第5話
文字数 5,013文字
…あの松嶋が、私に惚れている?…
考えても、いない言葉だった…
まさに、まさか、だ…
同時に、それは、本当なのか? と、思った…
米倉正造の冗談という可能性もある…
だから、
「…ご冗談でしょ?…」
と、言った…
が、
返ってきた言葉は、
「…本当です…」
だった…
「…一体、どこから?…」
「…蛇の道は、蛇と、さっきも、言ったはずです…」
米倉正造が、言った…
「…高見さん…金崎実業は、米倉・水野グループです…」
「…」
「…社員は、およそ千人…中堅の商社です…規模は、大きくもなく、小さくもない…」
「…」
「…ですが、商社ですから、当然、支社や支店は、日本中にあります…だから、一つの支店の人数は、少ない…決して、多くはない…」
「…」
「…つまり、なにが、言いたいかと言えば、女が少ないということです…」
「…女が少ない?…」
「…会社は、学校とは、違います…男女が、五分五分の割合で、いるわけじゃない…」
「…」
「…仮に、男女の割合が、五分五分でも、男は、高校を卒業した18歳から、65歳ぐらいまで、いるのに、対して、女は、18歳から、せいぜい35歳ぐらいまでとか…つまり、女から、見れば、圧倒的に、結婚対象となる年齢の男が、少ない…」
…たしかに、米倉正造の言う通り…
私のいた金崎実業は、若い女が、多かった…
現実に、もうすぐ34歳になるであろう、私は、営業所の女の中では、一番上…
すでに、とうが立っている(苦笑)…
今の女性には、昔と違って、結婚適齢期がないというが、それは、ウソ…
明らかに、ウソだ…
やはり、35歳ぐらいまでには、結婚したい…
いや、
しなければ、ならない…
なぜなら、男女ともに、恋愛は、若い方が、有利だからだ…
仮に、男が30歳だとして、20歳の女と、40歳の女のどっちを選ぶ? と、聞けば、誰もが、20歳を選ぶ…
そういうものだ…
もちろん、実際は、個人差が、多い…
美人で、有名な、女優の佐々木希さんに似た、40歳の女性と、平凡な容姿の20歳の女性と、比べて、どっちがいいというようなことはある…
が、
それは、稀…
普通は、どっちも大差がない平凡な容姿の女が、多い…
だから、年齢で、選ぶ…
そういうことだ…
だから、若い方が、いい…
若い方が、有利…
しかも、例えば、私が、あと十年独身で、もうすぐ44歳になるとする…
すると、どうだ?
44歳の私を、キレイだ、カワイイだ、と、持ち上げてくれるのは、おそらく50代や、60代の男…
もはや、年下の男が、言い寄って来る可能性は、皆無…
皆無=ゼロに近い…
だから、ホントは、結婚は、急がねば、ならない…
仮に、結婚するとすれば、急がねば、ならない…
それが、正直な気持ちだった…
私が、そんなことを、考えていると、
「…それほど、女性が、多い金崎実業でも、美人と言われる女性は、案外少ない…」
米倉正造が、続ける…
「…だから、人事の松嶋は、高見さんの写真を見て、心躍ったと言ってます…」
「…私の写真を見て?…」
「…人事には、全社員の情報が、集められます…当然、写真も…」
「…」
「…だから、さっき、女が少ないと言いましたが、ホントは、金崎実業は、多い…従業員千人で、女は、半分の500人…ですが、本社には、数えるほどとまでは、言わないが、圧倒的に少ない…なにしろ、大半が、支社や営業所です…本社には、社員は、100人もいない…だから、松嶋の周りには、案外、女性が、少ない…」
「…それで、私が、目立った…」
