第102話
文字数 4,201文字
米倉正造が、私のリストラに関わっていた?
ありえないことではない…
いや、
十分、ありえる…
そして、その可能性の方が、十分、しっくりする…
私が、金崎実業をリストラされかけて、結局は、休職に落ち着いて、落ち込んでいたときに、正造から、電話があった…
あのとき、
「…どうして、私が、休職になったことを、ご存知なんですか?…」
と、聞くと、
「…蛇の道は蛇というやつです…」
と、すっとぼけた…
が、
最初から、正造が、リストラに関わっていたなら、私が、リストラされかけたことを、知っていて、当然だ…
以前は、正造が、松嶋と大学時代の友人だから、知っていたと、思っていたが、そうではなかった…
正造こそ、主犯だった…
私を金崎実業から、リストラさせようとした張本人だった…
まぎれもない張本人だった…
私は、それが、わかると、落胆した…
さっき、例に挙げた、女がカラダ目当ての男に、カラダを許して、逃げられた…
そんな屈辱よりも、遥かに、大きな屈辱だった…
自分が、信じていた男が、実は、私を金崎実業から、追い出そうとした張本人だった…
しかも、私は、それを、知らなかった…
むしろ、私は、正造を信じた…
正造を頼った…
自分に罠を仕掛けていた男と知らずに、頼った…
考えてみれば、どれほど、愚かなのだろう…
どれほど、バカなのだろう…
どれほど、お人よしなのだろう…
自分のあまりのバカさ加減に、呆れた…
呆れて、ものも、言えなかった…
そして、それから…
それが、過ぎると、怒り…
米倉正造への怒りに、全身が、熱くなった…
米倉正造への怒りに、全身が、燃え上がらんばかりに、なった…
同時に、自分で、自分を抑えられなくなった…
自分の感情を抑えることが、できなくなった…
頭に来て、いつのまにか、両手の拳を握り締めた…
その握り締めた拳を、テーブルの上に、置いたまま、
「…おのれ、米倉正造!…」
と、呟いた…
正造の弟の新造さんの前で、呟いた…
「…ひとを、からかって!…」
思わず、そんな言葉を吐いた…
吐かざるを得なかった…
「…ひとを、バカにして!…」
私は、声を荒げた…
そして、ふと、気付くと、目の前の新造さんが、目を丸くして、驚いていた…
私は、
…しまった!…
と、思ったが、後の祭りだった…
新造さんの前で、つい、兄の正造の悪口を言ってしまった…
さすがに、まずいと、思ったが、後の祭りだった…
「…高見…さん…」
おずおずと、遠慮がちに、新造さんが、話しかけてきた…
「…大丈夫?…」
新造さんが、心配そうに、聞いてきた…
が、
それで、我に返ったというか…
全然、大丈夫ではなかったが、さすがに、いつまでも、怒り続けるわけには、いかなかった…
だから、
「…大丈夫…大丈夫です…」
と、続けた…
ホントは、全然、大丈夫ではなかったが、さすがに、それは、言えなかった…
ホントは、正造に対する怒りで、居てもたっても、いられず、今、すぐにでも、この場から、立ち去って、正造の元に、行き、平手で、正造の顔を、何発もひっぱたいて、やりたかった…
あるいは、拳で、思いっきり、殴ってやりたかった…
が、
さすがに、それを、口にすることは、できなかった…
だから、屈辱に、顔を赤らめながら、耐えた…
耐え忍んだ…
そして、その間、目の前の新造さんは、心配そうに、私を見ていた…
私が、落ち着くまで、ジッと待っていた…
そして、私が、ようやく落ち着いたのを、間近に、見て、
「…やっと、落ち着いたみたいだな…」
と、ホッとしたように、言った…
「…スイマセン…」
反射的に、その言葉が、口を突いて出た…
そして、なぜか、新造さんは、私が、なぜ、正造について、怒ったのか、聞かなかった…
新造さんの気遣いは、わかるが、それが、返って、嫌だった…
だから、
「…どうして、私が、正造さんについて、怒ったか、聞かないんですか?…」
と、真逆に、新造さんに、聞いた…
すると、新造さんは、落ち着いた口調で、
「…正造は、ああいう男だ…」
と、言った…
「…いいも悪いもない…アレは、ああいう男だ…関わらない方が、いい…」
あっさりと、言った…
私は、その言葉で、あらためて、この新造さんと、正造は、犬猿の仲だと、認識した…
