第58話

文字数 3,899文字

 もし、ウソだったら?

 もし、間違いだったら?

 その可能性に、気付いた…

 もし、米倉の負債が、当初、思っていた通り…

 いや、

 それ以上の負債だったら、どうする?

 いや、

 どうなる?

 真っ先に、水野は、米倉と別れようと思うだろう…

 当たり前だ…

 そうしなければ、水野は、米倉と共に、沈没してしまう…

 破産してしまう…

 そして、もし、それが、本当ならば、真っ先に、するのは、なにか?

 透(とおる)と、好子さんを離婚させることではないのか?

 ふと、気付いた…

 それならば、合点が行く…

 それならば、納得が行く…

 そして、もし、その通りならば、透(とおる)と、好子さんの結婚を壊そうとするのは、誰か?

 水野側の人間となる…

 決して、米倉の側の人間ではない…

 米倉の側の人間ならば、もし、米倉が、水野に見捨てられれば、米倉が、路頭に迷うことが、痛いほど、わかっている…

 だから、米倉の人間が、好子さんの結婚を壊そうとは、思わない…

 が、

 果たして、そうか?

 現に、あの秋穂は、好子さんと、透(とおる)の結婚を、壊そうとした…

 透(とおる)と、親密な関係になった…

 そして、それが、原因で、水野と米倉の提携が、解消した…

 が、

 透(とおる)と、好子さんは、まだ離婚してない…

 つまりは、会社は、ケンカ別れしたが、その象徴と思われた水野、米倉の跡取り同士は、結婚したままだ…

 これは、冷静に考えれば、変とも、言える…

 二人が、結婚したから、両家の経営する会社同士が、合併に向けて、提携した…

 そして、二人の結婚が、壊れそうだから、二人の離婚に先駆けて、会社同士は、別れた…

 提携は、解消した…

 が、

 まだ、提携の象徴の本人同士は、離婚していない…

 これは、一体、どういうわけだ?

 私は、思った…

 いや、

 違う…

 あの秋穂という娘は、澄子さんの娘…

 正造の姉、澄子の娘…

 だから、好子さんに代わって、透(とおる)と、結婚する…

 そういうことかも、しれない…

 例え、透(とおる)が、好子さんと別れても、あの秋穂と、結婚すれば、同じ…

 同じ米倉家の血を引く女と、結婚することになる…

 だから、同じ…

 これまでと、同じ…

 米倉は、引き続き、水野の支援を受けることが、できる…

 そういうことだ…

 いや、

 違う…

 明らかに、違う…

 好子さんと、秋穂は、違う…

 いや、

 好子さんと、澄子は、違うというのが、正しい…

 好子さんと、秋穂の母、澄子とは、違うというのが、正しい…

 では、なにが、違うのか?

 好子さんは、米倉の正統後継者…

 米倉本家の血を引く、ただ一人の人間だ…

 澄子さんは、正造と、同じく、平造の子供…

 米倉の分家の出身である、平造の子供たち…

 だから、正造と澄子と、好子さんは、血縁関係がない…

 そして、その事実は、後で、わかったが、考えて見ると、最初から、その事実は、わかっていたかも、しれない…

 ヒントが、あったからだ…

 それは、あの澄子さんが、いつも、好子さんをイジメていたこと…

 好子さんより、10歳以上、年上の澄子さんが、どうして、好子さんをイジメていたか?