「…そういうことです…」
なるほど、それなら、納得がいく…
大方、人事で、社員情報を見て、私に興味をもったのかも、しれなかった…
自分で、言うのも、なんだが、私は、目立つ…
美人だから、目立つ(苦笑)…
だから、就職氷河期に、就職活動=就活をしたにも、かかわらず、書類選考で、落ちたことは、一度もなかった…
大学が、中堅で、たいした大学を出ていないにも、かかわらず、一度もなかった…
が、
それを周囲の人間に告げることは、なかった…
黙っていた…
言えば、嫌みを言われるのが、わかっているからだ…
「…高見は、美人だから、いいね…」
と、言われるのが、わかっているからだ…
顔パスというか…
学歴で言えば、まるで、東大を出ているような(笑)…
それと同じ効果を得ることが、できる(爆笑)…
つまり、書類を提出するだけで、最初の選別は、通過できる…
自分で、言うのも、なんだが、顔がいいだけで、頭がいいのと、同じ効果を得ることができる…
大学の偏差値は、決して、高くはないのに、顔面偏差値は、高い…
東大並みに高い(笑)…
これは、たしかに、不公平…
私が、もし、私以外の人間ならば、やはり、不公平だと、感じる…
当たり前のことだ…
そして、若ければ、若いほど、それを感じる…
誰もが、歳を取れば、ある程度、丸くなるというか…
ハッキリ言えば、そういうものだと、諦める(笑)…
ハッキリ、言えば、世の中、そういうものだと、諦めるようになる(苦笑)…
例えば、自分だって、男の立場になれば、平凡な容姿の女よりも、美人の方がいい…
また、女の立場であれば、男で、あれば、平凡な容姿の男よりも、イケメンが、いい、と思うからだ…
誰もが、同じ…
同じだ…
ただ、自分が、イケメンや美人に生まれなかった…
それだけの違いだ(笑)…
それだけの違いで、書類選考が、通ったり、通らなかったり…
不公平感が、半端ないが、世の中、そういうものだ…
が、
それは、選別だけ…
実際に、いっしょに、働くとなると、評価は変わる…
例え、ルックスが良くても、仕事がまるっきり出来なかったり、性格が悪かったりすれば、誰もが、辟易する…
そういうことだ…
ルックスは、ある意味、入り口というか…
例えて、言えば、キレイな建物の中に、入るようなもの…
外見が、キレイだから、当然、中もキレイだと思っていたら、さにあらずというか…
外見とは似ても似つかぬような、汚さということは、ある…
それと、同じだ…
話を戻そう…
松嶋のことだ…
松嶋は、金崎実業で、人事課に属している…
人事課と言っても、本社の一部門…
それに金崎実業の本社は、都心の大きなビルの、テナントに入っているに、過ぎない…
だから、従業員千人が、所属する会社とは、名ばかりというか…
とても、従業員が、千人もいる会社とは、思えないほど、本社は、チンケというか…
小さい(笑)…
本社には、100人も、社員は、いない…
せいぜい、6,70人と言ったところか…
だから、松嶋の周りに、いる女は、数えるほど…
だから、暇なときに、社内のパソコンで、人事の名簿でも、見て、社内の美人を探して、暇を潰していたのかも、しれない…
私は、そう見た…
私は、そう睨んだ…
そして、そう考えるのが、一番納得するからだ…
そして、そこまで、考えて、気付いた…
一体、松嶋は、私をどうするというのか?
まさか、いきなり、初対面で、
「…ボクと付き合って下さい…」
とか、いうつもりは、あるまい(爆笑)…
ならば、一体、どうすると、言うのか?