不俱戴天の仇といっては、おおげさだが、それほど、この新造さんと、正造は、仲が悪かった…
「…アイツは、ダメな男だ…」
「…ダメな男?…」
「…そうだ…」
新造さんが、力を込めた…
それから、ちょっと、間を置いて、
「…さっき、高見さんが、言った秋穂とかいう名前の女だけれど…」
と、考えながら、言った…
「…もしかしたら、正造と関係があるのかも…」
「…正造さんと?…」
「…もしかしたら、…正造の隠し子とか?…」
「…それはないと、思います…」
「…どうして、そう思うんですか?…」
「…正造さんは、まだ42歳ぐらいでしたっけ? 秋穂さんは、24、5歳だと、思います…正造さんの歳で、24、5歳の娘は、あまり、いないでしょ?…」
「…」
「…でも、澄子さんなら、正造さんより、年上だし、女なら、若いときに、子供を産むひとも、いますから…だから、澄子さんの子供だと、言われて、信じてました…」
私の言葉に、新造さんは、考え込んだ…
「…たしかに、高見さんの言うことは、わかる…18歳で、子供を産んで、母親になる女は、稀に、いるが、18歳で、父親になる男は、あまり、いない…」
「…」
「…だから、その秋穂とか、いう女が、澄子の娘かも、しれないというのは、わかる…」
「…」
「…でも、オレには、どうしても、信じられない…」
「…どうして、信じられないんですか?…」
「…澄子の性格だ…とても、若い時に、男とどうにかなって、子供を産むような性格じゃない…」
たしかに、言われてみれば、わかる…
すっかり、澄子さんの性格を忘れていた…
澄子さんは、米倉の一族の中で、ハッキリ言って、一番、個性が強い…
一番、我が強い…
そして、顔は、平凡…
だから、男が、惹かれる要素は、皆無…
いくら若いときだったとは、いえ、子供を産む相手が、いたかと、いえば、おおいに疑問…
疑問だ…
「…それより、可能性があるのは…」
「…可能性?…」
「…米倉の一族…」
「…エッ?…」
「…だって、その秋穂って、女…高見さんや、好子に似ているんだろ?…」
「…エッ? …どうして、わかったんです?…」
「…米倉の家系は、女は、美人が、多いんだ…」
「…エッ?…」
「…ほら…高見さんも、米倉一族だって、調べて、わかったと、以前、オレは、言ったでしょ?…」
「…ハイ…おっしゃいました…」
「…アレは、高見さんを見て、ピンときたんだ?…」
「…ピンときた?…」
「…高見さんは、好子と、よく似ている…米倉の一族は、女は、高見さんや、好子によく似た美人が、多いらしい…」
「…らしい?…」
「…以前、聞いたことがある…好子が、米倉の正統後継者なのも、好子が、米倉の女が、持つ、一族を、代表する顔立ちだからだと…」
「…」
「…だから、その秋穂という女はそれを利用した? …あるいは、利用された?…」
「…利用された? …誰にですか?…」
「…それは、わからない…」
「…わからない?…」
「…いや、もしかしたら、一人だけ、思い当たる人間が、いる…」
「…誰ですか? …それは?…」
「…諏訪野和子…高見さん、知っているかな? …五井の女帝といわれるオバサンだ…」
「…諏訪野和子さん?…」
「…高見さん、知っているの?…」
「…ハイ…一度だけ、お会いしたことが、あります…」
「…なら、話が、早い…あの諏訪野和子…五井の女帝と、春子オバサンは、犬猿の仲なんだ…」
「…犬猿の仲?…」
「…二人とも、女ながら、由緒ある、家の継承者…しかも、性格も似ている…」
「…性格も、似ている…」
「…二人とも、やり手…しかも、歳も同じくらい…だから、キャラが、被る…だから、ハッキリ言って、目障り…どこの世界も、同じだが、同じキャラの人間は、二人は、いらないからね…」
「…」
「…だから、案外、その秋穂の背後に、あの五井の女帝が、関わっていても、おかしくはない…いや、関わっているんじゃないのかな…なんの証拠もないけど、オレは、そう思うよ…」
新造さんが、淡々と、言った…
私は、考え込んだ…
あまりにも…
あまりにも、意外な名前が、出てきたからだ…
まさか…
まさか、この場面で、諏訪野和子の名前が出てくるとは、思わなかった…
五井の女帝の名前が出て来るとは、思わなかった…
そして、ふと、気付いた…
どうして?
