第90話
文字数 4,727文字
「…どういう意味ですか?…」
「…アイツは、正造の通う銀座のクラブで、正造と知り合った…」
透(とおる)が、告げた…
…それは、以前、聞いた…
私は、思い出した…
「…だが、それは、偶然だ…」
「…偶然?…」
「…秋穂は、高見さん、同様、美人だ…その美人を生かすのに、手っ取り早いのは、水商売…男を相手にする商売だ…」
「…」
「…それも、随分若い時分からだ…きっと、家が貧しかったんだろう…」
「…」
「…ボクも、最初から、秋穂の言い分を信じたわけじゃないが、眉唾物だと、思っていた…でも、秋穂と写った、あのフライデーの記事で、気付いた…」
「…どう、気付いたんですか?…」
「…秋穂の言い分が、まったくのウソだということさ…」
「…」
「…いかに、父親が、違うとは、いえ、血が繋がった兄に対して、胸や頬を押し付けて、親密さを演出する妹は、いない…」
透(とおる)が、苦笑する…
「…あの秋穂もつい、いつもの調子で、やったんだろうが、それがいけなかった…」
透(とおる)が、苦笑して続けた…
正造を見ると、正造も、笑っていた…
実に、楽しそうに、笑っていた…
が、
その笑いは、同時に、寂しそうでも、あった…
「…そういう生き方をしてきたんだろ?…」
ポツリと、透(とおる)が、付け加えた…
「…そういうふうにしか、生きてゆけなかったんだろ?…」
とも、言った…
美人は、武器…
女に生まれたのならば、最強の武器だ…
頭が良く、生まれるよりも、はるかに、強力な武器になる…
が、
同時に、それは、見た目だけとも、言える…
どんな美人でも、いっしょにいれば、中身が、わかってくるからだ…
例えば、いかに、美人でも、性格が、悪く、いつも、他人の悪口ばかり、言っていれば、大抵の男は、逃げ出す…
当たり前のことだ…
あくまで、ひとと接するときの強力な武器になるが、それは、あくまで、入り口に過ぎない…
最初の入口に過ぎない…
以前にも、言ったことがあるが、それは、家に例えれば、豪邸と同じ…
どんなに大きく、立派な家でも、中に入ってみれば、とんでもなく汚ければ、誰でも、閉口する…
それと、同じだ…
そして、それは、また、男にも、当てはまる…
男もまた、女と、同様、イケメンに越したことは、ないからだ…
が、
やはり、それも、女と同じ…
どんなイケメンでも、中身がなければ、女は皆、幻滅する…
中身のない美人同様、イケメンに惹かれた女もまた、皆、逃げ出すだろう…
評価というものは、誰もが、同じ…
大抵が、同じ評価をするものだ…
性格が、悪いと、誰もが、思う人間は、自分だけでなく、周囲の人間も皆、その人間を性格が悪いと、見ているものだ…
おそらく、その人間を、性格が、悪いと、思わない人間は、自分や、身内の者だけ…
あとは、その性格が悪い人間と仲の良い、同じような性格の悪い人間たちだけだ(笑)…
類は友を呼ぶ…
磁石では、ないが、誰もが、似たような性格の人間たちと、仲良くなるものだ…
真面目で、おとなしい人間は、皆、同じように、真面目で、おとなしい人間たちと、仲良くなる…
性格が、悪い人間は、皆、同じように、性格の悪い人間同士、仲良くなる…
なぜなら、その方が、楽しいからだ…
なにより、気が合うからだ…
私は、思った…
同時に、やはりというか…
今日、透(とおる)が、秋穂と、いっしょにいて、ここで、私を待ち伏せたのは、計算の上…
もっと、言えば、この場所で、私を待ち伏せ、スタバに入り、正造が、大勢の私服の警察官を、連れて、やって来たのは、計算の上…
あらかじめ、決めていた…
そういうことだろうと、思った…
今回の秋穂の逮捕劇に、偶然は、ない…