そんなことを、考えていると、
「…どうしました? …高見さん…驚きで、声も出ませんか?…」
と、米倉正造が、聞いてきた…
私は、反射的に、
「…いえ、それも、ありますが…」
と、答えた…
「…でも、名簿を見て、私に憧れたというのは、わかりますが、一体、どうするつもりだったんでしょ?…」
「…どうすると言うと?…」
「…だって、まさか、社員名簿を、会社のパソコンで、見て、実際に、私に会って、いきなり、結婚を前提に付き合って下さいというひとは、いないでしょ?…」
私の言葉に、
「…」
と、米倉正造は、絶句した…
「…仮に、今回、私をリストラするつもりでも、実際に会って、どうするつもりだったんでしょ?…」
私が、言葉を続けると、
「…」
と、米倉正造も、黙った…
黙らざるを得なかったかも、しれない…
「…それに、こう言っては、なんですが、あの松嶋さんが、私に憧れていたというのは、眉唾物というか…」
「…どうして、そう言えるんですか?…」
「…だって、面談のときには、ずっと、怒った顔をしていましたよ…」
「…怒った顔?…」
「…そうです…」
私の言葉に、
「…」
と、米倉正造は、黙った…
なんて、答えていいか、わからなかったのかも、しれない…
が、
少しして、
「…理由は、いくつか、考えられます…」
と、返答した…
「…どんな理由ですか?…」
「…例えば、言いづらいですが、高見さんが、写真で、見たイメージと、違うとか…」
「…イメージが違う?…」
「…ハイ…誰でも、写真で、見るのと、実際に会うのでは、イメージが違うでしょ?…」
これには、今度は、
「…」
と、私が、黙るしか、なかった…
たしかに、言われてみれば、その通り…
写真と本人は、違う…
要するに、目の前で、動き、しゃべれば、そのひとの持つ雰囲気が出る…
個性が出る…
写真では、寡黙で、おとなしそうに見える人間が、雄弁で、気が強かったり…
その逆もある…
また写真では、わからなかったが、妙に堂々として、頼りがいがあったり…
真逆になかったり…
いずれにしろ、写真と、実物は、違うということだ…
そして、そう言われると、黙り込むしか、なかった…
要するに、写真では、美人だったから、期待して会ったが、実物には、幻滅した…
そういうことだからだ…
米倉正造は、婉曲に、写真と実物は、違うと言ったが、ホントは、実物を見て、幻滅したと、言いたかったのかもしれない(笑)…
そして、それは、あると、私は、思った…
ずっと以前のことだが、会社で、ある男が、
「…でも、オレ…あのひとが、どういうひとなのか、わからないんだよね…」
と、ある女性社員のことを、言っているのを、近くで、聞いて、愕然としたことがある…
なぜなら、その男は、よく、その女性社員と、世間話をしていたからだ…
冗談を言い合っていたからだ…
が、
私は、すぐに、思い直した…
その男は、若いが、すでに妻帯者だった…
結婚していた…
だからかもしれない…
だから、そう言った発言をしたのかも、しれないと、思い直した…
誰でも、そうだが、学校や会社で、気軽に、おしゃべりをしているのと、実際に、いっしょに暮らすのは、違う…
そういうことだ…
学校や会社では、見たこともない素顔というか、違う一面を見ることができる…
例えば、会社では、職場で一番の働き者が、家では、なにもしないとか…
あくまで、会社という、自分が、評価される場所であるから、一生懸命働く…
あるいは、ひとから、よく見られたいという気持ちから、働く…
が、
家では、いつもゴロゴロしている…
そして、そんな人間は、日本中、いや、世界中、至る所に、いるだろう…
私は、思った…
そして、それと、同じかも、しれないと、思った…
要するに、見た目…
写真を見て、漠然と思い描いていた、私、高見ちづると、実際の高見ちづるは、違った…
そういうことかも、しれないと、思った…
言ってみれば、相手が、勝手に、私を、こんな女だと思って、会ってみたら、違った…