どうして、新造さんは、そんなことを、知っているのだろう…
ふと、思った…
だから、
「…どうして、新造さんは、そんなことを、ご存知なんですか?…」
と、直球に聞いた…
が、
新造さんは、それに、動じることは、なかった…
「…家庭だよ…」
淡々と、答えた…
「…家庭?…」
「…ほら、米倉と、水野は、オヤジ同士が、仲が良かったから、まるで、親戚付き合いみたいに、よく、水野のオジサンや、春子のオバサンも、うちにやって来た…それで、アレコレ、世間話になると、よく春子のオバサンが、五井の女帝のことを、罵っていたんだ…」
「…罵っていた? …あの春子さんが?…」
「…うん…」
「…でも、なんで、そこまで、嫌って…ただ、キャラが、被るだけで…」
「…それは、わからない…ただ…」
「…ただ…なんですか?…」
「…噂じゃ、若いときに、二人で、一人の男を取り合いになって、それを、きっかけに、犬猿の仲になったと、聞いたことがある…」
「…エッ?…」
「…まあ、あくまで、噂…真偽不明の噂…それが、ホントか、ウソか、知っている人間は、いるだろうが、さすがに、それは、誰も、言わない…口にしない…」
「…どうして、口にしないんですか?…」
「…だって、それを、すれば、あの二人のオバサンを怒らせることになる…誰が、しゃべったか、知れれば、文字通り、どうなるかは、わからない…下手をすれば、しゃべった人間の経営する、会社を潰されるかも、しれない…」
新造さんが、仰天の事実を語った…
ありえないことではない…
いや、
十分、ありえる…
そして、その可能性の方が、十分、しっくりする…
私が、金崎実業をリストラされかけて、結局は、休職に落ち着いて、落ち込んでいたときに、正造から、電話があった…
あのとき、
「…どうして、私が、休職になったことを、ご存知なんですか?…」
と、聞くと、
「…蛇の道は蛇というやつです…」
と、すっとぼけた…
が、
最初から、正造が、リストラに関わっていたなら、私が、リストラされかけたことを、知っていて、当然だ…
以前は、正造が、松嶋と大学時代の友人だから、知っていたと、思っていたが、そうではなかった…
正造こそ、主犯だった…
私を金崎実業から、リストラさせようとした張本人だった…
まぎれもない張本人だった…
私は、それが、わかると、落胆した…
さっき、例に挙げた、女がカラダ目当ての男に、カラダを許して、逃げられた…
そんな屈辱よりも、遥かに、大きな屈辱だった…
自分が、信じていた男が、実は、私を金崎実業から、追い出そうとした張本人だった…
しかも、私は、それを、知らなかった…
むしろ、私は、正造を信じた…
正造を頼った…
自分に罠を仕掛けていた男と知らずに、頼った…
考えてみれば、どれほど、愚かなのだろう…
どれほど、バカなのだろう…
どれほど、お人よしなのだろう…
自分のあまりのバカさ加減に、呆れた…
呆れて、ものも、言えなかった…
そして、それから…
それが、過ぎると、怒り…
米倉正造への怒りに、全身が、熱くなった…
米倉正造への怒りに、全身が、燃え上がらんばかりに、なった…
同時に、自分で、自分を抑えられなくなった…
自分の感情を抑えることが、できなくなった…
頭に来て、いつのまにか、両手の拳を握り締めた…
その握り締めた拳を、テーブルの上に、置いたまま、
「…おのれ、米倉正造!…」
と、呟いた…
正造の弟の新造さんの前で、呟いた…
「…ひとを、からかって!…」
思わず、そんな言葉を吐いた…
吐かざるを得なかった…
「…ひとを、バカにして!…」
私は、声を荒げた…
そして、ふと、気付くと、目の前の新造さんが、目を丸くして、驚いていた…
私は、
…しまった!…
と、思ったが、後の祭りだった…
新造さんの前で、つい、兄の正造の悪口を言ってしまった…