あらかじめ、この透(とおる)と、正造の間で、筋書きは、決められて、いたのだろう…
あらかじめ、シナリオは、決められていたのだろう…
そう、思った…
だから、聞いた…
透(とおる)に、
「…今日、ここで、私と会ったのは、偶然ですか?」
と、聞いた…
「…透(とおる)さんと、秋穂さんが、歩いていたのは、偶然ですか?…」
と、聞いた…
聞かずには、いられなかった…
すると、間髪入れず、
「…偶然なわけ、ないだろ…」
と、透(とおる)が、答えた…
「…この正造と、事前に打ち合わせた上で、行動したんだ…」
「…だったら、どうやって、秋穂さんと、知り合ったんですか? …正造さんの紹介ですか?…」
「…それは、違う…」
「…どう、違うんですか?…」
「…ボクは、秋穂のいる店を、正造に、紹介してもらっただけだ…」
「…」
「…あの秋穂の正体に、気付いた正造は、わざと、ボクを、秋穂のいる店に、行かせたのさ…秋穂が、どう出るか、興味があったんだろ?…」
透(とおる)が、激白する…
私は、今度は、正造を見た…
そして、
「…だったら、正造さん…正造さんは、どうして、秋穂さんと、知り合ったんですか?
また、いつ、秋穂さんの正体に気付いたんですか?…」
と、聞いた…
「…秋穂のいる店に行ったのは、偶然だ…だが、秋穂は、すぐに、ボクの正体に、気付いたらしい…」
「…正体?…」
「…ボクが、大日産業取締役の米倉正造だということさ…」
「…」
「…今は、昔と違って、ネットがある…スマホひとつで、大日産業のホームページにアクセスすれば、ボクの顔が、写っている…」
「…」
「…あの秋穂は、それを知って、ボクに近付いた…」
「…自分が、澄子さんの娘だと、知っていたから…」
「…いや…」
正造は、私の意見を、否定した…
首を横に振って、否定した…
「…いや、それは、あの秋穂が、言っているだけだ…」
正造が、否定した…
「…ボクは、秋穂の言い分を、まるっきり、信じちゃいない…」
仰天の告白だった…
「…でも、さっきは…」
「…アレは、秋穂に合わせただけだ…」
「…だったら、なにを、根拠に?…」
「…透(とおる)と同じだ…」
「…透(とおる)さんと?…」
「…透(とおる)が、秋穂に、頬や胸を、寄せられて、妹じゃないと、気付いたと、言っただろ? 本当に、血が繋がった妹ならば、そんな真似をするわけがないからだ…」
「…」
「…ボクの場合も、それと、同じだ…秋穂は、ボクが、米倉正造だと知ってから、ホテルに誘った…いわば、色仕掛けで、誘ったわけだ…血の繋がった実の姪ならば、叔父に対して、そんな真似をするわけがない…」
「…だったら、秋穂さんの正体は?…」
「…それは、まもなく、わかる…ボクを殺そうとした刑事事件だ…警察が、動く…興信所とは、わけが、違う…公権力を行使できるわけだ…」
正造が、意味深に、笑った…
「…もっとも、見当はついている…」
「…ホントですか?…」
「…秋穂の素性は、わからない…だが、誰が、背後にいるかは、見当がついている…」
そう言って、意味深に、透(とおる)に、笑いかけた…
すると、途端に、透(とおる)も、肩をすくめた…
「…ボクにも、だ…」
透(とおる)が、答えた…
「…見当は、ついている…」
そう言って、寂しく笑った…
私は、その透(とおる)の顔を見て、すぐに、ピンときた…
「…透(とおる)さんのご両親…」
「…たぶんね…」
透(とおる)が、即答する…
「…って、いうか、オフクロだろ…いや、オフクロに決まっている…」
「…オフクロって、春子さん?…」
「…高見さんは、オフクロに、会ったらしいな…」
透(とおる)が、言った…
私は、びっくりした…
知っていた?
やはり、知っていた!
