いた…
自分自身、
…すっとぼける…
なんて、言葉を使った記憶は、ない（苦笑）…
が、
今、使った…
その事実に、驚いた…
すると、だ…
「…ひとって、面白いものですね…」
と、正造が、言った…
「…面白い？ …なにが、面白いんですか？…」
「…追い詰められると、その人間の本性が、現れる…」
「…本性？…」
言いながら、まさか、と、思った…
まさか、この米倉正造は、私の本性を見定めるために、あの寿さんと、会わせた…
私、高見ちづるの本性を見るために、寿さんと会わせた…
ふと、気付いた…
本当は、もしかしたら、私を、あの五井に誘ったのは、寿さんと、会わせるため…
明らかに、私以上の美人である、寿さんと会わせるため…
そして、寿さんと、会った私が、どういう反応を見せるか？
試した…
美人と、呼ばれて、これまで、少なからず、調子に乗っていた、私、高見ちづるが、自分以上の美人と、会ったときに、どういう反応を示すか？
試した…
そう、思った…
すると、だ…
「…どんな人間も、危機に陥ったときに、その人間の本性が、現れる…」
米倉正造が、ゆっくりと、言う…
そして、
「…高見さんにとっては、それが、自分以上の美人が、目の前に現れたときだったと、いうことです…」
と、正造が、楽しそうに、付け加えた…
それを、聞いて、私は、なにも、言えなかった…
自分では、決して、認めたくなかったが、その通り…
まさに、その通りだった…
すでに、何度も説明したように、私とて、自分以上の美人を前にしたことは、幾度となくある…
が、
顔は、違うが、中身が、自分に似ている美人と、会ったことがなかった…
それが、ショックだった…
つまり、顔を除けば、中身が、似ている…
自分と、同じしっかり者…
が、
顔＝ルックスは、私とタイプは、違うが、美人…
しかも、誰が、見ても、私以上の美人だった…
これは、痛かった…
これは、ショックだった…
中身が、自分と同じキャラで、明らかに、相手が、自分以上の美人…
こんなタイプの美人には、これまで、会ったことがなかった…
だから、以前も言ったが、完全にキャラ被り…
私と、寿さんは、中身が、キャラ被り＝同じだった…
そして、そんなことを、考えていると、
「…しかし、不思議ですね…」
と、米倉正造が、言ってきた…
…不思議？…
…なにが、不思議なんだろ？…
が、
私が、聞くまでもなく、
「…秋穂ですよ…」
と、正造が、言った…
「…秋穂さん？…」
秋穂さんが、一体、なんだと、言うんだ？…
「…だって、秋穂は、高見さんに、そっくりとまでは、言わないが、高見さんと同じタイプの美人です…ただ歳が、十歳近く離れているだけ…」
「…それが、一体？…」
一体、なんだと、言うんだ？
「…不思議ですね？…」
「…なにが、不思議なんですか？…」
「…だって、普通なら、高見さんは、秋穂にだって、ライバル心を抱いても、おかしくない…なにしろ、自分と似たタイプの美人…おまけに、若い…だから…」
後は、言わなくても、わかった…
だから、私は、あの秋穂に勝てない…
まもなく３４歳になる、私、高見ちづるは、二十代半ばの秋穂さんに、勝てない…
思えば、秋穂は、十年前の私…
２４歳の私、だ…
そして、男にとってみれば、若い女の方が、いい…
若い女の方が、魅力的…
そして、それは、あの人事の松嶋が、秋穂に頼まれて、私を金崎実業から、追い出そうとしたことから、明らか…
明らかだ…
私は、あの松嶋から、無理やり退職を迫られて、面食らったというか…
驚いた…
内心、もうすぐ、３４歳になる身だ…
会社にとっては、厄介な存在だろう…
ハッキリ言えば、扱いに困る存在だ…
中堅の私大を出たに過ぎない、私は、いわゆる、上昇志向もなければ、出世する能力もない…
だから、歳を取れば、取るほど、どういうポジションを用意すれば、いいか、会社は、扱いに、悩む…
また、私の勤務する金崎実業は、昔ながらの日本の企業…
キャリア志向の女子は、皆無とまでは、言わないが、稀…
滅多にいない…
だから、皆、歳を取れば、自然に、いなくなるというか…
ずばり、退職する…
が、
これまでは、おそらく、私のルックスが有利に働いたのだろう…
三十路を過ぎても、退職を強要されることは、なかった…
ハッキリ言えば、美人ゆえに、守られたというか…
人事は、皆、男が多い…
そして、人事権を持つ者は、間違いなく、男…
そして、男は、皆、美人が好き…
だから、守られた…
そういうことだろう…
ずっと、昔だが、母が、就職活動をした時代…