そういうことかも、しれない…
だから、怒った…
写真と、実物は、違うから、怒った…
そういうことかも、しれない…
そう思った…
いわば、相手=松嶋が、勝手に、私をこういう人間だと、決めつけていたが、会ってみると、違った…
だから、幻滅した…
そして、それが、顔に出た…
表情に出た…
そういうことかも、しれないと、思った…
そして、もし、ホントに、そういうことなら、私は、なんと、言っていいか、わからなかった…
怒っていいか、笑っていいか、わからなかった…
いわば、私は、被害者だった…
松嶋の一方的な思い込み=幻想と、違っていたから、幻滅した…
そんな一方的な思い込みと違ったから、幻滅して、私に辛く当たった…
もし、それが、ホントだとしたら、怒っていいか、笑っていいか、わからなかった…
ただ、一つ言えることは、
…私は、なにも悪いことは、していない…
それだけだった(笑)…
考えても、いない言葉だった…
まさに、まさか、だ…
同時に、それは、本当なのか? と、思った…
米倉正造の冗談という可能性もある…
だから、
「…ご冗談でしょ?…」
と、言った…
が、
返ってきた言葉は、
「…本当です…」
だった…
「…一体、どこから?…」
「…蛇の道は、蛇と、さっきも、言ったはずです…」
米倉正造が、言った…
「…高見さん…金崎実業は、米倉・水野グループです…」
「…」
「…社員は、およそ千人…中堅の商社です…規模は、大きくもなく、小さくもない…」
「…」
「…ですが、商社ですから、当然、支社や支店は、日本中にあります…だから、一つの支店の人数は、少ない…決して、多くはない…」
「…」
「…つまり、なにが、言いたいかと言えば、女が少ないということです…」
「…女が少ない?…」
「…会社は、学校とは、違います…男女が、五分五分の割合で、いるわけじゃない…」
「…」
「…仮に、男女の割合が、五分五分でも、男は、高校を卒業した18歳から、65歳ぐらいまで、いるのに、対して、女は、18歳から、せいぜい35歳ぐらいまでとか…つまり、女から、見れば、圧倒的に、結婚対象となる年齢の男が、少ない…」
…たしかに、米倉正造の言う通り…
私のいた金崎実業は、若い女が、多かった…
現実に、もうすぐ34歳になるであろう、私は、営業所の女の中では、一番上…
すでに、とうが立っている(苦笑)…
今の女性には、昔と違って、結婚適齢期がないというが、それは、ウソ…
明らかに、ウソだ…
やはり、35歳ぐらいまでには、結婚したい…
いや、
しなければ、ならない…
なぜなら、男女ともに、恋愛は、若い方が、有利だからだ…
仮に、男が30歳だとして、20歳の女と、40歳の女のどっちを選ぶ? と、聞けば、誰もが、20歳を選ぶ…
そういうものだ…
もちろん、実際は、個人差が、多い…
美人で、有名な、女優の佐々木希さんに似た、40歳の女性と、平凡な容姿の20歳の女性と、比べて、どっちがいいというようなことはある…
が、
それは、稀…
普通は、どっちも大差がない平凡な容姿の女が、多い…
だから、年齢で、選ぶ…
そういうことだ…
だから、若い方が、いい…
若い方が、有利…
しかも、例えば、私が、あと十年独身で、もうすぐ44歳になるとする…
すると、どうだ?
44歳の私を、キレイだ、カワイイだ、と、持ち上げてくれるのは、おそらく50代や、60代の男…
もはや、年下の男が、言い寄って来る可能性は、皆無…
皆無=ゼロに近い…
だから、ホントは、結婚は、急がねば、ならない…
仮に、結婚するとすれば、急がねば、ならない…
それが、正直な気持ちだった…
私が、そんなことを、考えていると、
「…それほど、女性が、多い金崎実業でも、美人と言われる女性は、案外少ない…」
米倉正造が、続ける…
「…だから、人事の松嶋は、高見さんの写真を見て、心躍ったと言ってます…」
「…私の写真を見て?…」
「…人事には、全社員の情報が、集められます…当然、写真も…」