が、
なんといっていいか、わからなかった…
たしかに、透(とおる)抜きで、透(とおる)の家に、行った…
水野の豪邸に、行った…
が、
それを、透(とおる)に、どう伝えて、いいか、わからなかったからだ…
だから、
「…」
と、答えなかった…
答えないのが、一番だと、思ったからだ…
反応しないのが、一番だと、思ったからだ…
が、
透(とおる)が、笑いながら、
「…高見さんは、オフクロに試されたんだよ…」
と、告げた…
「…試された? …それは、どういう意味ですか?…」
「…透(とおる)のお嫁さん候補として、見られたんだろ?…」
正造が、あっけらかんと、告げた…
「…お嫁さん候補? 私が?…」
「…春子のオバサマは、せっかちで、気が強い…水野と米倉の合併が、困難だと、知ったら、すぐに、透(とおる)と、好子の結婚も、ダメになると、思ったんだろ? それで、高見さんのことを、思い出した…」
「…私のことを、思い出した?…」
「…オヤジは…良平は、高見さんに会っている…ボクが、高見さんを好きだと、聞いて、どんな女か、知りたくて、いてもたっても、いられず、高見さんに、会いに行った…」
「…」
「…でも、オフクロは、高見さんに、会ってない…だから、高見さんに会いたかった…どんな女か、一目見たかった…それが、真相だろう…」
「…そんな…」
そんなバカな…
いや、
ホントに、そんなことが…
私は、言いたかった…
同時に、なんだか、顔が赤くなった…
もうすぐ34歳にもなるのに、顔が火照ってくるのが、わかった…
私としたことが…
こんなことが…
一体、いつ以来だろ?
中学生?
それとも、
高校生?
覚えていないくらい、遠い昔、以来だった…
そして、考えた…
あのとき、たしか、透(とおる)の父親の良平さんは、
「…透(とおる)が、反抗して、手に負えない…」
と、いうようなことを、言っていた…
アレは、もしかしたら?…
もしかしたら、透(とおる)と、好子さんの離婚のことだったのかも、しれない…
と、気付いた…
水野と米倉の社風が、合わず、合併は、困難だと、早々に、気付いた…
すると、どうだ?
合併の象徴である、透(とおる)と、好子さんの結婚が、焦点となる…
水野と米倉の合併が破談しても、二人が、夫婦を続けるのか、否かが、焦点となる…
そして、おそらく、良平、春子の夫婦は、早々に、二人が別れることを、望んだのだろう…
真逆に、それに、この透(とおる)は、離婚に反対した…
そういうことだろう…
だから、
「…あのとき、お父様は、透(とおる)が、私たちに、逆らって、困っていると、いうようなことを、おっしゃってました…それは、水野と米倉の社風が合わないから、透(とおる)さんと、好子さんも、早々に、離婚させたいのに、透(とおる)さんが、従わなかったからですね…」
私の言葉に、透(とおる)と、正造が、互いに、顔を見合わせた…
それから、透(とおる)が、私に向き直って、
「…よくわかったね…」
と、私を褒めた…
「…その通りだ…オヤジとオフクロは、早々に離婚しろと、勧めた…水野と米倉は社風が違い過ぎて、合併は、無理…しかも、米倉は、莫大な借金を抱えている…当初、考えていたよりは、借金は、遥かに小さかったが、借金は、借金だ…」
「…」
「…おまけに、ボクが、好子と結婚してから、小さないざこざが、絶えなかった…なまじ、子供の頃から、知っているから、なんでも、好子のことが、わかっているつもりだったが、結婚してみれば、全然わかっちゃいなかった…」
「…」
「…それを周囲に愚痴ったことが、オヤジやオフクロに伝わったんだろ? さっさと、別れろと、言われた…でも、ボクは、そんなに早く、別れたくなかった…そんなに早く結論を出したくなかった…」