さすがに、まずいと、思ったが、後の祭りだった…
「…高見…さん…」
おずおずと、遠慮がちに、新造さんが、話しかけてきた…
「…大丈夫?…」
新造さんが、心配そうに、聞いてきた…
が、
それで、我に返ったというか…
全然、大丈夫ではなかったが、さすがに、いつまでも、怒り続けるわけには、いかなかった…
だから、
「…大丈夫…大丈夫です…」
と、続けた…
ホントは、全然、大丈夫ではなかったが、さすがに、それは、言えなかった…
ホントは、正造に対する怒りで、居てもたっても、いられず、今、すぐにでも、この場から、立ち去って、正造の元に、行き、平手で、正造の顔を、何発もひっぱたいて、やりたかった…
あるいは、拳で、思いっきり、殴ってやりたかった…
が、
さすがに、それを、口にすることは、できなかった…
だから、屈辱に、顔を赤らめながら、耐えた…
耐え忍んだ…
そして、その間、目の前の新造さんは、心配そうに、私を見ていた…
私が、落ち着くまで、ジッと待っていた…
そして、私が、ようやく落ち着いたのを、間近に、見て、
「…やっと、落ち着いたみたいだな…」
と、ホッとしたように、言った…
「…スイマセン…」
反射的に、その言葉が、口を突いて出た…
そして、なぜか、新造さんは、私が、なぜ、正造について、怒ったのか、聞かなかった…
新造さんの気遣いは、わかるが、それが、返って、嫌だった…
だから、
「…どうして、私が、正造さんについて、怒ったか、聞かないんですか?…」
と、真逆に、新造さんに、聞いた…
すると、新造さんは、落ち着いた口調で、
「…正造は、ああいう男だ…」
と、言った…
「…いいも悪いもない…アレは、ああいう男だ…関わらない方が、いい…」
あっさりと、言った…
私は、その言葉で、あらためて、この新造さんと、正造は、犬猿の仲だと、認識した…
不俱戴天の仇といっては、おおげさだが、それほど、この新造さんと、正造は、仲が悪かった…
「…アイツは、ダメな男だ…」
「…ダメな男?…」
「…そうだ…」
新造さんが、力を込めた…
それから、ちょっと、間を置いて、
「…さっき、高見さんが、言った秋穂とかいう名前の女だけれど…」
と、考えながら、言った…
「…もしかしたら、正造と関係があるのかも…」
「…正造さんと?…」
「…もしかしたら、…正造の隠し子とか?…」
「…それはないと、思います…」
「…どうして、そう思うんですか?…」
「…正造さんは、まだ42歳ぐらいでしたっけ? 秋穂さんは、24、5歳だと、思います…正造さんの歳で、24、5歳の娘は、あまり、いないでしょ?…」
「…」
「…でも、澄子さんなら、正造さんより、年上だし、女なら、若いときに、子供を産むひとも、いますから…だから、澄子さんの子供だと、言われて、信じてました…」
私の言葉に、新造さんは、考え込んだ…
「…たしかに、高見さんの言うことは、わかる…18歳で、子供を産んで、母親になる女は、稀に、いるが、18歳で、父親になる男は、あまり、いない…」
「…」
「…だから、その秋穂とか、いう女が、澄子の娘かも、しれないというのは、わかる…」
「…」
「…でも、オレには、どうしても、信じられない…」
「…どうして、信じられないんですか?…」
「…澄子の性格だ…とても、若い時に、男とどうにかなって、子供を産むような性格じゃない…」
たしかに、言われてみれば、わかる…
すっかり、澄子さんの性格を忘れていた…
澄子さんは、米倉の一族の中で、ハッキリ言って、一番、個性が強い…
一番、我が強い…
そして、顔は、平凡…
だから、男が、惹かれる要素は、皆無…
いくら若いときだったとは、いえ、子供を産む相手が、いたかと、いえば、おおいに疑問…
疑問だ…
「…それより、可能性があるのは…」
「…可能性?…」
「…米倉の一族…」
