第24話

文字数 5,056文字

 そして、そこまで、考えたとき、あらためて、好子さんのことを、思った…

 私そっくりの米倉好子さんを、思った…

 あの好子さんは、ハッキリ言えば、私と、同じ…

 同じだった…

 好子さんの兄の正造が、言うには、31歳になるまで、まともに、男とデートした経験もなかったそうだ…

 これには、私も驚いた…

 なぜなら、好子さんは、私と、同じく、女優の常盤貴子さんを、小柄にした美人だったからだ…

 私が、言うのも、おかしいが、好子さんを、見れば、道行くひとが、大勢振り返って、見ても、おかしくはない…

 それほど、キレイだった…

 そして、そんなことは、誰よりも、私には、わかっていた…

 何度も、言うように、私と好子さんは、姉妹や従妹といっても、いいように、似ていたからだ…

 だから、好子さんが、周囲から、どう思われているか、私には、痛いほど、わかった…

 そして、私と、好子さんの決定的な違い…

 それは、好子さんが、大金持ちのお嬢様であることだった…

 つまり、おおげさに、言えば、好子さんは、天皇陛下のご令嬢と同じ…

 仮に、天皇陛下のご令嬢が、誰かと、付き合えば、どんな男と、付き合っているのか? と、話題になる…

 それと、同じだ…

 だから、財産…

 下手をすれば、相手の男は、米倉家の財産を、狙っているかも、しれない…

 また、米倉家の運営する会社、大日産業の、しかるべき地位を狙っているかも、しれない…

 そして、そんな諸々のことを、考えると、足がすくむというか…

 下手に男と、デートもできなかった…

 安易に、男と付き合うことも、できなかった…

 そういうことだ…

 男の狙いは、自分だけではない…

 大金持ちの米倉の持つ、地位や財産を狙っているかも、しれないからだ…

 そう考えると、好子さんは、女優の常盤貴子さんを、小柄にした美人にも、かかわらず、31歳になるまで、まともに、男とデートした経験もない理由がわかった…

 そして、それは、私と違った…

 私、高見ちづると、違った…

 私、高見ちづるは、金持ちの家に、生まれたわけでも、なんでもない…

 ただの平民…

 ただ、私も好子さん、同様、33歳になるまで、まともに、男とデートした経験もなかった…

 理由は、簡単…

 心が、動かなかったからだ…

 もっと、ハッキリ言えば、好きになった男が、いなかった…

 だから、自分で言うのも、なんだが、学生時代は、散々、男に口説かれた…

 「…今度、いっしょに、映画を見よう…」

 とか、

 「…来週、いっしょに、ディズニーランドに行かないか?…」

 とか、口説かれたのは、枚挙にいとまがない…

 数えられないほどだった(笑)…

 が、

 滅多に、私は、応じなかった…

 いっしょに、行きたいと、思う男がいなかったからだ…

 そして、稀に、応じても、話が、まったく噛み合わなかった…

 男が、私の気を引こうと、一方的に、しゃべりまくり、私は、ただ、うなずくだけ…

 そして、当たり前だが、そんな私の態度に、相手の男も幻滅した…

 それゆえ、一度でも、私とデートした男は、

 「…あんな女と、デートしても、つまらない…」