「…」
「…それで、オヤジやオフクロと、揉めているときに、あの秋穂と知り合ったんだ…」
透(とおる)が告げた…
「…アイツは、正造の通う銀座のクラブで、正造と知り合った…」
透(とおる)が、告げた…
…それは、以前、聞いた…
私は、思い出した…
「…だが、それは、偶然だ…」
「…偶然?…」
「…秋穂は、高見さん、同様、美人だ…その美人を生かすのに、手っ取り早いのは、水商売…男を相手にする商売だ…」
「…」
「…それも、随分若い時分からだ…きっと、家が貧しかったんだろう…」
「…」
「…ボクも、最初から、秋穂の言い分を信じたわけじゃないが、眉唾物だと、思っていた…でも、秋穂と写った、あのフライデーの記事で、気付いた…」
「…どう、気付いたんですか?…」
「…秋穂の言い分が、まったくのウソだということさ…」
「…」
「…いかに、父親が、違うとは、いえ、血が繋がった兄に対して、胸や頬を押し付けて、親密さを演出する妹は、いない…」
透(とおる)が、苦笑する…
「…あの秋穂もつい、いつもの調子で、やったんだろうが、それがいけなかった…」
透(とおる)が、苦笑して続けた…
正造を見ると、正造も、笑っていた…
実に、楽しそうに、笑っていた…
が、
その笑いは、同時に、寂しそうでも、あった…
「…そういう生き方をしてきたんだろ?…」
ポツリと、透(とおる)が、付け加えた…
「…そういうふうにしか、生きてゆけなかったんだろ?…」
とも、言った…
美人は、武器…
女に生まれたのならば、最強の武器だ…
頭が良く、生まれるよりも、はるかに、強力な武器になる…
が、
同時に、それは、見た目だけとも、言える…
どんな美人でも、いっしょにいれば、中身が、わかってくるからだ…
例えば、いかに、美人でも、性格が、悪く、いつも、他人の悪口ばかり、言っていれば、大抵の男は、逃げ出す…
当たり前のことだ…
あくまで、ひとと接するときの強力な武器になるが、それは、あくまで、入り口に過ぎない…
最初の入口に過ぎない…
以前にも、言ったことがあるが、それは、家に例えれば、豪邸と同じ…
どんなに大きく、立派な家でも、中に入ってみれば、とんでもなく汚ければ、誰でも、閉口する…
それと、同じだ…
そして、それは、また、男にも、当てはまる…
男もまた、女と、同様、イケメンに越したことは、ないからだ…
が、
やはり、それも、女と同じ…
どんなイケメンでも、中身がなければ、女は皆、幻滅する…
中身のない美人同様、イケメンに惹かれた女もまた、皆、逃げ出すだろう…
評価というものは、誰もが、同じ…
大抵が、同じ評価をするものだ…
性格が、悪いと、誰もが、思う人間は、自分だけでなく、周囲の人間も皆、その人間を性格が悪いと、見ているものだ…
おそらく、その人間を、性格が、悪いと、思わない人間は、自分や、身内の者だけ…
あとは、その性格が悪い人間と仲の良い、同じような性格の悪い人間たちだけだ(笑)…
類は友を呼ぶ…
磁石では、ないが、誰もが、似たような性格の人間たちと、仲良くなるものだ…
真面目で、おとなしい人間は、皆、同じように、真面目で、おとなしい人間たちと、仲良くなる…
性格が、悪い人間は、皆、同じように、性格の悪い人間同士、仲良くなる…
なぜなら、その方が、楽しいからだ…
なにより、気が合うからだ…
私は、思った…
同時に、やはりというか…
今日、透(とおる)が、秋穂と、いっしょにいて、ここで、私を待ち伏せたのは、計算の上…
もっと、言えば、この場所で、私を待ち伏せ、スタバに入り、正造が、大勢の私服の警察官を、連れて、やって来たのは、計算の上…
あらかじめ、決めていた…
そういうことだろうと、思った…
今回の秋穂の逮捕劇に、偶然は、ない…