いわゆるバブル時代には、母の友人が、ピンクのスーツで、就職活動をして、大手の企業に受かったそうだ…
いかに、景気のいい、時代とはいえ、さすがに、ピンクのスーツを着て、就職活動はないと、母を含めて、母の友人たちも、皆、思ったそうだが、彼女は、受かった…
その理由は、簡単…
彼女が、誰もが、街で会えば、思わず、振り返って見るほどの美人だったからだそうだ（爆笑）…
男も女も皆、美人や、イケメンに弱い…
誰もが、程度の差こそあれ、ルックスの良い人間に弱い…
だから、私に弱い…
この美人の高見ちづるに弱い（爆笑）…
自分でも、それが、十分過ぎるほど、わかっていたし、自分もまた、それに甘えていた…
だから、あの人事の松嶋に、半ば、強引に、退職を強要されたときは、焦った…
美人に生まれた私は、これまで、周囲にチヤホヤされて、生きてきた…
だから、年齢的に、これ以上、金崎実業に、いることは、できない…
正直、難しいと、内心、思っていても、どこか、高をくくっていたというか…
なんとかなる…
と、甘く見ていたのかも、しれない…
それが、半ば、強引に退職を強要された…
だから、驚いた…
だから、焦った…
自分は、美人だから、見逃してくれるのでは？
という甘い考えが、心の隅にあったからだ…
が、
実は、松嶋の背後には、秋穂がいた…
私によく似た、若い美人の秋穂がいた…
その秋穂に、あの松嶋が、私の退職を頼まれた…
そういうことだった…
私は、今さらながら、それを思い出していた…
そして、そんなことを、考えていると、
「…高見さんは、どう思います？…」
と、正造が、聞いてきた…
「…どう思うって？…」
「…なぜ、高見さんが、秋穂に脅威を感じないか？…」
「…」
「…だって、寿さんには、脅威を感じたんでしょ？…」
言われてみれば、その通り…
その通りだった…
寿さんには、脅威を感じた…
それは、まるで、会社や学校で言えば、それまで、自分のいたポジションを奪われる！…
そんな脅威かも、しれなかった…
ハッキリ言えば、例えば、学校のクラスで、それまで、いつも、
「…高見って、キレイ…」
とか、
「…高見さんのような美人と付き合いたい…」
と、男子が、噂している…
そして、女子もまた、
「…高見は、美人だから…」
と、誰もが、思っている…
つまりは、クラスで、一番の美人と、誰もが、思っている…
誰もが、認めている…
それが、この高見ちづるの立場…
それが、あの寿さんが、転校生か、なにかで、やって来れば、一変する…
クラスで、一番美人という立場が、あっという間に、寿さんに奪われる…
そういうことだ…
そして、それは、クラスで一番でも、学校中で、一番でも、同じ…
つまりは、自分のポジションを奪われるということだ…
だから、今、正造が、言ったように、寿さんに、脅威を感じた…
そういうことかも、しれない…
真逆に、あの秋穂という小娘に脅威を感じないのは、年齢が、違うから…
寿さんは、私より、一つ年下と言っていた…
だから、ほぼ同じ年齢…
だから、余計に、ライバル心というか…
自分でも、無意識に、比べたくなる…
が、
あの秋穂という娘は、違う…
年齢も、私より、１０歳近く、若い…
だから、寿さんと違って、ライバル心も、湧かない…
そもそも、年齢が、違うから、比べようもない…
たしかに、私とタイプの違う美人の寿さんと違って、あの秋穂という娘は、私と、同じタイプの美人…
女優の常盤貴子さんの若い頃を彷彿させる美人だ…
だが、私と歳が違う…
だから、寿さんと違って、比べようとも、思わない…
しいて、言えば、私が、あの秋穂という娘と張り合うとするとすれば、それは、同じ男を秋穂と取り合うときぐらいか？
私は、思った…
自分でも、そんなことは、ありえない…
バカバカしいと思いながら、考えた…
そして、それに気付くと、正造に、
「…歳が、違いますから…」
と、答えた…
「…歳が、違う？…」
「…寿さんは、私より、一歳年下と伺いました…だから、私と同世代…でも、秋穂さんは、私より、十歳近く年下…比べようが、ないじゃないですか？…」
「…なるほど…」
「…しいて、言えば、私が、あの秋穂さんと、張り合うとすれば、同じ男のひとを、秋穂さんと、取り合うときぐらいです…」
私は、言った…
もちろん、冗談だ…
私が、あの秋穂という娘と、男を取り合うわけはない…
だから、それがわかっていて、あえて言った…
すると、だ…
「…すでに、そうなってますよ…」
電話の向こう側から、米倉正造が、言った…