 と、周囲に言いふらした…

 結果、その後、誰も、私をデートに誘わなくなった(苦笑)…

 おそらく、好子さんもまた、そんな経験があったのかも、しれない…

 なにより、私と、同じく、好子さんも、心が、動く男が、身近にいなかったそうだ…

 だから、その点では、私も、好子さんも、同じ…

 同じだった…

 似た者同士だった…

 そして、そんな好子さんだからこそ、あの水野透(とおる)と、結婚した…

 好子さんと、透(とおる)は、幼馴染(おさななじみ)…

 すでに、何度も説明したように、透(とおる)と、好子さんは、父親の、平造と良平が、仲が良く…互いに、二人が子供の頃から、互いの家を行ったり来たりしていたそうだ…

 それゆえ、透(とおる)と、好子さんは、幼いときから、顔なじみだった…

 そして、幼い透(とおる)は、好子さんに、一方的に、憧れた…

 一方的に、好きだった…

 好子さんが、美人だったからだろう…

 それゆえ、透(とおる)は、米倉が、経営危機に陥ったときに、

 「…ボクと、結婚すれば、水野は、米倉を救う…」

 と、断言した…

 透(とおる)が、米倉でなく、好子さんを、救いたかったからだ…

 そして、好子さんも、また、そんな透(とおる)の気持ちに、応えた…

 「…この歳まで、まともに、男を好きになったこともなかった…米倉を救うために、透(とおる)と、結婚するのも、いいかも…」

 と、笑った…

 正直、泣き笑いだった…

 31歳になるまで、まともに、男と付き合ったこともない…

 一度たりとも、男を好きになったことがない…

 そんな女が、この先、何年経とうと、男を好きになるはずもない…

 だったら、この際、米倉を救うために、透(とおる)と、結婚しても、いいかも…

 それが、好子さんの説明だった…

 そして、その説明は、痛いほど、わかった…

 痛いほど、理解できた…

 私と、好子さんは、外見だけでなく、中身も似ていた…

 ともに、三十路になっているにも、かかわらず、まともに男と、付き合ったことがない…

 そして、なぜ、男と付き合ったことがないのか?

 これも、何度も言うように、心が動かないからだ…

 簡単にひとを好きにならないからだ…

 そして、おそらく、その根底には、冷たさというか…

 安易に、ひとを信じない気持ちがあるのではないか?

 私は、そう思った…

 何度も言うように、私と、好子さんは、美人…

 女優の常盤貴子さんを、小柄にしたタイプの美人だ…

 そして、自分でいうのも、なんだが、美人に生まれると、通常よりも、警戒心が、強くなるというか…

 年頃になると、男と付き合って、どこかに連れ込まれるとか…

 ハッキリ言えば、乱暴でもされたら、困る…

 つい、そんな気持ちが、心の奥底に生じるというか…

 それゆえ、警戒心が強くなる…

 そして、もう一つ…

 おそらく、そういう人間は、自分大好き人間なのでは、ないだろうか?

 なまじ美人に生まれたゆえに、他人よりも、常に、自分が、大切と言うか…

 自分に、興味を持つ…

 いや、

 自分にしか、興味を持てない…

 究極的に、自分しか、好きになれない…

 だから、他人を好きになれないのではないか?