あらかじめ、この透(とおる)と、正造の間で、筋書きは、決められて、いたのだろう…
あらかじめ、シナリオは、決められていたのだろう…
そう、思った…
だから、聞いた…
透(とおる)に、
「…今日、ここで、私と会ったのは、偶然ですか?」
と、聞いた…
「…透(とおる)さんと、秋穂さんが、歩いていたのは、偶然ですか?…」
と、聞いた…
聞かずには、いられなかった…
すると、間髪入れず、
「…偶然なわけ、ないだろ…」
と、透(とおる)が、答えた…
「…この正造と、事前に打ち合わせた上で、行動したんだ…」
「…だったら、どうやって、秋穂さんと、知り合ったんですか? …正造さんの紹介ですか?…」
「…それは、違う…」
「…どう、違うんですか?…」
「…ボクは、秋穂のいる店を、正造に、紹介してもらっただけだ…」
「…」
「…あの秋穂の正体に、気付いた正造は、わざと、ボクを、秋穂のいる店に、行かせたのさ…秋穂が、どう出るか、興味があったんだろ?…」
透(とおる)が、激白する…
私は、今度は、正造を見た…
そして、
「…だったら、正造さん…正造さんは、どうして、秋穂さんと、知り合ったんですか?
また、いつ、秋穂さんの正体に気付いたんですか?…」
と、聞いた…
「…秋穂のいる店に行ったのは、偶然だ…だが、秋穂は、すぐに、ボクの正体に、気付いたらしい…」
「…正体?…」
「…ボクが、大日産業取締役の米倉正造だということさ…」
「…」
「…今は、昔と違って、ネットがある…スマホひとつで、大日産業のホームページにアクセスすれば、ボクの顔が、写っている…」
「…」
「…あの秋穂は、それを知って、ボクに近付いた…」
「…自分が、澄子さんの娘だと、知っていたから…」
「…いや…」
正造は、私の意見を、否定した…
首を横に振って、否定した…
「…いや、それは、あの秋穂が、言っているだけだ…」
正造が、否定した…
「…ボクは、秋穂の言い分を、まるっきり、信じちゃいない…」
仰天の告白だった…
「…でも、さっきは…」
「…アレは、秋穂に合わせただけだ…」
「…だったら、なにを、根拠に?…」
「…透(とおる)と同じだ…」
「…透(とおる)さんと?…」
「…透(とおる)が、秋穂に、頬や胸を、寄せられて、妹じゃないと、気付いたと、言っただろ? 本当に、血が繋がった妹ならば、そんな真似をするわけがないからだ…」
「…」
「…ボクの場合も、それと、同じだ…秋穂は、ボクが、米倉正造だと知ってから、ホテルに誘った…いわば、色仕掛けで、誘ったわけだ…血の繋がった実の姪ならば、叔父に対して、そんな真似をするわけがない…」
「…だったら、秋穂さんの正体は?…」
「…それは、まもなく、わかる…ボクを殺そうとした刑事事件だ…警察が、動く…興信所とは、わけが、違う…公権力を行使できるわけだ…」
正造が、意味深に、笑った…
「…もっとも、見当はついている…」
「…ホントですか?…」
「…秋穂の素性は、わからない…だが、誰が、背後にいるかは、見当がついている…」
そう言って、意味深に、透(とおる)に、笑いかけた…
すると、途端に、透(とおる)も、肩をすくめた…
「…ボクにも、だ…」
透(とおる)が、答えた…
「…見当は、ついている…」
そう言って、寂しく笑った…
私は、その透(とおる)の顔を見て、すぐに、ピンときた…
「…透(とおる)さんのご両親…」
「…たぶんね…」
透(とおる)が、即答する…
「…って、いうか、オフクロだろ…いや、オフクロに決まっている…」
「…オフクロって、春子さん?…」
「…高見さんは、オフクロに、会ったらしいな…」
透(とおる)が、言った…
私は、びっくりした…
知っていた?
やはり、知っていた!