「…」
「…だから、さっき、女が少ないと言いましたが、ホントは、金崎実業は、多い…従業員千人で、女は、半分の500人…ですが、本社には、数えるほどとまでは、言わないが、圧倒的に少ない…なにしろ、大半が、支社や営業所です…本社には、社員は、100人もいない…だから、松嶋の周りには、案外、女性が、少ない…」
「…それで、私が、目立った…」
「…そういうことです…」
なるほど、それなら、納得がいく…
大方、人事で、社員情報を見て、私に興味をもったのかも、しれなかった…
自分で、言うのも、なんだが、私は、目立つ…
美人だから、目立つ(苦笑)…
だから、就職氷河期に、就職活動=就活をしたにも、かかわらず、書類選考で、落ちたことは、一度もなかった…
大学が、中堅で、たいした大学を出ていないにも、かかわらず、一度もなかった…
が、
それを周囲の人間に告げることは、なかった…
黙っていた…
言えば、嫌みを言われるのが、わかっているからだ…
「…高見は、美人だから、いいね…」
と、言われるのが、わかっているからだ…
顔パスというか…
学歴で言えば、まるで、東大を出ているような(笑)…
それと同じ効果を得ることが、できる(爆笑)…
つまり、書類を提出するだけで、最初の選別は、通過できる…
自分で、言うのも、なんだが、顔がいいだけで、頭がいいのと、同じ効果を得ることができる…
大学の偏差値は、決して、高くはないのに、顔面偏差値は、高い…
東大並みに高い(笑)…
これは、たしかに、不公平…
私が、もし、私以外の人間ならば、やはり、不公平だと、感じる…
当たり前のことだ…
そして、若ければ、若いほど、それを感じる…
誰もが、歳を取れば、ある程度、丸くなるというか…
ハッキリ言えば、そういうものだと、諦める(笑)…
ハッキリ、言えば、世の中、そういうものだと、諦めるようになる(苦笑)…
例えば、自分だって、男の立場になれば、平凡な容姿の女よりも、美人の方がいい…
また、女の立場であれば、男で、あれば、平凡な容姿の男よりも、イケメンが、いい、と思うからだ…
誰もが、同じ…
同じだ…
ただ、自分が、イケメンや美人に生まれなかった…
それだけの違いだ(笑)…
それだけの違いで、書類選考が、通ったり、通らなかったり…
不公平感が、半端ないが、世の中、そういうものだ…
が、
それは、選別だけ…
実際に、いっしょに、働くとなると、評価は変わる…
例え、ルックスが良くても、仕事がまるっきり出来なかったり、性格が悪かったりすれば、誰もが、辟易する…
そういうことだ…
ルックスは、ある意味、入り口というか…
例えて、言えば、キレイな建物の中に、入るようなもの…
外見が、キレイだから、当然、中もキレイだと思っていたら、さにあらずというか…
外見とは似ても似つかぬような、汚さということは、ある…
それと、同じだ…
話を戻そう…
松嶋のことだ…
松嶋は、金崎実業で、人事課に属している…
人事課と言っても、本社の一部門…
それに金崎実業の本社は、都心の大きなビルの、テナントに入っているに、過ぎない…
だから、従業員千人が、所属する会社とは、名ばかりというか…
とても、従業員が、千人もいる会社とは、思えないほど、本社は、チンケというか…
小さい(笑)…
本社には、100人も、社員は、いない…
せいぜい、6,70人と言ったところか…
だから、松嶋の周りに、いる女は、数えるほど…
だから、暇なときに、社内のパソコンで、人事の名簿でも、見て、社内の美人を探して、暇を潰していたのかも、しれない…
私は、そう見た…
私は、そう睨んだ…
そして、そう考えるのが、一番納得するからだ…
そして、そこまで、考えて、気付いた…
一体、松嶋は、私をどうするというのか?
まさか、いきなり、初対面で、
「…ボクと付き合って下さい…」
とか、いうつもりは、あるまい(爆笑)…
ならば、一体、どうすると、言うのか?