 最近、そう、気付いた…

 だから、もしかしたら、そんな好子さんが、透(とおる)と、うまくいかなくなっても、驚かない…

 むしろ、それが、普通というか…

 基本、自分にしか、興味がない人間が、他人と暮らして、うまくいくはずが、ないからだ…

 私は、その事実に、気付いた…

 気付いたのだ…


 そして、そんなことを、考えてから、数日、経った、ある日だった…

 突然、その好子さんから、電話があった…

 「…高見さん…お元気?…好子です…」

 私のケータイに電話があった…

 「…よ、好子さん?…」

 私は、驚いた…

 まさか、好子さん本人から、私に、電話があるとは、思わなかった…

 好子さん本人から、私に電話が、かかって来るとは、思わなかった…

 私は、つい先日も、私の頭の中で、私と、好子さんを比較したが、すでに、何度も、説明したように、私と好子さんは、親しいわけでも、なんでもなかった…

 ハッキリ言えば、偶然、知り合っただけ…

 それだけだ…

 米倉正造が、好子さんに似た、私と、偶然、知り合い、その延長線上で、知り合ったと言うか…

 とにかく、私は、好子さんと、親しいわけでも、なんでもなかった…

 だから、驚いた…

 が、

 そんなことは、どうでもいい…

 とりあえず、

 「…元気?…」

 と、聞かれたから、

 「…ハイ…元気です…」

 と、返した…

 それが、社交辞令というか…

 礼儀だったからだ…

 が、

 その後に、なんと、答えて、いいか、わからなかった…

 子供では、ないのだから、

 「…一体、今日は、どんな御用で…」

 などと、聞くわけには、いかない…

 電話が、あると、いうことは、私には、なくても、相手には、用事があるということだ…

 それが、例えば、暇つぶしとか(笑)…

 ハッキリ言えば、私自身は、なんの用事もないが、相手には、あるということだからだ…

 また、今回は、透(とおる)の一件もある…

 単に、私に、泣き言を言いたいだけかも、しれない…

 いずれにしても、子供では、ないのだから…

 「…今日は、一体、どういう用件で…」

 などど、言うことは、できない…

 それでは、好子さんに、ケンカを売っているのも、同然だからだ…

 そして、そんなことを、考えながら、まずは、相手の言葉を待った…

 何度も言うように、私と好子さんは、それほど、親しいわけでも、なんでもない…

 だからこそ、不用意に、なにか、口にすることは、できなかった…

 すると、突然、電話の向こう側から、

 「…高見さん、今、困ってるでしょ?…」

 と、楽しそうな声が、聞こえてきた…

 「…困っている? …どうして、私が、困っているんですか?…」

 「…だって、それほど、親しくもない、私から、突然、電話をもらって、どう、返答していいか、わからないでしょ?…」

 言われてみれば、その通り…

 まさに、好子さんの言う通りだった…

 だから、私は、

 「…」

 と、黙った…

 そして、当たり前だが、好子さんも、また、私の心の内が、わかっていると、思った…

 二人とも、子供ではない…

 すでに、三十路になっている…

 当たり前のことだった…

 「…まあ、高見さんも、承知のように、透(とおる)のことよ…」

 好子さんが、口を開いた…

 思いがけず、さばさばとした口調だった…

 女々しい感じは、まるで、感じなかった…

 「…高見さんも、知っているでしょ?…」

 「…ええ…」

 曖昧に、言った…

 ホントは、ネットの記事や、週刊誌の記事を、目を皿のようにして、隅から隅まで、読んだが、さすがに、それは、言えなかった(笑)…

 なにしろ、その週刊誌の記事の当事者を、私は、知っている…

 そんなことは、普通は、ありえないことだからだ…

 普通、誰もが、ありえることは、せいぜい、自分が、行ったことのある、店が、テレビで、紹介されるぐらいだからだ(笑)…

 自分が、知っている人物が、週刊誌のゴシップ記事に、載るなんて、想像も、できないことだった(笑)…

 「…あのバカ…いいように、利用されて…」

 好子さんの口から、思いがけない言葉が、出た…

 「…利用? …どういうことですか?…」

 「…相手は、ゴシップを狙っているの? …」

 「…ゴシップを狙っている?…」

 「…水野と、米倉の提携…それを、よく思わない連中が多いということ…」

 「…」

 「…だって、そうでしょ? …米倉は、あのままでは、時期に倒産が、決定的だった…だから、誰かに、助けて、もらわなくちゃ、ダメだった…そして、その誰かが、水野だった…透(とおる)だった…」

 「…」

 「…でも、米倉を助ければ、当然、水野は、借金を背負うことになる…負債を背負うことになる…将来的には、米倉を助けることで、水野は、米倉の…大日グループの企業グループを水野のグループに取り込むことになり、水野は、大きくなるかも、しれないけれど、その路線に、反対と言うか…」

 言われてみれば、当たり前だった…

 米倉は、先代の平造の急拡大のツケで、借金で、首が、回らなくなった…

 だから、平造は、盟友の水野良平を騙して、米倉を水野と、合併させようとした…

 米倉の持つ、負債を隠して、水野と、合併する…

 そうすれば、米倉単独では、生き残れないことも、生き残ることが、できるからだ…

 そして、それを、水野の立場で、見れば、いい迷惑というか…

 モロに、騙されたという感じだろう(爆笑)…

 確か、半年前に、水野と米倉の提携が、決まって、あらためて、米倉の負債を調べたら、当初の負債よりも、少なかった…

 だから、水野の助けが、あれば、十分再建は、可能と聞いていたが、実際は、違うかも、しれない…

 ふと、そんなことに、気付いた…

 そして、そんなことを、考えながら、好子さんの次の言葉を待った…

 うっかり、自分から、好子さんに、話しかけることは、できない…

 話題が、話題だからだ…

 さらに言えば、立場が、違う…

 身分が、違う…

 平民の私が、米倉のお嬢様に、なにか、言うことは、できなかった…

 「…まあ、もっとも、私が透(とおる)と結婚して、うまくいかなかったことも、あるけど…」

 意外な話題が出た…

              
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み