「…エッ?…」
「…だって、その秋穂って、女…高見さんや、好子に似ているんだろ?…」
「…エッ? …どうして、わかったんです?…」
「…米倉の家系は、女は、美人が、多いんだ…」
「…エッ?…」
「…ほら…高見さんも、米倉一族だって、調べて、わかったと、以前、オレは、言ったでしょ?…」
「…ハイ…おっしゃいました…」
「…アレは、高見さんを見て、ピンときたんだ?…」
「…ピンときた?…」
「…高見さんは、好子と、よく似ている…米倉の一族は、女は、高見さんや、好子によく似た美人が、多いらしい…」
「…らしい?…」
「…以前、聞いたことがある…好子が、米倉の正統後継者なのも、好子が、米倉の女が、持つ、一族を、代表する顔立ちだからだと…」
「…」
「…だから、その秋穂という女はそれを利用した? …あるいは、利用された?…」
「…利用された? …誰にですか?…」
「…それは、わからない…」
「…わからない?…」
「…いや、もしかしたら、一人だけ、思い当たる人間が、いる…」
「…誰ですか? …それは?…」
「…諏訪野和子…高見さん、知っているかな? …五井の女帝といわれるオバサンだ…」
「…諏訪野和子さん?…」
「…高見さん、知っているの?…」
「…ハイ…一度だけ、お会いしたことが、あります…」
「…なら、話が、早い…あの諏訪野和子…五井の女帝と、春子オバサンは、犬猿の仲なんだ…」
「…犬猿の仲?…」
「…二人とも、女ながら、由緒ある、家の継承者…しかも、性格も似ている…」
「…性格も、似ている…」
「…二人とも、やり手…しかも、歳も同じくらい…だから、キャラが、被る…だから、ハッキリ言って、目障り…どこの世界も、同じだが、同じキャラの人間は、二人は、いらないからね…」
「…」
「…だから、案外、その秋穂の背後に、あの五井の女帝が、関わっていても、おかしくはない…いや、関わっているんじゃないのかな…なんの証拠もないけど、オレは、そう思うよ…」
新造さんが、淡々と、言った…
私は、考え込んだ…
あまりにも…
あまりにも、意外な名前が、出てきたからだ…
まさか…
まさか、この場面で、諏訪野和子の名前が出てくるとは、思わなかった…
五井の女帝の名前が出て来るとは、思わなかった…
そして、ふと、気付いた…
どうして?
どうして、新造さんは、そんなことを、知っているのだろう…
ふと、思った…
だから、
「…どうして、新造さんは、そんなことを、ご存知なんですか?…」
と、直球に聞いた…
が、
新造さんは、それに、動じることは、なかった…
「…家庭だよ…」
淡々と、答えた…
「…家庭?…」
「…ほら、米倉と、水野は、オヤジ同士が、仲が良かったから、まるで、親戚付き合いみたいに、よく、水野のオジサンや、春子のオバサンも、うちにやって来た…それで、アレコレ、世間話になると、よく春子のオバサンが、五井の女帝のことを、罵っていたんだ…」
「…罵っていた? …あの春子さんが?…」
「…うん…」
「…でも、なんで、そこまで、嫌って…ただ、キャラが、被るだけで…」
「…それは、わからない…ただ…」
「…ただ…なんですか?…」
「…噂じゃ、若いときに、二人で、一人の男を取り合いになって、それを、きっかけに、犬猿の仲になったと、聞いたことがある…」
「…エッ?…」
「…まあ、あくまで、噂…真偽不明の噂…それが、ホントか、ウソか、知っている人間は、いるだろうが、さすがに、それは、誰も、言わない…口にしない…」
「…どうして、口にしないんですか?…」
「…だって、それを、すれば、あの二人のオバサンを怒らせることになる…誰が、しゃべったか、知れれば、文字通り、どうなるかは、わからない…下手をすれば、しゃべった人間の経営する、会社を潰されるかも、しれない…」
新造さんが、仰天の事実を語った…