 最初は、わけがわからなかった…

 だから、最初は、嫉妬だと、思った…

 澄子さんの好子さんに対する嫉妬だと、思った…

 澄子さんのルックスは、平凡…

 決して、ブスではないが、平凡そのものだった…

 対する好子さんは、すでに、何度も言うように、美人…

 女優の常盤貴子さんの若い頃を彷彿させる美人だ…

 だから、好子さんの美貌に、嫉妬して、澄子さんは、好子さんを、イジメていると、思っていた…

 なにより、そんな事例は、世間にありふれている…

 いかに、兄弟姉妹といえども、ライバルというか…

 なまじ、血の繋がりがあるゆえに、かえって、敵対視する場合も、多い…

 姉妹でも、一方が、美人で、もう一方が、平凡…

 それに、嫉妬して、イジメる話は、幾度となく聞いたことがある…

 だから、私も、最初は、そうだと、思った…

 平凡なルックスの澄子さんが、美人の妹の好子さんをイジメていると、思っていた…

 が、

 違った…

 真実は、好子さんが、米倉の正統後継者だから…

 澄子さんは、それを、知っていたのだろう…

 だから、余計に、好子さんが、憎かった…

 それが、真実だろう…

 と、ここまでは、澄子さんと、好子さんの話…

 問題は、ここからだ…

 果たして、あの秋穂が、透(とおる)と、関係したからといって、あの秋穂が、米倉の正統後継者と、呼べるか、否か、だ…

 極端な話、あの秋穂が、好子さんを追い出して、透(とおる)と、結婚したとする…

 秋穂は、澄子さんの娘…

 だから、仮に、透(とおる)の妻が、好子さんから、あの秋穂に代わっても、米倉一族の娘と、結婚する事実に、変わりはない…

 が、

 すでに、何度も言うように、秋穂は、米倉の正統後継者ではない…

 米倉の正統後継者は、あの好子さん、ただ一人…

 それは、好子さんが、米倉の先代当主、平造が、結婚した、米倉本家のお嬢様の実の娘だからだ…

 だから、好子さんだけが、米倉本家の血を継ぐ正統後継者…

 他は、すべて、単に、米倉の分家の血を引く、人間に過ぎない…

 だから、仮に、あの秋穂さんが、透(とおる)と、結婚したとしても、周囲が納得するかと、いう問題がある…

 周囲=米倉一族が、納得するかと、いう問題がある…

 米倉率いる、大日グループには、数多くの米倉家の人間が、働いている…

 その人間たちが、澄子さんの娘の秋穂さんが、透(とおる)と、結婚することを、納得するか、どうかの問題がある…

 たしかに、秋穂さんの祖父に当たる、平造は、米倉の功労者…

 米倉を…大日産業を、巨大にした…

 が、

 その反面、莫大な負債を作って、結局、にっちもさっちもいかなくなった…

 だから、平造は、米倉の功労者と同時に、罪人というか…

 いわば、功罪相半ばする人物だ…

 その人物の血が繋がった人間を、米倉の代表として、認めるか、否か?

 だいぶ、難しいだろう…

 また、あの平造とて、それは、本意では、あるまい…

 あの米倉平造の目的は、好子さんに、米倉を継がせることだった…

 米倉を巨大にして、好子さんに、渡す…

 それが、平造の夢だった…

 そして、なにより、平造は、好子さんを愛していた…

 好子さんを溺愛していた…

 だから、それを見た、息子の正造が、平造が、好子さんを狙っていると、誤解した…

 女好きの平造が、血の繋がってない娘の好子さんを狙っていると、誤解したのだ…

 だから、好子さんに、良く似た、私、高見ちづるを、平造に与えるべく、正造は、私を米倉家に招いた…

 私を、好子さんの身代わりにしようと、したのだ…

 そして、あの澄子さんにとっては、実父の平造が、好子さんを溺愛するのも、また、好子さんを許せない一因だったのだろう…

 血の繋がってない娘を、血の繋がった実の娘の自分より、溺愛する…

 それが、許せなかったに違いない…

 が、

 平造にしてみれば、同じ米倉一族とは、いえ、分家の末端に近い自分が、本家のお嬢様と、結婚した…

 その恩に、報いるべく、本家のお嬢様の娘を可愛がるのは、当然のことだったかも、しれない…

 いずれにしろ、平造が、好子さんを溺愛することが、数々の軋轢を生んだ…

 澄子さんが、好子さんを、イジメる反動で、好子さんは、澄子さんの夫の直一さんを、イジメた…

 澄子さんの婿養子である、直一さんは、どうしても、立場上、好子さんに、逆らうことが、できなかった…

 直一さんは、大日産業の取締役でもあり、社長である義父の平造が、溺愛する好子さんに、反撃することなど、できるわけがなかったからだ…

 私は、そんなことを、思い出していた…

 そして、それを、考えれば、考えるほど、疑問が、湧いた…

 なぜなら、今、現在、好子さんは、透(とおる)と、離婚していない…

 が、

 すでに、米倉と、水野の提携が破綻した…

 つまりは、この事実を見る限りは、水野は、米倉から手を引いたということだ…

 破綻寸前の米倉から、逃げ出したということになる…

 つまりは、水野は、安全圏に、逃げ込んだということだ…

 が、

 何度も、言うように、好子さんは、透(とおる)と、離婚していない…

 つまりは、極端に言えば、米倉の経営する大日産業は、水野グループから見捨てられたが、好子さんは、水野家から、見捨てられては、いないということだ…

 ハッキリ言えば、あの秋穂という娘と、透(とおる)の火遊びの写真は、水野にとって、とてつもなく有利に運んだということだ…

 あの写真を契機に、水野は、米倉を切り捨てることができた…

 水野は、米倉との提携を解消することができた…

 つまりは、あの秋穂という娘の行動は、結果を見る限り、水野のためになったということだ…

 米倉の人間にも、かかわらず、水野のために、動いたということだ…

 現時点では、誰が見ても、米倉のためではなく、水野のために、動いたということだ…

 これは、冷静に考えれば、おかしい…

 米倉の人間が、どうして、水野のために、なることをしたのだろうか?

 それとも、これは、単に結果…

 単なる結果?

 現時点での結果…

 現時点では、あの秋穂は、透(とおる)と、結婚していない…

 が、

 半年後、

 一年後は、わからない…

 透(とおる)は、好子さんと離婚して、あの秋穂と結婚しているかも、しれない…

 ただ、現時点では、秋穂の行動が、水野のためになった…

 それだけかも、しれない…

 が、

 やはり、腑に落ちないというか…

 いくら考えても、納得できなかった…

               
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み