そんなことを、考えていると、
「…どうしました? …高見さん…驚きで、声も出ませんか?…」
と、米倉正造が、聞いてきた…
私は、反射的に、
「…いえ、それも、ありますが…」
と、答えた…
「…でも、名簿を見て、私に憧れたというのは、わかりますが、一体、どうするつもりだったんでしょ?…」
「…どうすると言うと?…」
「…だって、まさか、社員名簿を、会社のパソコンで、見て、実際に、私に会って、いきなり、結婚を前提に付き合って下さいというひとは、いないでしょ?…」
私の言葉に、
「…」
と、米倉正造は、絶句した…
「…仮に、今回、私をリストラするつもりでも、実際に会って、どうするつもりだったんでしょ?…」
私が、言葉を続けると、
「…」
と、米倉正造も、黙った…
黙らざるを得なかったかも、しれない…
「…それに、こう言っては、なんですが、あの松嶋さんが、私に憧れていたというのは、眉唾物というか…」
「…どうして、そう言えるんですか?…」
「…だって、面談のときには、ずっと、怒った顔をしていましたよ…」
「…怒った顔?…」
「…そうです…」
私の言葉に、
「…」
と、米倉正造は、黙った…
なんて、答えていいか、わからなかったのかも、しれない…
が、
少しして、
「…理由は、いくつか、考えられます…」
と、返答した…
「…どんな理由ですか?…」
「…例えば、言いづらいですが、高見さんが、写真で、見たイメージと、違うとか…」
「…イメージが違う?…」
「…ハイ…誰でも、写真で、見るのと、実際に会うのでは、イメージが違うでしょ?…」
これには、今度は、
「…」
と、私が、黙るしか、なかった…
たしかに、言われてみれば、その通り…
写真と本人は、違う…
要するに、目の前で、動き、しゃべれば、そのひとの持つ雰囲気が出る…
個性が出る…
写真では、寡黙で、おとなしそうに見える人間が、雄弁で、気が強かったり…
その逆もある…
また写真では、わからなかったが、妙に堂々として、頼りがいがあったり…
真逆になかったり…
いずれにしろ、写真と、実物は、違うということだ…
そして、そう言われると、黙り込むしか、なかった…
要するに、写真では、美人だったから、期待して会ったが、実物には、幻滅した…
そういうことだからだ…
米倉正造は、婉曲に、写真と実物は、違うと言ったが、ホントは、実物を見て、幻滅したと、言いたかったのかもしれない(笑)…
そして、それは、あると、私は、思った…
ずっと以前のことだが、会社で、ある男が、
「…でも、オレ…あのひとが、どういうひとなのか、わからないんだよね…」
と、ある女性社員のことを、言っているのを、近くで、聞いて、愕然としたことがある…
なぜなら、その男は、よく、その女性社員と、世間話をしていたからだ…
冗談を言い合っていたからだ…
が、
私は、すぐに、思い直した…
その男は、若いが、すでに妻帯者だった…
結婚していた…
だからかもしれない…
だから、そう言った発言をしたのかも、しれないと、思い直した…
誰でも、そうだが、学校や会社で、気軽に、おしゃべりをしているのと、実際に、いっしょに暮らすのは、違う…
そういうことだ…
学校や会社では、見たこともない素顔というか、違う一面を見ることができる…
例えば、会社では、職場で一番の働き者が、家では、なにもしないとか…
あくまで、会社という、自分が、評価される場所であるから、一生懸命働く…
あるいは、ひとから、よく見られたいという気持ちから、働く…
が、
家では、いつもゴロゴロしている…
そして、そんな人間は、日本中、いや、世界中、至る所に、いるだろう…
私は、思った…
そして、それと、同じかも、しれないと、思った…
要するに、見た目…
写真を見て、漠然と思い描いていた、私、高見ちづると、実際の高見ちづるは、違った…
そういうことかも、しれないと、思った…
言ってみれば、相手が、勝手に、私を、こんな女だと思って、会ってみたら、違った…
そういうことかも、しれない…
だから、怒った…
写真と、実物は、違うから、怒った…
そういうことかも、しれない…
そう思った…
いわば、相手=松嶋が、勝手に、私をこういう人間だと、決めつけていたが、会ってみると、違った…
だから、幻滅した…
そして、それが、顔に出た…
表情に出た…
そういうことかも、しれないと、思った…
そして、もし、ホントに、そういうことなら、私は、なんと、言っていいか、わからなかった…
怒っていいか、笑っていいか、わからなかった…
いわば、私は、被害者だった…
松嶋の一方的な思い込み=幻想と、違っていたから、幻滅した…
そんな一方的な思い込みと違ったから、幻滅して、私に辛く当たった…
もし、それが、ホントだとしたら、怒っていいか、笑っていいか、わからなかった…
ただ、一つ言えることは、
…私は、なにも悪いことは、していない…
それだけだった(笑)…