が、
なんといっていいか、わからなかった…
たしかに、透(とおる)抜きで、透(とおる)の家に、行った…
水野の豪邸に、行った…
が、
それを、透(とおる)に、どう伝えて、いいか、わからなかったからだ…
だから、
「…」
と、答えなかった…
答えないのが、一番だと、思ったからだ…
反応しないのが、一番だと、思ったからだ…
が、
透(とおる)が、笑いながら、
「…高見さんは、オフクロに試されたんだよ…」
と、告げた…
「…試された? …それは、どういう意味ですか?…」
「…透(とおる)のお嫁さん候補として、見られたんだろ?…」
正造が、あっけらかんと、告げた…
「…お嫁さん候補? 私が?…」
「…春子のオバサマは、せっかちで、気が強い…水野と米倉の合併が、困難だと、知ったら、すぐに、透(とおる)と、好子の結婚も、ダメになると、思ったんだろ? それで、高見さんのことを、思い出した…」
「…私のことを、思い出した?…」
「…オヤジは…良平は、高見さんに会っている…ボクが、高見さんを好きだと、聞いて、どんな女か、知りたくて、いてもたっても、いられず、高見さんに、会いに行った…」
「…」
「…でも、オフクロは、高見さんに、会ってない…だから、高見さんに会いたかった…どんな女か、一目見たかった…それが、真相だろう…」
「…そんな…」
そんなバカな…
いや、
ホントに、そんなことが…
私は、言いたかった…
同時に、なんだか、顔が赤くなった…
もうすぐ34歳にもなるのに、顔が火照ってくるのが、わかった…
私としたことが…
こんなことが…
一体、いつ以来だろ?
中学生?
それとも、
高校生?
覚えていないくらい、遠い昔、以来だった…
そして、考えた…
あのとき、たしか、透(とおる)の父親の良平さんは、
「…透(とおる)が、反抗して、手に負えない…」
と、いうようなことを、言っていた…
アレは、もしかしたら?…
もしかしたら、透(とおる)と、好子さんの離婚のことだったのかも、しれない…
と、気付いた…
水野と米倉の社風が、合わず、合併は、困難だと、早々に、気付いた…
すると、どうだ?
合併の象徴である、透(とおる)と、好子さんの結婚が、焦点となる…
水野と米倉の合併が破談しても、二人が、夫婦を続けるのか、否かが、焦点となる…
そして、おそらく、良平、春子の夫婦は、早々に、二人が別れることを、望んだのだろう…
真逆に、それに、この透(とおる)は、離婚に反対した…
そういうことだろう…
だから、
「…あのとき、お父様は、透(とおる)が、私たちに、逆らって、困っていると、いうようなことを、おっしゃってました…それは、水野と米倉の社風が合わないから、透(とおる)さんと、好子さんも、早々に、離婚させたいのに、透(とおる)さんが、従わなかったからですね…」
私の言葉に、透(とおる)と、正造が、互いに、顔を見合わせた…
それから、透(とおる)が、私に向き直って、
「…よくわかったね…」
と、私を褒めた…
「…その通りだ…オヤジとオフクロは、早々に離婚しろと、勧めた…水野と米倉は社風が違い過ぎて、合併は、無理…しかも、米倉は、莫大な借金を抱えている…当初、考えていたよりは、借金は、遥かに小さかったが、借金は、借金だ…」
「…」
「…おまけに、ボクが、好子と結婚してから、小さないざこざが、絶えなかった…なまじ、子供の頃から、知っているから、なんでも、好子のことが、わかっているつもりだったが、結婚してみれば、全然わかっちゃいなかった…」
「…」
「…それを周囲に愚痴ったことが、オヤジやオフクロに伝わったんだろ? さっさと、別れろと、言われた…でも、ボクは、そんなに早く、別れたくなかった…そんなに早く結論を出したくなかった…」
「…」
「…それで、オヤジやオフクロと、揉めているときに、あの秋穂と知り合ったんだ…」
透(とおる)が告げた…